705 / 1,029
705 チャリンコ狂騒
しおりを挟むクルマとバイクと自転車。
どれが一番速いかといえば、そりゃあクルマが速い。
お次がバイクだ。唸るモーターエンジンが産み出す推進力は凄まじい。
比べて自転車だが、たしかにクルマやバイクに比べれば見劣りする。
だがしかし、それを差し引いてもあまりある利点がある。
それは小回りの良さ。こと入り組んだ街中となれば自転車こそが王者。
チリンチリン、そこのけ、そこのけ、ママチャリが通る。
桔梗が駆る自転車が商店街を抜け、隣接する住宅地へと突入する。
商店街と国道に挟まれるようにして存在するこの区画は、市内屈指の旧街。それゆえに今風な住みよい都市設計とは無縁なもので、建物がぎゅうぎゅうと密集しており、路地は細く、迷路のごとく入り組んでおり、中途半端な階段やら袋小路がそこいら中にあって、とにかくややこしい。加えて隠されるようにして「一旦停止」やら「一方通行」の標識が配置されているといういやらしさ。宅配便や郵便局員泣かせの場所でもある。
けれども、だからこそ自転車が最大限の威力を発揮する。
おれがナビゲーションをししつつ、桔梗を誘導。
このままいっきに国道を越えて市内を縦断、南下を目指す。
だが敵もしぶとい、まだまだ諦めない。
シャーッと駆けがてら、ちらりと脇見をすれば、路地の向こうをサッと横切る赤い影。
こちらの通りと平行している一本筋ちがいのところ。そこを猛追しているのは、赤いママチャリにまたがった野郎ども。
「なっ、あれはレンタサイクル! 連中も自転車での追跡に切り替えやがったみたいだ」
真っ赤なボディに、サドル下には黄色のシールがトレードマーク。
高月の駅近くにて運営されているレンタルサービス。駐輪場代込みにて月極で借りるもよし、サイクリング日和に気軽に借りてそこいらを散策するもよし。
自転車はあるとたしかに便利だけれども、わざわざ買うほどでも。登録料とか、管理維持も地味に面倒だし。
という利用層より支持を受けて、ぐんぐん業績をのばしているレンタサイクル。
かなり好調らしく、ここのところ市内では赤いママチャリ族がずんずん絶賛増殖中。
身分証を提示し、料金さえ払えば誰でも借りられるシステム。
それを活かしての追跡。
「ちくしょう、見境なしに貸し出しやがって。みるからに不審者どもじゃねえか。少しは危機感を持てよっ。だがしかし、いくら数を揃えようとも、しょせんはノーマルママチャリ、おれたちの敵じゃない。なにせこちとら最新式のシリコーンギア搭載だからな。油まみれのごりごりチェーン式ごとき旧型は相手にならんよ、ふふん」
しかも最高の漕ぎ手である桔梗が操るとなれば、なおのこと。
うしろのお荷物なんぞはハンデにもならない。
はずであったのだが……。
◇
はっと気づけば背後より迫る一団があった。
じりじりと距離を詰め、追い上げてくるのは、赤いママチャリ族。けれども形状が少し他の車体とはちがう。
あれは……電動アシスト付き自転車っ!
「そんなバカな。あれはあまりにも利用料金が割高すぎて、不人気のあまり早々にサービスが撤廃されたはずじゃなかったのか」
おれ、愕然。
どうやら追跡者どもは、札束にて頬をぴしぱし、受付の者をたぶらかして、倉庫に眠っていたあいつらを蘇らせた模様。
ほったらかしにしていたらバッテリーがダメになるからと、定期的に充電していたことも、連中に利する。
電動アシスト式自転車。
そのパワーはけっして侮れない。なにせ太ももぱっつんぱっつんの競輪選手が「もうあかん、ギブ」と匙を投げるほどの急な坂を、平均的な体力しかない一般人がスイスイ……はさすがに無理でも、それなりに進めちゃうのだから。
◇
地球に優しくエコなのはおれが化けているシリコーンギア搭載のママチャリ。
けれども優しいだけでは生き残れないのが人生というバトルフィールド。
つねにスタミナを消費し、微々とはいえ疲労が蓄積されていく桔梗。
対するあちらは電気のチカラで消耗が著しく抑えられている。
逃げる者と追う者という立場の差。つねに受けるプレッシャーが主に精神を削りにくる。
いかに桔梗とはいえ、このままでは国道へと出たあたりで捕捉されかねない。
となれば……。
「桔梗、次の角を左へ」
「わかりました」
すぐさまシャーッとほとんど速度を落とすことなく左折。華麗なハンドル捌き。うしろに座る夜光が「かっこいい」とキャッキャ。
けれども少し進んだ先にてあらわれた左カーブに桔梗は「えっ」
なぜならこのまま左、左へと曲がれば、戻ることになるからだ。
戸惑う桔梗におれは「そのまま道なりに行け。考えがある」とだけ告げた。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
お昼寝カフェ【BAKU】へようこそ!~夢喰いバクと社畜は美少女アイドルの悪夢を見る~
保月ミヒル
キャラ文芸
人生諦め気味のアラサー営業マン・遠原昭博は、ある日不思議なお昼寝カフェに迷い混む。
迎えてくれたのは、眼鏡をかけた独特の雰囲気の青年――カフェの店長・夢見獏だった。
ゆるふわおっとりなその青年の正体は、なんと悪夢を食べる妖怪のバクだった。
昭博はひょんなことから夢見とダッグを組むことになり、客として来店した人気アイドルの悪夢の中に入ることに……!?
夢という誰にも見せない空間の中で、人々は悩み、試練に立ち向かい、成長する。
ハートフルサイコダイブコメディです。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる