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666 七福神めぐり 桃尻力
しおりを挟むご長寿と言えば桃。
桃といえば尻。
尻と言えば尻相撲。
というわけで、ここ宝生寺にて挑戦するのは「落ちたら負けよ、いやん、桃尻相撲」ゲーム。
あらためてバサラユセイくんから説明を受けて、どのあたりが「というわけ」なのかがさっぱりわからない。
困惑するばかりの高月中央商店街一同を放置して話は進む。
案内された場所にあったのは空き缶が九つ。
ジュースのではなくて、洋食屋の厨房にありそうなホールトマトなどの大缶。
三、三、三と六十センチ間隔にてきれいに整列しては、底を上にして地面に並べられて舞台が構築されてある。
「ルールは簡単、三人一組にてチームを作って、うちのご令嬢方とこの上で尻相撲をしてもらいます。えいやと相手を落としたら勝ちにて、勝ち抜き戦となっております」
勝ち抜き戦……、つまり勝てば次も続けて戦える。
技量次第ではひとりで敵を全滅させて無双することも可能な団体戦。
尻相撲というやや変則的な勝負ではあるが肉弾戦には変わりない。こちらには屈強な野郎もいれば、決戦用の人型タヌキ兵器もいる。
なのに宝生寺チームは「ご令嬢方」ときたもんだ。
ゆえにこいつは楽勝かとおもいきや……。
◇
なぜだか缶の上にドラム缶が乗っていた。
いや、失敬。ちょっと恰幅のいい大柄な女性の姿がある。
あれこそが宝生寺チームの先鋒、尻相撲番付・関脇の広末亮子さん。
おっきな洋物のジーンズをはいたお尻がバーンと。好きな人にはたまらないダイナミックわがままボディ。
「なっ、嘘だろう。これで関脇なのかよ……」
てっきりかわいいお姉ちゃんとお尻とお尻をつんつんさせて「いやん、ばかん」と戯れられのるかと考えて、率先して手をあげた高月商店街側のスケベ一号。
あらわれた女傑に唖然。
当然ながら相手になるわけもなく、ゲーム開始の合図とともにドンっと激烈なヒップアタックを喰らって、あっさり缶の舞台からはじき飛ばされた。
宙を舞うスケベ一号。
「すげー、五メートルぐらいは飛んだんじゃねえの」とおれ。
「いえいえ、六メートルはいってますよ」とは芽衣。
なんにせよ圧倒的桃尻力だった。
おれの桃尻力を十としたら、広末亮子はきっと五百を超えるのにちがいあるまい。
しかもこれの上にさらにふたり、大関と横綱が控えている。
静まり返る一同。鉄壁の布陣に誰もが尻込みする中。
「しようがない。ここはワシがいこう」
のそりと前に出たのは商会長。
「淡路ビーフマンには不覚をとったからな。ここいらで名誉を挽回しておかねば、商会長としての沽券にかかわる」
腕っぷしならば負けてない。だからイケるかと誰もが期待した。
けれどもおれたちは忘れていた。
この競技に「相撲」という二文字がついていたことを。
相撲、それはたんなる肉と肉、チカラとチカラのぶつかり合いではない。刹那の攻防の中に、数多の駆け引き、技の応酬、せめぎ合いが濃縮されたもの。
いかに体躯に恵まれ天賦の才をその身に宿そうとも、素人が玄人に勝てる道理なし。
桃尻相撲というふざけたネーミングに騙された。てっきり芸者がやるお座敷遊びの延長かとおもいきや、ガチ競技。
だというのに、そいつを見誤ってしまった。
「おらっ!」
気合いとともに、尻ごと相手にぶつかる商会長。まごうことなき渾身の一撃。
だがそれをひらり、華麗にかわしては肩透かしを喰らわす広末亮子。ほんのわずかにだけ足を持ち上げる、すり足による素早い移動。不安定な缶の上にもかかわらず体幹が乱れることもなく、向かってくる相手とたちまち位置を入れ替えてしまう。
一瞬のこと。さながらトランプのカードの表と裏を返すかのごとし。
気づいたときには、商会長は呆然と地面に手をついて四つん這いとなっていた。
これで宝生寺チームの二連勝……、強い。
はやあとが無くなった高月中央商店街側は、ついに最終兵器を投入することに。
みなの期待を一身に背負い、缶の舞台へとあがる芽衣。
体格および桃尻力の差は歴然。
はたしてこの強敵を相手にして、タヌキ娘はいかなる戦いをするつもりなのか。
一同が固唾を呑んで見守る中、ついに戦いの火ぶたが切られた。
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