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775 飛び鱗合戦
しおりを挟む財部さんの飛び鱗。怒涛の攻撃から逃げ惑ううちに、いつのまにか一か所に集められていた三人娘。
まんまと誘導された! 周囲を刃地獄に囲まれ、これ以上は逃げられない。
窮地へと陥った芽衣たちに、財部さんが告げる。
「どうする? もう降参しちゃう? その場合は試練失敗で、また初めからやり直しだけど。あとペナルティとして里に滞在中、ご飯のオカズはナシね」
冥道での試練、じつはリトライは可能。だがその代償としてオカズを没収される。梅干しのひとつ、たくわんのひと切れさえつかない。ただし、塩は生きるのに必要だから適量のみ許す。あとおかわりは二膳まで。
そう聞かされて、一瞬、目を泳がした芽衣と伊佗佳。
頭の中で素早くいろんなことを天秤にかける。
「朝、昼、晩、ひたすら白飯オンリーか……。くっ、地味にキツイ」と芽衣。現代っ子の肥えた舌には拷問にも等しい食事制限。
「村のコンビニは使えねえだろうが、あたいにはカップラーメンやお菓子のストックがある。ほんの数日ぐらいなんてことねえ」とは伊佗佳。こちらはわりと涼しい顔。いざともなればどうとでもなるとたかをくくっている。でもそんな余裕はすぐに消えた。
これはあくまでペナルティ。そんな抜け道、はなから許されるはずがない。
財部さんはかま首をふるふる。
「あー、ダメダメ。そんなの、リトライが決定した時点で即没収だから」
屋敷の者らが自室に踏み込み、家探しして根こそぎさらう。
ついでに持ち物検査も入念に行うと言われて、伊佗佳は「なっ! そんなの横暴だ。プライバシーの侵害反対っ!」
しかし伊佗佳の抗議の声は無視された。
そして「あと十数えるうちにどうするか決めてね。じゃあ、十、九、八……」と財部さん、とっととカウントダウンを始めてしまう。
焦る芽衣と伊佗佳。
けれどもここで、ずっとだんまりであったタエちゃんが唐突に動く。
「テンカウント? そんなもん必要ねえ!」
言うなりタエちゃんが投げつけたのは、足下に刺さっていた鱗のうちの一枚。
相手の顔面、右目を狙った容赦のない投擲。
だが財部さんは、わずかに頭を下げただけで、ひょいとこれをかわす。「やれやれ、悪あがきを」とため息をつくも、それはすぐに驚愕へと変わった。
なんと! タエちゃん。
これを皮切りにして、次々の投擲を開始したのである。
触れたらスパッと、飛び鱗はたしかに脅威。
だが裏を返せば、それはとても有益な武器であるということ。
でもって、そんなシロモノを景気よくばら撒いてくれたもので、投げるモノにはことかかぬ。
自分たちを囲む刃地獄。
これを逆転の発想にて、武器の山と考えたタエちゃん。
「ほら、芽衣たちもぼさっとしてんじゃねえ。じゃんじゃん投げろ。遠慮はいらねえ。弾なら腐るほど落ちてるんだからな」
言われるままに、芽衣と伊佗佳も鱗を手にして「えいや」と投げる。
はじめのうちこそは、うまいこと狙い通りに飛ばなかったけれども、二度三度とやるうちにコツを掴んで、ひゅんひゅん回転しながら真っ直ぐ飛ぶように。
よもやの反撃に財部さんは「わっ、ちょ、ちょっと。顔面ばかり狙わないでよ。目に当たったら、本当に危ないんだから」とあわてる。
的がデカい財部さん、当て放題。
三人娘たちから寄ってたかって飛び鱗を投げつけられ、「わかったよ。そっちがその気なら、こっちにも考えがある!」とふたたび飛び鱗攻撃を開始。
かくして始まった飛び鱗合戦。
ひゅん、ひゅん、びゅん、びゅん、きんきん、かんかん、しゅばばばば。
激しい応酬。
財部さんは一歩も引かない、というか大きな蛇体のせいで引くに引けない。
一方で芽衣たちも先ほどとはうって変わって逃げない。
いや、もはや、逃げる必要がなくなったのである。それもまた周囲にある大量の鱗のおかげ。
攻撃に使えるということは、防御にも使えるということ。
利き手にて鱗を放ち、もうひとつの手にもった鱗をうちわがわりにしてぶんぶん、向かってきた飛び鱗をペチンとはたき落とす。
ちくちくと蓄積される疲労とダメージ。
トータルでは被弾を重ねている財部さんの方が大きい。
とはいえさほど効いてはいない。蛇体そのものが固い鱗と厚い真皮に守られているからだ。
ゆえに不毛な投げ合いを止めて、すぐさま直接攻撃に移ればいい。
だが財部さんはそれをしなかった。
わざとなのか、意地なのかは、わからない。
必死の芽衣たちにはそれを考えている余裕はなかった。
◇
ピピピピピ……。
鳴り響くタイマー音。
それと同時に攻撃をやめた財部さん。
「おや、夢中になるうちに十五分が過ぎちゃったか。おめでとう、試練クリアだよ」
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