おじろよんぱく、何者?

月芝

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656 七福神めぐり 第四柱

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 ガタンという揺れで、はっ。
 おれは目を覚ます。
 となりにいた芽衣も「うーん」と起きた。
 気がついたら観光バスの中だった。

 くっ、まだ頭がクラクラしやがる。しかしどうして……よく思い出せない。たしかおれたちはさっきまで長林寺を参拝していたはずなんだが。
 何かとんでもないモノを目撃したような気がするけど、三徳くんの中の人といっしょにタバコを吸いながら談笑して以降の記憶が、ごっそりと欠落してしまっている。
 それは芽衣も同じらしく「あれ、なんで? えっ、えっ、ええーっ!」とキョロキョロ。
 だからずっとおれに憑いていたはずのしらたきさんに「何があった?」とたずねるも、白い腕の怪異はビクリとしたきり、何も語ろうとはしなかった。
 ペンと手帳、もしくはスマートフォンによる筆談を試みるも、白魚のような指先を持つ手がイヤイヤと振られるばかり。

  ◇

 高月中央商店街ご一行が次に向かったのは、第四の霊場である護国寺。
 でろんと垂れた耳たぶ、大きな袋を背負った太鼓腹の姿でお馴染みの、七福神の布袋さまを祀っているところ。
 いちおう僧侶らしいのだが、とてもそうは見えない俗っぽさ。けれどもそれは「しょせんこの世の中は五濁悪世」ゆえに「清濁も合せ呑みこむハラを持ち、オロオロうろたえることなく、でーんと構えておれ」という教えを体現してのこと、らしい。
 昔は太っているのは富の象徴にて、性格の円満さや度量の広さをもあらわしていたそうな。ほら、時代やところかわれば美人の基準もガラリと変わるだろう? あれと同じこと。
 まぁ、それらを差っ引いても、俗々しさでは他の追随を許さないけれども。
 それもそのはず。だって七福神において唯一実在のモデルがいるらしいので、そりゃあ俗っぽくもなるというもの。

 この護国寺、じつは境内がかなり立派。
 石畳の参道は桜並木、鮮やかな朱色の仁王門には当然ながら、屈強な仁王像がムッキムキにて、シックスパックの腹筋がバッキバキ。
 鐘楼や本堂、その他の建物が全体的にどっしり、がっしりとしており、どことなくお城の天守閣とかを連想させる。
 本堂正面には、長林寺と同じくいぶし瓦製の布袋尊像が飾られている。
 この本堂の裏手にまわると池泉回遊式の日本庭園がお目見え。
 ここは淡路島でも最古の庭園のひとつにて、市の文化財に指定されている。でもってご本尊の大日如来坐像は国の重要文化財に指定されていたりもする。

 そんな護国寺のマスコットキャラクターは……、なぜだかミノタウロス!

 いや、もちろん本物ではない。
 ムキムキの色黒の男が、ブリーフ一丁にてウシ頭のかぶりものをしているだけのこと。
 仁王像ばりの見事な裸体に、商店街一同、感心するやら、呆れるやら、喜ぶやら。

「えーと、ひょっとしてこれは覆面レスラーなのかしらん」

 首をかしげる芽衣に「その通り」と厚い胸筋を上下にピクピクさせながら答えるミノタウロス。
 彼は兵庫県で活動しているプロレス団体に所属する、れっきとしたプロレスラー。
 現在は興行のないときには、こうやって護国寺のマスコットキャラクターである淡路ビーフマンとして活動している。
 淡路ビーフは但馬原産の黒毛和種をベースとして開発された最高品質の和牛ブランドのこと。
 ちなみに淡路ビーフマンは地元のちびっ子たちからは、めちゃくちゃ怯えられている。手を振ったら泣き出す子が続出。けれどもそのお母さま方からは、わりと好評だ。

「はぁ、まぁ、それはともかくとして、なぜにウシ?」

 これまでの流れをぶった切るかのような路線変更に、おれは素朴な疑問を抱く。

「あー、それはここの受付奥に飾られてある、牛に引かれる布袋尊像から着想を得たという話です。ウシにひかれて善光寺詣りならぬ、牛に引かれて護国寺といった感じで。あとは、たぶん、地元の精肉業者とか畜産団体や淡路ビーフブランド化推進協議会との兼ね合いでしょうかね」

 淡路ビーフマンの口から語られる赤裸々な真実。
 いわゆる協賛という大人の事情が垣間見えたところで、お馴染みのミニゲームの説明が始まったのだが……。

 境内の隅に設置されてあるのは四角いリング。
 姿はまんまプロレスのリングだ。ただしマットはふにゃふにゃにて、ロープもぷよんぽよんとよく跳ねるやつ。
 小さな子どもを遊ばせるエアー遊具に近い?
 そんなリング中央にて立ち、マイク片手に淡路ビーフマンが声高に叫ぶ。

「おまえら、束になってかかってこいやっ!」

 十五分一本勝負。
 費用は二千円。参加者らは五人一組となり、リングにあがっては、淡路ビーフマンを押し倒して両肩をマットにつけたら勝ち。なおスリーカウントは必要なし。
 御朱印を賭けての勝負は、よもやのプロレスごっこ!


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