おじろよんぱく、何者?

月芝

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735 そもさんせっぱ

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 アニマルロボ・アヌビスの圧倒的クイズ力。
 なんとか食らいつこうと焦り足掻くおれたち。
 しかしそれを嘲笑うかのようにして、ピコーン、ピコーンとランプが点灯しては、問題に答えてポイントを重ねていくアヌビス。
 一方的な展開、打開策を見い出せず。
 気づけばはやラスト一問にまで追い込まれていた。
 現時点でポイント差は九対ゼロ。

「どうしよう四伯おじさん、このままじゃ負けちゃう!」狼狽える芽衣が「だったらいっそのこと死なばもろとも」とか物騒なことをぼそり。

「くっ、またスタート地点からやり直しなのか」

 ペナルティを覚悟する燐火さん。

「あれ、でも雑魚やボスは倒しているから、今度はもっとはやく進めるんじゃないの?」
「まぁ、シレっと復活している可能性も捨てきれないけどね」
「かったりい。とりあえず戻るついでに置いてきたメンバーを回収するか」
「……ルービックキューブがきつい。アレを思いついたヤツはきっと頭がおかしい」
「リスタートはしようがないとして、ここにアヌビスがいる以上、正攻法での攻略はむずかしそうなんだけど」

 などなどとは白羽の面々。なんだかんだで切り替えがはやい。すでに目先の勝負をあっさり見限って、次へと思考を働かせているとは、なんともたくましい。
 だがしかし、諦めるのはまだはやい。
 なぜならば、ここにはおれこと尾白四伯がいるんだもの。
 というわけで、いよいよ真打ち登場。

  ◇

 解答席からおもむろに立ち上がったおれは、アヌビスの方へと向かって駆け出す。
 当然ながらアヌビスは警戒。知の勝負でかなわぬから腕づくできたかと、杖を片手に身構えるアニマルロボ。
 そんなアヌビスめがけて一直線に駆け、助走をつけてジャンプ!
 からのスライディング土下座。

「なにとぞお慈悲を~」

 突然の奇行。おっさんご乱心の図。
 いきなり頭をさげられたアヌビスおよび、味方一同もあんぐり。
 その間隙を突き、おれは矢継ぎ早やに言葉を発しては、いっきにたたみかける。

「このままではあまりにも一方的な展開。アヌビスさまのすごさ、偉大さは充分すぎるほどに骨身に染みました。私どものような一般ピープルではどう逆立ちしたって勝ち目はございません。ですから、あとはあなたさまの寛大さにおすがりするしかありません」

 恥も外聞もかなぐり捨てて……。
 というか、はなからそんなものは持ち合わせていないから、へっちゃら。
 それでも殊勝な態度にて全力で媚びへつらい、相手を言葉巧みにヨイショ。自尊心をおおいにくすぐる。
 そしてほどよく相手が満更でもないと態度を軟化させたところで、「つきましてはお恐れながら……」とささやかなお願いをする。

 かくして勝ち取ったのが特別ルールの適用。
 本来ならばこちらは三問正解しなければいけないところを、特別に一問だけで大逆転できちゃうというもの。最後だけポイント十倍とか、クイズ番組ではお馴染みのアレだ。
 でもこれだけではまだまだおれたちに勝ち目はない。なぜならアヌビスにはゼロコンマ一秒の早押しがあるから。
 はっきり言ってこれと競うだけ無駄である。白羽の子らも言っていたように正攻法での攻略は非常に厳しい。
 問題を解くだけであっぷあっぷしている時点で、すでに勝敗は決している。
 だがしかし、いかな伝家の宝刀とて抜かねばただの棒きれと同じこと。
 アヌビスの早押しを封じる。そのためにおれはもうひとつ特別ルールというか、権利を獲得する。
 それは出題の権利である。
 おれが出題しアヌビスが答える、「作麼(そもさん)」「説破(せっぱ)」な問答タイマン形式。
 アヌビスが答えられたらそこでゲームセット。答えられなかったらうちの勝ち。

 当初、おれからこの提案を受けたアヌビスはさすがに渋った。
 だがこれを突っぱねられなかった。
 だって散々におだてられて、得意げとなり、かっこうをつけ、「ははははは、余はクイズ王にして、クイズの覇者。余に解けぬ問題などない」とまでみんなの前で豪語しちゃったんだもの。
 いまさら引っ込みがつかないアヌビス。ついにはうなづき了承するハメになった。

  ◇

 第七の塔の戦いもいよいよ大詰め。

「さぁ、では問題を述べよ」とアヌビス。

 そこでおれはちょいちょいと手招き。
 呼ばれた芽衣がトコトコやってきたところで、背後から両肩を掴んでその身をグイと前へ押し出す。

「では問題、三択です。ここにいる洲本芽衣さんは、中学生、高校生、大学生、のうちのどれでしょうか?」

 ちなみに正解は高校生だ。芽衣は高月東高校に通う現役女子高生。
 だが見た目ちんちくりんの豆タヌキ娘。とてもそうは見えない。ぶっちゃけそのへんにいるちょっと発育のいい小学校高学年の女子が相手ならば、身長およびあちこちの部位が余裕で負けている。
 だから道行く十人に同じ質問をぶつけたら、ほとんどが中学生と答えるであろう。
 しかしこれはクイズ対決。
 しかも最終局面にてあとがなく、土下座までして獲得したチャンス。
 ゆえにふつうは「はっ、ひっかけ問題か」と疑う。

 自称クイズ王のアヌビスもまたそう考えたらしく、「うーむ、選択肢に小学生がないのが不思議なぐらいにちんちくりんだ。発育がよろしくない。あれはきっと幼少期に満足に食べさせてもらえなかったがゆえの弊害であろう。なんと不憫な。しかしこれも勝負、許せ。とはいえ、それを考慮すれば……」なんぞとぶつぶつ。

 疑心暗鬼の森にうっかり足を踏み入れてしまったアヌビス、さっそく迷ったらしくうんうん考え中。
 でものんびり考えさせてあげるほどおれは優しくないので、勝手に「十、九、八、七」とカウントダウンを開始する。


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