おじろよんぱく、何者?

月芝

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692 しゃばぞう

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 キシャーッ!
 にょろにょろにょろ~。

 巨大書物百足と赤い腕の群れが対峙。
 怪異対怪異。にらみ合う両雄。
 先に仕掛けたのは巨大書物百足。頭からの突進。巨躯にものをいわせてのぶちかまし攻撃。
 わらわらと群がる赤い細腕を吹き飛ばし、蹴散らす。
 だがその進軍がぴたりと止まる。
 いつのまにやら尻尾の方にまとわりついていた赤い腕たち。これにより動けなくなってしまった。
 振りほどこうともがく巨大書物百足がジタバタ。
 とたんに大量の埃が舞って、倉庫内が薄もやに包まれ視界不良になる。
 暴れて強引に拘束をといた巨大書物百足が、ふたたび攻撃を再開しようとしたのだが……。

「?」

 キョロキョロ周囲を探すも、あれほどいた赤い腕の姿がふつりと消えていた。
 かなわじと悟り、恐れをなして逃げ出したのか。しょせんはモテない男の拗らせ悶々パワーを宿した自分の敵ではなかったということ。
 ゆえにすっかり勝ったつもりになって、油断する巨大書物百足。
 しかしそんな書物の怪異の背後に忍び寄る影ひとつ。
 薄靄の中に浮かぶのは赤い拳。仁王像のごとき筋骨隆々のたくましい腕が握った大きなゲンコツは、たくさんの赤い腕が寄り集まって出来たもの。

 はっとふり返った巨大書物百足。
 だが少しばかり気づくのが遅かった。
 振り下ろされた怒りの鉄槌がズドン!
 粉砕された巨大書物百足、たちまちバラバラ。
 けれども腐っても怪異、そこはしぶとい。ばらけたのをさいわいとばかりに、個別にパタパタ飛んで散開して逃げようとする。
 するとこれを追撃したのは赤い腕たち。
 群体が分離してもとの姿になったところを、数で圧殺する。
 ぺしぺしぺしぺし、面白いように次々と叩き落とされていく本の怪異たち。
 落ちたところをすかさず手のひらで床へと押しつけられて捕獲。
 かくして勝負あり。
 勝者、しらたきさん。
 でもって、おれはその勇姿をぐったりしながら見届けたところで、ついに意識を手放した。

  ◇

 空が橙色。
 足下は平べったい石だらけにて、周囲には霧が垂れこめている。
 霧の向こうからちゃぷちゃぷと聞こえてくるのは、波打ち際の音。
 どうやらここは河原らしい。
 いつの間にこんなところに運ばれてきたのやら。
 疑問に感じつつも、とりあえずおれは音のする方へと向かう。
 するとじきに霧が晴れて、見えてきたのは、一本の古木の根元に座る老婆の姿。
 みるからに因業で守銭奴そうな老婆。
 ちらりとこちらを見たかとおもえばいきなり「とっとと服を脱いで、そこの枝にかけな」と言った。
 だからおれはこう言い返す。

「ごめんこうむる。あいにくとおれに超発酵熟女趣味はない」

 すると問答無用でジャケットを引っぺがされた。いやん。
 漬け込んだオリーブの実のような色味をしたおれの相棒が乱雑にかけられたとたんに、枝が大きくしなってびよんびよん。
 とたんに老婆が目を見開く。

「なんじゃこりゃあ、いったいどんな悪さをすればこんなに枝が暴れるってんだよ! あきれた」

 いきなりそんなことを言われて、おれはムッ。

「失敬な。これでも健全な街の探偵屋さんとしてやってきたつもりだ。そりゃあ、ちょっと国宝の南大門をぶち壊したり、国道を爆走したり、変態どもと追いかけっこをしたり、地元の神社の屋根を吹き飛ばしたり、由緒のある地方の神社をぺちゃんこにしたり、鬼どもと乱闘騒ぎも数知れず、あとは異世界の魔神と取引したり、世界を股にかけて暗躍する過激派集団と悶着を起こしたり、絶海の孤島に封印されていたやばいブツを解放したり、天狗たちとわちゃわちゃ、夢洲の埋立地は爆破大炎上したけどアレはおれのせいじゃない、他にはえーと、何があったかな」

 指折り数えて記憶を探っていたら、老婆が「ダーッ、もうええわい! このどぐされ外道がっ。とんでもない悪党がやってきおった。何をどうしたらそんな阿呆な一生が遅れるというのか。これ以上、耳を貸していたらこっちの頭がおかしくなるわ。渡し賃を置いて、とっとといね」

 ちなみに川の渡し賃は六百万円なり。

「そんな大金あるかっ、ぼったくりにもほどがある! ふつう、三途の川の渡し賃といえば、六文だろうが」
「いまの地獄のレートだと一文百万なんだよ。文句を言うなら、変動相場制を導入した閻魔さまに文句を言いな。ちなみにどうしても払えないってのならローンもあるよ」

 言いながら差し出された契約書。細かい文字でびっちり書かれた内容の隅っこの方に、利息がトイチ(十日で一割のこと)と記載されてあった。

「とんだ悪徳金融! ふざけんな、ボケ。こうなりゃてめえも道ずれだ。おまえを殺しておれも死ぬ」
「やれるもんならやってみな、このしゃば僧がっ。奪衣婆さまを舐めんじゃねえぞ」

 もろ肌脱いでの片乳姿となった老婆と取っ組み合いのケンカをはじめる、おれこと尾白四伯。ふたりして石の河原をごろごろごろ。

  ◇

 はっと気がついたら、見慣れた天井だった。
 毎度お世話になっている、光瀬菜穂のところの診療所。
 芽衣や零号、しらたきさんの姿はない。いるのはウシ女医のみ。

「……どれくらい寝ていた?」
「えーと、担ぎ込まれてから三日ぐらいかな。えらく衰弱していたから、さすがの私も今回ばかりは焦ったよ。だもんで、死人もびっくりして起きるような劇薬をばんばんぶち込んじゃった」

 おかげで助かった。尾白四伯、奇跡の生還?
 しかし寝ている間に、なにやら奇妙な夢をみていたような……。
 うーん、いまいちよく思い出せん。
 というか、そんなことよりも気になるのは、おれが寝ていた間のこと。
 はてさて、ちったぁ、進展があればいいのだが。


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