764 / 1,029
764 環境
しおりを挟む上から見ると、まるでしゅるしゅる地を這うヘビのように縦長な地形をした集落。
緑豊かな山間部ののどかな風景。その中に点在する近代建築の家たち。
そのせいか高級別荘地のように見えなくもない。
極めつけは村の中央付近にあるコンビニエンスストア。
最寄りの駅前からこっちにくるまでの道筋には、店どころか自動販売機のひとつもなかったというのに……。
「なんでこんなところに? 見たことないマーク。いわゆる地方のローカルコンビニなのかしらん」
ぽつんと一軒だけの店舗。
不思議がる芽衣。
「あぁ、あれは村営のコンビニだよ。ほら、買い物難民とかがニュースで話題になってただろう。あれ対策だよ。買い物ができるところがないと不便だからって、おばばさまが作ったんだ。ちなみに通販での商品のやり取りも一手に引き受けてるんだ。店舗受け取りにしたら送料タダなんだぜ」
それどころかなにかと不自由だからと、ネット環境やら携帯電話の電波状況も整え、集落内ではフリーWifiも完備されているそう。
タエちゃんから教えてもらって、実際に自分のスマートフォンを取り出し画面で確認してみると、たしかにアンテナマークがきちんと三本立っているし、Wifiのマークも表示されていた。しかも通信状況が最良の状態で!
「うそっ、街中にあるうちの事務所でもたまに電波が悪くなるのに」
「いや、芽衣……、おまえのところはたぶんちがう。電波うんぬんの問題じゃなくて、へんなオマケがいろいろあるせいだろう」
尾白探偵事務所が入っている雑居ビルのある土地は、なにか怪しい雰囲気がぷんぷん。
全体が陰気でじめっとしており、せっかくリフォームしてもたちまちくすむガッカリ具合。
誰もいないはずの五階の空き部屋からはちょくちょく異音がする。借り手がちっとも見つからない。ようやく決まってもすぐに逃げ出す。
白い腕の怪異が建物内をにょろにょろしている。
廊下の蛍光灯がやたらと切れがち。
怪本どもがゴキブリみたいにカサコソそこいらを徘徊。
根性なしのエレベーターがしょっちゅう止まる。
階段を歩いていると、ときおり足音がついてくる。
一階はよくわからない仏具屋で店先に胡散臭い像を飾っており、二階のスナックでは化石タヌキが夜な夜な酒焼け声にてカラオケで「ぼえ~」と吠えての乱痴気騒ぎ。三階はよくわからない。貿易会社のプレートを掲げているが、たぶんダミー会社。
あとときおりハトやらカラスが、やたらと屋上の共有スペースに群がっているときがある。
極めつけは、怪奇探偵と名を馳せている尾白四伯の存在。
いくつかそれっぽい案件に関わったのが運の尽き。気づいたら周囲からそう呼ばれるようになっており、あちこちから送りつけられてくる心霊写真の束やら不気味な人形とか。いわくつきの品がわんさか届くもので、片づけがとってもたいへん。捨てても捨ててもきりがないので、市指定の事業所用のゴミ袋代がばかにならない。
あらためて指折り数えてみるとヒドイ就労環境。
芽衣がショックを受けているうちにも、彼女たちを乗せた軽トラックは信号機ひとつない道をゆるゆる進み、ヘビの里を奥へ奥へと。
◇
集落を突っ切るように進んだ先にて、ででんと構える白塗りの壁に囲まれた邸宅。
ここがヘビの里の長の家。
まるで大名屋敷みたいにて、立派な門を見上げながら「儲かってるなぁ」とつぶやかずにはいられない芽衣。「だよなぁ」とタエちゃんも隣でウンウン。
そんなふたりをよそに、ここまで案内してきた財部さんが、門に設置されてある防犯カメラに向かってにこやかに手を振る。
とたんにガチャンと音がして、ゆっくりと動きだす門扉。
脇にある通用門の方ではなくて正門の大扉が開く。
それすなわち家主が客の来訪を正式に歓迎してくれているという証。
おずおずと大門を潜れば、白い玉砂利が敷き詰められた広い前庭がおめみえ。大型バスが軽く二十台は停められそうな広さ。年賀の時とかで一族が勢ぞろいするときには、臨時の駐車場となって、来客のクルマで埋まるという。
その先の屋敷は贅を凝らした和風建築。
見た目は二時間サスペンスドラマに登場する、お茶とかお華の家元とかの屋敷そのまんま。やんごとない一族にて、奥ではきっとドロドロした愛憎劇がくり広げられ……。
「てねえからな」
「あっ、ごめん。うっかり心の声が漏れちゃってたか」
タエちゃんにつっこまれてペロリと舌を出す芽衣。
するとタエちゃんもにやり。
「まぁ、オレもはじめて両親に連れられてきたときには、似たようなことを考えたけどな」
いかにも事件が起きそうなシチュエーションが満載ながら、おばばさまがしっかり手綱を握っているおかげで、いまのところたいした問題は起きていないんだと。
おばばさま、コンビニのことといい、集落の環境整備のことといい、通販事業のことといい、相当のやり手のようだ。
そんな人物に稽古をつけてもらう。
いよいよ玄関という段になって、芽衣はぶるると武者震い。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートの威力はすさまじくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
公主の嫁入り
マチバリ
キャラ文芸
宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。
17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。
中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
※不定期 18時更新※(なるべく毎日頑張ります!)
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる