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749 木花咲耶
しおりを挟む逃げたかげりを追う燐火、螺旋階段を駆けあがる。
天守閣のさらに先、屋上に設置されてある展望台へと。
しかし外へと一歩を踏み出したとたんに、眼前を埋め尽くしたのは煙幕。かげりが放ったもの。
視界を塞がれ燐火の動きが鈍くなる。そのタイミングを狙って首筋へと迫るのはクナイ。
かげりによる投擲。燐火はこれをかがんで回避しつつ、身を低くしてそのまま前進。いっきに煙の中から脱出しようと試みる。けれどもそこにかげりによる第二射が襲いかかった。燐火の身にまとわりついている煙が目印となり、狙う側からすると動きが手に取るようにわかってしまう。
飛び出したところに次々と投げ込まれるクナイ。目標へと命中しぶすりぶすり、獲物に突き刺さる。たしかな手応え、かげりがにやり。
が、次の瞬間、ごろんと床に転がったのは丸太棒。
燐火による空蝉の術!
謀るつもりが謀られた?
かげり、危機を察してすぐさま大きく横っ飛び。
これによりいつのまにか背後へとまわっていた燐火による一閃をぎりぎり回避する。
しかし完全には避けきれず。前髪をわずかに斬られて、かげりがチッと舌打ち。タンタンタンッ、三度ほど軽やかにバク転をしていったん距離をとろうとする。
させじと追い打ちをかける燐火、小太刀による刺突をくり出す。
いっきにふたりの距離がせばまる。
迫る切っ先。かげりはさらに後退しようとするも、すでに天守閣の屋根の端。これ以上はいけない、追い詰められた。だがかげりはかまわず屋根の上から勢いよく飛び出す。
そのまま落下。
……はしない。宙に弧を描きその身がぐるりと旋回。分銅つきの組紐だ。いつのまに放っていたのか、それによって落ちることなくサーカスのブランコのように華麗に空中遊泳。かげりは天守閣の反対側へとひらり舞い戻る。
ふたたび対峙することになったかげりと燐火。
互いにすぐさま次なる術をくり出そうとするも、はっ!
足下の異変に気がつき、ふたりともに急ぎその場を離れる。
直後のこと。激しい揺れが生じる。あちらこちらから轟々と炎が噴き出し、天守閣が紅蓮に包まれた。
◇
斬っ! 紅の一閃。
ずるりと動いたのは燃え盛る天守閣の上半分。
まるで映画のコマ送りのようにゆっくりとズレていく。ついには火の粉をまき散らしながら、炎の大半を道連れにして崩れ落ちてしまった。
内側からバッサリ斬られてあらわとなった天守閣の内部。
ぷすぷすと燻る中、たたずむのは緋色に輝く刃を持った宮本めざし。
もとから卓越した剣の技量の持ち主であったが、大江一門の秘宝である「炎龍の剣」を手にし、これを御することで獣外領域へと足を踏み入れた男。聚楽第の総帥ウルに絶対の忠誠を近い、いまやその片腕とまで呼ばれるようになったネコ剣客。
宮本めざし、首をごきごきと鳴らしつつ、焼け跡の隅にある釣り鐘をギロリとにらむ。
「いつまでそうしているつもりだ。いい加減に正体をあらわせ。でなければそれごと中の娘も叩き斬るぞ。それとも道成寺縁起をなぞってじっくり丸焼きにしてやろうか」
たんなる脅しではない。
いまの宮本めざしがその気になれば兜割りどころか、釣り鐘割りすらも可能だろう。
そのことをよく知るおれは、言われるままに化け術を解く。
とたんに「ぷはぁ」と大きく息を吸ったのは、釣り鐘の中にいた芽衣。
あの激しい爆発のさなか、身を隠すところも逃げ場もない屋内。だからおれがとっさに釣り鐘に化けて守ってやったというのに「四伯おじさんの中、なんかちょっとむわんとしてヤニ臭い」と文句を垂れる。おかげでおっさんはピュアハートに重篤なダメージを負った。
「英円だけじゃなくて、まさかあんたまでかげりの口車にのせられていたとはな」
ちょっと八つ当たり気味におれが言えば、宮本めざしは「なぁに、大会前のほんの肩慣らしだ。それに一度こいつの感触を実戦でたしかめておきたくてな」と答えつつ、腰からさらなる一刀を抜く。
すらりと美しい容姿をした白銀の太刀。華がある。陽光を受けるとほんのり桜色に煌めくのがとても艶やか。
「こいつは暮来博士が炎龍の剣のデータをもとにして作った『木花咲耶(このはなさくや)』だ。本家には劣るものの、なかなかの業物だぞ」
宮本めざしが遣う舎乱螺二刀流(しゃらんらにとうりゅう)は、本来であれば大小の二刀による剣武。しかし獣外の領域へと踏み込んだいま、宮本めざしは大と大の二刀を自在に操れるチカラを得ている。
いよいよ完成形へと近づきつつある宮本めざしの剣。それは数多の剣客たちが恋焦がれ目指すも叶わなかった前人未踏の境地。
そんな男が世にも稀なる強力な二刀を持つことで、さらに凶悪さを増している。
だというのにこちらときたら、頼りの芽衣はパワーダウン中。
燐火さんに助力を請いたいところだが、あちらはかげり相手で手一杯のご様子。
前回、絶海の時計島でやりあったときよりも攻略難易度が爆上がり!
う~ん、どうしよう……。
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