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738 第九の塔
しおりを挟むおれの手にかかれば造作もない。
あっさりクソゲーをクリアしていよいよ、最後の塔へ。
だが一歩足を踏み入れた瞬間に、おれたちは表情を一変させる。
「なんだよここ、猛獣でも解き放っているのか」
ピンと張り詰めた空気。動物の本能がビンビンに告げている。ここはヤバいと。
おれはおもわずごくりとツバを飲み込む。
「ものすごい殺気……。まるで隠そうとしていない。むしろ逆にわざと垂れ流してこちらの反応を愉しんでいるみたい」
つぶやきながら芽衣が天井をにらんでいる。
どうやらこの殺気は第九の塔の番人が放っているようだ。
「なんとも不快な圧を感じます。……ということは、ここのボスはアニマルロボじゃないということですね。いったい何者でしょうか」
とは燐火さん。いかに優れたロボットとて、さすがに殺気までは放てないから、そう考えた。
おれたちは警戒を強めつつ先へと進む。
一階、二階、三階、四階、どこもがらんとしており何もない。
なんとも寒々しい雰囲気にて、どうにも居心地の悪さを感じる。
いよいよ最上階へと続く階段をのぼりはじめる。
一段、一段、あがるごとに高まる緊張感。殺気はよりいっそう強くなり、凶悪さを増す。肌が粟立ち、うなじの毛がちりちりしてくる。
武芸の心得がないおれですらもこうなのだから、きちんと修行を積んだ芽衣たちの表情はいっそう険しくなっていた。
◇
第九の塔、最上階で待ちかまえていたのは銀のトラ。二頭のサーバルキャットを両脇に従えている。
のそりと立ち上がる獣たち。姿がぐにゃりと歪み、人化。
たちまちあらわれたのは銀髪長身にて、右目に三本傷を持つ美女、アーミナイフを手にした痩せぎすで病的な容姿の男、肉弾戦車のごとき巨漢。
美女が髪をかきあげながらにちゃり、厭らしい笑みを浮かべる。
「よぉ、探偵、ひさしぶり」
「おまえは英円……、どうしてここに?」
「なぁに、かげりからいっしょに遊ぼうと誘われてね。それにそっちの嬢ちゃんにも個人的に興味があったし」
言いながら英円は芽衣を見つめて目元を細める。それは獲物を狙う肉食獣のもの。
英円は世界をまたにかけるトラ狂女。各地にて好き勝手に暴れた兇状持ちのお尋ね者。行く先々にて災いをばらまくものだから「銀禍」との異名にて恐れられている。
荒事師の孤斗羅美とは姉妹弟子の間柄ながらも、師の関心が自分から妹弟子へと移るや、師匠宅に火を放ち滅爛虎慄紅武爪術の秘伝書を盗んで逃げた過去を持つ。
かつて姉妹弟子の確執と対決に巻き込まれたおれは、そのときに彼女と悪縁を結ぶことになってしまった。
トラ美に敗北して英円は御用となったものの、護送中に何者かの手引きにより逃亡の果てに、聚楽第に合流して現在に至る。
そんなトラ狂女の両脇を固めるのは、英円に命を救われて以降、彼女を姉御と慕い子分となっているサーバルキャットの兄弟。
痩身の方が兄のトロン。ナイフ遣いにて我流ながらも、他者を傷つけることに躊躇がないがゆえの怖さを秘めている。
太っちょの方が弟のボーン。巨体とチカラにて相手を圧殺する。きちんと武芸を学んでいないので動きは単調で雑だが、それゆえに予測しづらくやりにくい。技をおぎなってあまりある体躯が他者をよせつけず。
おれにとってサーバルキャットの兄弟の方は初見。
実際に対峙した芽衣や出灰桔梗らの話にてどのような人物かは知っていたが、いざ目の前にしたら、地元の半グレ集団がまるでひよっこに感じるほどに血生臭い男たちだ。ヘビーな人生経験にて、大切なものをいろいろと欠落してしまった者特有の危うさがある。
一方で芽衣にとっては英円が初対面となる。
孤斗羅美に匹敵する猛者を前にして、芽衣ははやくも闘気を高めつつあるようだ。
そして燐火さんをはじめとする白羽の面々。
裏社会では有名人であるがゆえに、対峙している相手のことも知っているらしく、こちらもまた臨戦態勢へと移行している。
「おまえたち、私はこちらのお嬢ちゃんの相手をするから、そっちは好きにしな」
英円の言葉が合図となり、各々が動きだす。
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