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しおりを挟むチャレンジ八回目にして、どうにか坂になる階段の攻略に成功。
ぜえぜえ、おれは肩で息をしながら地下から一階へと。
するとそこはもぬけの殻。芽衣たちはあっさりおれを見捨てて……もとい無事を信じて先へと進んだ模様。
ちょっと切なくなったおっさんはタバコを吸おうとするも、そのとき目に入ったのが「火気厳禁」「施設内禁煙」の赤文字プレート。クッ、悪党の秘密基地のくせに。
しかしおれはマナーは極力守る大人。だからすごすごとタバコを懐に戻す。
◇
ここ九龍城は八つの五重の塔と中央の城にて成り立っている。
各々が吊り橋にて繋がっており、城へと行くのにはこれを渡る必要がある。
そしてその吊り橋は五重の塔の最上階にあるもので、おっちらおっちら階段をのぼって上階を目指す必要がある。
階段をちょんちょん。
フム。どうやらここには地下にあったような意地悪な仕掛けはないようだ。
さすがにすべての階段にあれが導入されてあったら、おれは早々にまわれ右にて引きあげている。
十分に安全確認をしてからおれは二階へと。
階段の終点にていったん立ち止まり、おそるおそる顔をだし先の様子を伺う。
ここにも芽衣たちの姿はなし。でもって床にはなぜだかテニスボールがたくさん転がっていた。
ためしにひとつ手に取ってみるも、なんのへんてつもないテニスボールである。
「なんじゃこりゃ?」
首をひねりつつおれは二階へと踏み込む。
とたんに「ボシュッ!」
音がしたかとおもえば飛んできたのはテニスボール。発射口は壁にある穴。
きゃっと乙女な悲鳴をあげて、探偵はひらりと黄色い玉をかわす。
で、遅まきながら気がついた。同じような穴が四方の壁やら天井にもずらりとあることに。
「えっ、まさか……」
そのまさかであった。
こちらの動きに合わせて次々と発射されるテニスボールたち。
ひとつふたつならばともかく、こうも続くとおれの身体能力ではとてもさばききれない。ゆえにポコポコ当たる。時速百五十キロぐらいの球速なので、当たるとテニスボールでもけっこう痛いっ! あ痛だだだだだだっ!
ちなみにどうして球速がわかるのかというと、前にバッティングセンターで遊んだときの球がちょうどこれぐらいだったから。あのときは「パットンズの秘密兵器と呼ばれたおれさまの実力をとくと見よ!」と意気込んでチャレンジしたものの、二十球中、前に飛んだのは一球だけだった。
こりゃあたまらんと、小走りにて上へと通じる階段を目指す。
が、足下に転がる球がとっても邪魔! うっかり踏んだら足首がぐぎりとなりかねん。
だからすり足気味にて、邪魔な球を払うかのようにして進んでいたら、急にドンッ!
これまでの発射音とは明らかにちがう異質で不穏な音が鳴った。
直感的に「これはヤバい」と判断したおれは、とっさにその場でしゃがみ込む。
それに前後して頭上を通過したのは、黒いボール?
おれの頭の上を通り過ぎた黒いボールは勢いのままに向かい側の壁に激突して、ボコっとめり込んだ。
黒い球はトゲトゲ付きの鉄球だった。
次々に飛んでくる黄色いテニスボールに混じって、ランダムで飛んでくる黒いトゲ玉。
当たったらシャレにならない威力。
おれは真っ青になり、きゃあきゃあ逃げた。
◇
三階へと到達するなり目に入ったのが「土足厳禁」の文字。
そして一面に敷き詰められてあったのが足つぼマット。
とんだ足つぼ地獄! 日頃の不摂生がたたりまくっているこのカラダだと、きっと悶え死ぬ。
なのでおれはクツのままで踏破した。
でもエチケットは忘れない。手持ちのビニール袋をクツの上からかぶせて、ちゃんと足下が汚れないように配慮する。
◇
四階に行くと、白羽の忍びが数名倒れており、その介抱役の姿があった。
「いったい何があった?」
おれがたずねると「戦闘がありました。イヌ頭のヘンなロボットどもに襲われてどうにか撃退したのですが、ご覧のあり様にて」
どうやらかげりは羽茶組のムササビどものほかにもアニマルロボの甲(カブト)を引き連れているようだな。
アレは量産型とはいえ戦闘力が高く非常に頑丈、そしていざともなればちゅどーんと周囲を巻き込み自爆するからやっかいだ。
◇
そしていよいよ五階の最上階。
ようやく芽衣たちに追いついたものの、そこはとんだ修羅場。
六本腕に三つの顔を持つ阿修羅っぽいアニマルロボを相手にして、奮闘している芽衣や燐火さんら白羽の忍びたちの姿があった。
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