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791 アフロとタヌキ
しおりを挟む遥かいにしえの時を越えて蘇ったアフロ。
地下の食料品売り場にてたらふく盗み喰いをしたから、エネルギーの充填はすでに完了済み。
現代とは比べものにならない過酷な時代を生きてきた古強者が「シュッ、シュッ、ズバッ」とシャドーボクシングで風切り音を唸らせながら、悠然と迫る。
「なんだよあの左の拳……、当てる瞬間にひねりを加えてスクリュー気味のフックになっていやがる。くっ、このアフロ、イケメンゴリラばりにやばい相手だ。まともにやりあったら勝ち目はねえ。どうする……、定番の釣り鐘に閉じ込めちまうか? でもあの様子だと内側から叩き割られそう。ここはより慎重にチタン合金製のボックスにすべきか?」
イケメンゴリラとは、姫路アニマルキングダムの近衛師団・位階第三位の佐藤晋太郎のことである。健康的によく焼けた肌。オニキスの宝石のような双眸。顔もカラダも彫りが深くて筋骨隆々。そしてなぜだかおれをマブダチ認定している。独岩龍拳闘術の遣い手にてめちゃくちゃ強い拳闘士。
ちなみにそんなイケメンゴリラは、マッチョ好きの千祭史郎の好みどストライクにて、ドーベルマンカマはやつにメロメロだ。
どのくらいメロメロなのかというと、姫路アニマルキングダム公式グッズを買い漁り、トレーディングカード(近衛師団編)にて、佐藤晋太郎のシークレットキラキラカードをゲットするために箱買いしまくるぐらいに。
あっ! 千祭の野郎、やたらと突っかかってくるとおもったら、ビジネスのみならずラブ的な要素も絡んでいたのかよ。すんごい、迷惑なんですけど!
なんぞということは、とりあえず脇へとうっちゃって……。
あらためて落ちついて考えよう。
はたして本当に可能か?
なにせアフロは素早い。
衛生関連には人一倍気を使い、これを脅かす存在にはつねに注意を払っている、あの食料品売り場のおばちゃんらの厳しい目をもってしても捉えきれないほどに。
本当にやれるのか? 尾白四伯。
おれは自問自答する。やるのならば勝負は初手の一回こっきり。おそらく二度目はない。そして中途半端な大きさに化けたのでは逃げられる。となれば大きめな箱に化けて、そこから身を縮めるのが妥当であろう。だがしかし、イベント会場にはごちゃごちゃと展示物が並んでいるから、ひらけた場所がない。大きくなるにしても限度がある。せいぜいコンテナ半分ぐらいが関の山。三メートル四方ぐらい。ちっ、できれば倍は欲しいところ。どうする、いっそのこと展示物ごと閉じ込めちまおうか……。
おれはタイミングとベストポジションを確保するべく、じりじり後退。
だというのにアフロはなんら警戒した様子もなく、おかまいなしにずんずん近づいてくる。
頬を伝う冷や汗を拭い、いよいよおれが作戦を決行しようとした矢先のことであった。
「待ちなさい」
遮ったのは、誰あろう芽衣であった。
床に拳をついて立ち上がるタヌキ娘。
ぺっと血の混じったつばを吐き、口元を拭ってからファイティングポーズをとる。
「あの程度で勝ったつもりなの? トドメも刺さずに背中をみせるだなんて、とんだおまぬけさん」
わざと挑発的な言葉を並べる芽衣が、ちらりとこっちを向いた。その目が無言で語っていた。「自分にやらせてくれ」と。
だからおれはコクリとうなづく。
するとここでおもむろに口を開いたのは王妃さまのミイラ。
「ほう、御前試合とは懐かしい……。よかろう、ならばその舞台をわらわが整えてやる。さぁ、存分に競い合うがよいぞ」
言うなりしゅるしゅるのびたのは複数の包帯たち。
あれよあれよという間におれたちを取り囲み、たちまち出現したのはロープ代わりに包帯が使用された四角いリング。
即席の闘技場である。
やんごとなき御方らは、どうやらここで雌雄を決せよとの思し召しらしい。
「ここはわたしにまかせて」
という芽衣に甘えて、おれはリングの外へ。セコンドにつく。
かくして始まるアフロ対タヌキ娘の時間無制限一本勝負。
あいにくと戦いの開始を告げるゴングはないので、王さまのミイラが口で「カーン」と言った。
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