おじろよんぱく、何者?

月芝

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748 ゲストその2

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 いよいよ聚楽第が本格的に動く。
 今回の騒動はその前座にすぎない。

「っていうか、かげり。どうしてわざわざおれたちを巻き込んだ? それにここはいったい何なんだ?」
「ここ? ここは忍者ワールドっていう海外のつぶれたテーマパークを移築したもので、聚楽第の虎の穴、訓練施設よ。でもってわざわざ探偵さんたちを巻き込んだのは、私個人の趣味もあるけど、せっかくだからこれを直接渡そうかとおもってね」

 言うなり投げて寄越してきたのは一通の招待状。
 それは獣王武闘会本戦のチケット。
 ただし観客としてではなくて、参加者としてのものであったが……。

 獣王武闘会。
 それはケモノたちの、ケモノたちによる、ケモノたちのためだけの武の祭典。
 腕に覚えありの猛者どもが集い、磨きあげた武芸を存分に披露し競い合う。老若男女、無手得手が入り乱れて戦う。
 西と東で予選を行い、これを勝ち残った者同士が本戦にて雌雄を決する。
 なお今回は団体戦となっており、西の代表は姫路アニマルキングダムの選抜、東の代表はロストブラッドというチームがすでに決まっている。
 だというのに参加しろとは、これいかに?

「もうとっくに気づいているとおもうけど、今回の大会、うちの意向がかなり強く働いているから。せっかくだから大会をおおいに盛り上げようとおもってね。東西の予選で見かけた有力チームをまとめてご招待することにしました。ついでに鬼や天狗たちも、ね。ちなみにいちおう参加自由ってことにはなってるけど……。袖にされたら私、泣いちゃうかも」

 シクシクとウソ泣き、大根芝居をするオコジョくのいち・かげり。
 その真意は「こなかったら、わかっているだろうな」という脅しである。
 彼女はとにかくオモシロイことに目がなく、「ただ楽しいから」という理由だけで病原菌をバラまくバイオテロをたくらんだりする愉快犯。おれが知る女たちの中でも屈指の性質の悪さを誇る。
 もしも招待に応じなかったらどうなることか。
 たぶんおれの身どころか、高月の地が危うい。
 鬼や天狗たちにしても、今回の一件で散々にコケにされた手前、無視はできないだろう。それどころか「いい機会だから、ここいらで少し調子に乗っている毛玉どもを懲らしめて、どちらが上の立場なのかということを教えてやろう」とか超上から目線で考えそう。

 招待状を渡したことでおれとの用件はもうすませたとばかりに、お次にかげりが顔を向けたのは燐火さんの方。

「おひさしぶりですね。あいかわらずくだらない忍びの掟とやらに縛られて生きているようで、なによりです」

 慇懃無礼な挨拶。声の響きには侮蔑の意がありありと。
 それへの返答は棒手裏剣の一投。
 しかしそれはかげりの手にあるクナイによってあっさりはじかれる。
 目元を細めたかげり、いきなりきびすを返し駆け出した。向かったさきには天守閣の屋根に設置されてある展望台へと続く螺旋階段。
 すぐさまこれを追う燐火さん。
 ふたりの忍びが風となり、またたくまに姿を消す。

  ◇

 残されたおれと芽衣。
 いきなりすぎて完全に置いてけぼりを喰らう。
 はっと我にかえってすぐに彼女たちを追いかけようとするも、その時のことであった。

 ガチャリ。

 何かが動く音がした。
 ここ天守閣には十体もの甲冑が飾られている。
 音からすぐに連想したのは、それらが動きだしたのかということ。
 ただの鎧ではなくて、中にアニマルロボでも仕込んでいたのか。
 おれと芽衣は背中合わせとなり、周囲を警戒。視線を素早く動かし、壁際に飾られている甲冑たちの動向を端から順に確かめる。
 けどおれの視界にあった五体に変化はなし。

「芽衣、そっちはどうだ?」と声をかければ「ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ……。あれ? 一体足りない」との返事。

 消えたのは十体中で唯一、誰の所有かわからなかったもっとも地味な甲冑。
 それが動きだして、こちらの隙をうかがっている。
 いっきに増した緊迫感により、額から汗がたらり。
 目に入ったら染みるので、おれはすぐにこれを上着の袖で拭うも、拭ったはしから新しいのが垂れてきやがる。

「……ちがう。そうじゃない。部屋の温度そのものがあがっているんだ。てっきり冷房をケチっているのかとおもったが、熱を発する何かがここにある?」

 直後に室内の隅の暗がりにぼっと浮かんだのは火の玉。

「四伯おじさんっ!」

 芽衣が警戒を促した次の瞬間、火の玉が動きだし、その場にてぐるぐると渦を巻く。尾をひく焔。闇が払われて、ぼんやりと照らし出されたのは奥に潜む甲冑姿。
 消えた甲冑、その手に握られていたのは紅蓮の焔を宿す凶刃。

「そいつは炎龍の剣……。おまえはまさかっ!」

 おれの声に被せるかのようにして刀から噴出した火炎が周囲を席捲、天守閣内はたちまち緋色に染まる。熱量がグンと増す。とたんに空気が変質。急激に熱せられ膨らむ。行き場を失くしたチカラ。その奔流が出口を求め殺到。しかし押し合いへし合いにてうまく潜れず。そうしている間にも膨張は止まらない。
 カッと閃光が生じたとおもったら爆発が生じる。
 天守閣内部が破壊の嵐に見舞われた。


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