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814 野生と文明
しおりを挟むワーキャー逃げていくタヌキ娘とヘビ娘。
ふたりの侵入者をドタドタ多勢が追いかけていく。
すっかり人気がなくなったエレベーター前。
ぽつんと床に残されていたのは一本の鉄パイプ。
ポンっと化け術を解き、おれは「よっこらせ」と立ち上がる。
一見すると自分たちを囮にして、探偵を先へと行かせたかのような状況ではあるが、じつはそうじゃない。たんに混乱して置いてけぼりにされただけである。
おれはジャケットの内ポケットから愛用のガラケーを取り出し、ポチッとな。
とたんに小さな画面に表示されたのは、赤い点。
伯魅に持たせたネックレスには高性能な発信機が内蔵されており、それを辿ればどこにいるのかは一目瞭然。
「芽衣にもそのことはちゃんと教えてあったはずなんだがなぁ。なぜだかいきなり自分の鼻を頼りに走り出しやがってからに……ったく、しょうのないやっちゃ」
おれは画面を見ながらエレベーターへと乗り込む。
対象に近づくほどに赤い点はより大きく、そして明滅が激しくなるという。
助手が野生のチカラにて突っ走るというのならば、探偵は文明の利器にて伯魅のもとを目指す。
えっ、もしも途中で敵に発見されたらどうするのかって?
そんなもの、化け術で適当なモノに化けてやり過ごすさ。
◇
尾白がエレベーターの操作パネルを前にして「どれにしようかなぁ」と押すボタンを悩んでいた頃。
多勢を引き連れて逃げていた芽衣と白妙幸はというと、適当に駆け続けたところで、ちょうど戦うのに具合がよさそうな場所へと辿り着く。
そこは長テーブルがいくつも並ぶ食堂であった。広さはちょっとした披露宴会場ほどもあって、ここでならば存分に戦える。
ちょいとお行儀が悪いものの、テーブルの上に飛び乗ったのは白妙幸。
そのまま縦長の足場を駆けて奥へと向かっていると、同じくテーブルにのぼってきた敵勢のひとりが前方に立ち塞がる。
剣呑な気配を身にまとう外国人の傭兵風の男。手にはアーミーナイフ。室内ゆえに跳弾を警戒して、銃火器類の使用は控えるつもりのようだ。かといって生け捕りにしようという気はないらしく、いきなり距離を詰めては必殺の刺突にて仕留めにかかる。
迫る切っ先と殺意。
対する金髪リーゼントのヤンキーヘビ娘は、怯むことなくこれに立ち向かう。
刺突をしゃがんでかわし、懐へと潜り込もうとするヘビ娘。
だがそれをさせじと閃く刃。手元にて素早く逆手へと持ち直したナイフが串刺しにせんと急降下!
が、その刃は途中で止まった。
潜り込んでいるヘビ娘が、相手のナイフを持つ腕の肘を、下からがっちり掴んでつっかえていたからである。
あわてて腕を引き抜こうとした傭兵風の男。だが直後にゴキリと厭な音がして、腕全体にしびれが走ったもので、顔をしかめることになる。
肘に深く食い込んだヘビ娘の親指、これが肘関節を半ずらし。
関節技! 組みつかれたらマズイと判断した傭兵風の男は、膝蹴りにてヘビ娘を引きはがそうと試みるも、それもまた叶わない。
「ぐぬっ!」
くり出そうとしていた方の足の甲を踏まれており、膝が持ち上げられない。先の先を取られて動きを封じられている。
ならばと自由の利くもう一方の腕にて事態を打開しようとするも、それよりも早く炸裂したのはヘビ娘の肘打ち。ちょうどレバーの辺りを打ち抜いた一撃にて、たまらず身をくの字に折った傭兵風の男。顔が下を向いたところで、飛んできたのは裏拳。
肘打ちからの裏拳。
モロにくらった男は大きくのけ反るも、その首がガクンと引き戻される。
襟首をしっかりと握っていたヘビ娘による、強烈な引き手。
これにより首が振り子のように揺れた傭兵風の男。その首を「おらっ」と刈り取ったのはヘビ娘の膝頭。
ゴツンと重たい音がして、鼻血を噴いて崩れ落ちた傭兵風の男。
その身を投げ飛ばし、次の獲物へと狙いを定めて襲いかかるヘビ娘。
どうやらヘビ娘は手強そうな相手から先に片付けるつもりのようだ。
一方でテーブルの下へと潜り込んだタヌキ娘は、その小柄と小回りの良さを活かしてはちょこまかちょこまか、群がる敵勢を翻弄する。
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