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691 愛のない言霊
しおりを挟むジャケットを抜ぎ、これを網がわりにしてパタパタ飛ぶ怪本を捕獲。
もごもご暴れる相手。「ええい、おとなしくしろ!」問答無用にて、スチール製の長櫃へと放り込む。
これで三分の二ぐらいは回収完了したかなぁ。
と安堵したのもつかのま。
急にペカーっと長櫃内部が光りだす。
「ぎゃあ、ま、まぶしい」
たまらずおれは目元を手でかばう。うー、目の奥がちかちかするよぉ。
で、ようやく閃光から解放されたとおもったら、目の前にはニョロニョロ動く不穏な巨体の姿があった。
怪本ども、連結して巨大書物百足に超合体っ!
「はぁ?」おれはあんぐり。
「へっ?」芽衣はマヌケ面をさらす。
「さすがは怪異、想定の斜め上をいきます」なぜだか零号は感心している。
そんな三人を見下ろしながら巨大書物百足ぎょろり。
ひとにらみしたかとおもったら、いきなり頭から突っ込んできたもので、おれたちは慌てて避けた。
「よくもこれまで散々に追いかけ回して、いちびってくれたな。倍返しだ」
と言わんばかりの猛攻。怪本の逆襲、始まる!
おれはぎゃあぎゃあ逃げ惑うばかり。
ぶち切れたタヌキ娘が「こなくそ、ならば狸是螺舞流武闘術・突の型」と殴り返そうとするも、「いけません」とそれを止めたのが零号。
「腐っても商品。それに内容はともかくいちおうは希少本です。うっかり傷つけたら、あとでオーナーからきっと多額の請求書が」
母玄福郎という老爺ならばやりかねない。そして「金が払えないのならばカラダで払ってもらおう。さぁ、本の奴隷となり、きりきり倉庫整理をするのだ」とか言いかねない。いいや、きっと言うはず。
あわてて拳を引っ込めた芽衣。「だったらどうすんのよ、これ?」
「どうもこうも、なんとかして長櫃に再封印するしかないだろう」
「だから、どうやって?」
「んなこと、知るもんか! スマホにでも訊けよっ」
探偵と助手が互いに「使えねえ」「ぽんこつ」と醜くののしりあうのを尻目に、零号は冷静に状況を見極めようとする。
しかし、そんな矢先のことであった。
いきなり巨大書物百足が方向転換したかとおもえば、倉庫の出入り口へと向かったもので、一同騒然。
こんなバケモノ、外に解き放ったら大騒動となるのは必至。
あっというまに映像が拡散されて、高月中央商店街の黒歴史がまたひとつ増える。
……いや、まぁ、これまで恥を量産してきたからいまさらだけれども、それでもきっと商会長が大激怒する。罰でドブ掃除や路上に張りついたガムはがしを延々とやらされるのはイヤだ。
なんぞと頭を抱えているうちにも、はや出入り口へと到達した巨大書物百足。
これを阻止せんとしらたきさんががんばってくれたが、いかんせん大きさがちがいすぎた。
例えるならば運動会の綱引きの綱と、大縄跳びの縄ぐらいの差。
ぺちんと返り討ちにされたしらたきさん。
そして意気揚々とバケモノが外界へと解き放たれ………………ない?
たしかに巨大書物百足はバーンと扉を開いて、勢いのままに外の世界へと飛び出そうとした。
けれども自主的にすごすごと引き返してきた。
なぜなら外ではいつのまにやら雨がシトシト降っていたから。
怪本の集合体である巨大書物百足。「いやぁ、濡れるのはちょっと」
なんとも締まらない話である。
ゆえにタヌキ娘はジト目でぼそり。
「ダサっ」
女子高生の「ダサっ」は、通常の「ダサい」とはちがう。
推定五倍強の言霊力を秘めている。愛のない言霊、その破壊力たるや絶大にて、おっさんのガラスのハートぐらいたやすく撃ち砕く。でもって、著者の悶々が綴られた「或る男の一生」である巨大書物百足にもクリティカルヒット。
結果、自棄になりめちゃくちゃ暴れだして、いっそう手に負えなくなった。
◇
ドタンバタン、暴れるにまかせて崩され転がるダンボールたち。中身がほとんど散乱していないことが救いだが、それもいつまでもつことやら。
「どうすんだよ、これ。希少本うんぬん以前に、他への被害が甚大なんだが……」
「さっきから母玄さんに討伐許可を貰おうと連絡しているんだけど、電話がちっともつながらない」
「オーナーは本の世界にのめり込みますと、たとえ耳元でヘビメタバンドが全力で演奏しても聞こえなくなるほどに集中しますから。おそらくはそのせいかと」
お手上げにてそろって壁際に避難していることしかできないおれたち。
しかし不甲斐ない面々を前にして、ひとり立ち上がる者がいた。
誰あろう、しらたきさんである。
どうやらさきほど、軽んじられて、手荒く扱われたことにより、かなり機嫌を損ねているっぽい。とり憑かれている宿主のせいか、彼女のそういった感情の起伏がおれにはほんのり伝わってくるのだ。
でもって、こんな風な声が聞こえたような気がした。
「……すみません。ちょっといつもより多めにいただきます」
それはとても控え目な声にて、遠慮がありありと。
とたんにチューッと大事な何かが吸いとられるような感覚に襲われて、おれはたまらず膝から崩れ落ちる。
「あれ? なんだかチカラがでない。いや、これはチカラが抜けているのか?」
みるみる元気を失う尾白四伯。
一方で、陶磁器をおもわせるような白さを誇るしらたきさんの肌が、みるみる色味を強くして赤くなっていくではないか!
かとおもえば、分裂増殖してずんずん数が増えて、まるでイソギンチャクのにょろにょろみたいになっちゃった!
怪異・白い腕、第二形態を発動する。
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