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744 吊り橋の攻防
しおりを挟む英円の奥義により少なからずダメージを受けていたところに加えられた芽衣の一撃により、最上階の床が抜け落ちた。これを発端にして崩落を起こす第九の塔。
どうにか塔としての外観こそは保っているが、内部は五階から一階まで抜てしまい、ぐちゃぐちゃ。
そのひどいありさまを、最上階の壁にはりついた状態で見おろしていたのは、燐火と白羽の者ら。事前に芽衣から作戦について聞かされていたもので、すぐさま回避行動をとったがゆえにからくも難を逃れる。
そんな燐火の手には鎖分銅が握られており、先にはぷらんぷらんと宙で揺られている豆タヌキの姿があった。
技の反動と悶々パワーを使い果たし、もはやヒトの姿すらも維持できなくなった芽衣。
あわやというところを燐火により救助される。
◇
第九の塔から中央の城へと繋がっている長い吊り橋。
彼方に目をやれば、先行しているトロンの姿があった。尾白と弟のボーンを担いで走っている。
かなり引き離されてしまったが相手は荷物をかかえている。忍びの足ならば追いつけるはず……。
だから燐火は目を閉じぷるぷる震えている豆タヌキを懐にいれて駆け出した。旗下の白羽らもこれに続く。
けれども吊り橋の真ん中あたりまで来たところで、彼女たちのもとへと多数の影が襲来。
ムササビ忍軍羽茶組、ふたたび!
第六の塔に続いて二度目の登場。
しかも今度はひらりひらりと空を舞って。
たくみに風をとらえては自在に空を舞うムササビ忍軍。
本来の持ち味を存分に活かし、前後左右から波状攻撃をしかけてくる。
一方で苦戦をしいられる白羽たち。
吊り橋の上にて行動が著しく制限されており逃げ場なく、一撃離脱でちくちく攻められ、翻弄されるばかり。
そうして足止めを喰らっている間にも、みるみる遠ざかっていくトロン。
すると白羽らが互いに目配せ、うちのひとりが言った。
「ここは自分たちが引き受けますので、燐火さんは先へ行ってください」
一瞬の逡巡ののち、「わかった、すまん」と走り出す燐火。
そうはさせじと空を並走し邪魔しようとする羽茶組の者らであったが、そのときのことであった。
ばふん! ばふん! ばふん!
音がして発生したのは大量の煙。
白羽の者たちが放った煙幕である。
たちまち一帯が白煙に包まれて視界不良となった。
突然のこと、空の上で右往左往する羽茶組の面々を尻目に、いちはやく煙の中から飛び出したのは燐火。懐の中の豆タヌキをちらり、無事を確認してから、シュタタタと疾駆。尾白を奪還すべく懸命にトロンのあとを追う。
◇
いちはやく吊り橋を渡りきり、中央城へと到着したトロン。
背後からもの凄い勢いで迫るやっかいな存在にはとっくに気がついていた。
だから振り返るなりアーミーナイフを取り出す。
追手を迎撃するためではない。
支えとなっているメインロープを切断し、吊り橋もろとも敵勢をまとめて森へと叩き落とすためである。
主人の銀トラもムチャクチャであったが、その部下もたいがいであった。
とはいえロープは太くて頑丈な造り。いかにトロンであってもさすがにスパッと一刀両断とはいかない。
ギチギチギチギチギチギチ……。
まるでノコギリをひいているかのように、刃を押し当て前後させては切断を試みるトロン。
トロンの狙いに気づいた燐火、すぐさま棒手裏剣を放つ。
だが距離があり、かつ揺れる足場を走りながらということもあって威力がいまいち。
そのせいでトロンのナイフにたやすくはじかれてしまった。
ならば直接止めるまでと、いっそう駆ける足にチカラを込める燐火であったが……。
ぶちりミシリと不穏な音がする。
半ばまで裂けたロープ。吊り橋そのものの重みと、加わる振動のせいで自壊を開始したとおもったら、たちまちか細くなっていき、ブツンっ!
二本のメインロープのうちの一本が断裂。
そのせいでたわむ吊り橋。足下が激しく波打ち、床板がはずれ飛ぶ。
ぐわんぐわんと暴れる大蛇のようにうねる吊り橋。
その背から振り落とされまいと、とっさに近くの手すりを掴んだ燐火。腕をからめて必死にこらえる。
ようやく揺れが収まった時。
吊り橋は片側がさがって大きく傾いでおり、とても渡れるような状態になかった。
だというのに見ればトロンが残りのメインロープにも手をかけているではないか!
このままでは橋が完全に落ちてしまう。
片手でぶら下がっていた燐火は、鉄棒の大車輪の要領にてくるりんぱ。
残されたメインロープの上に飛び乗るなり、つま先立ちにてシュタタと器用に綱渡り。トロンの暴挙を止めるべく駆け出す。
これに驚いたのがトロン。急ぎ二本目を切断すべく刃を動かし、ギチギチギチ。
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