おじろよんぱく、何者?

月芝

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620 くたばれ天誅

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 少し前から、何者かの視線を感じていた宇陀小路瑪瑙。
 さすがに女主人とともに寝起きしている場所は、駅前のタワーマンションの最上階とあってセキュリティ厳重につき問題はなかったのだが、一歩、建物の外へと出るとたちまちまとわりついてくる。
 当初、瑪瑙は「またメイド好きの迷惑な方々でしょうか」と首をかしげつつも、特に害もなかったのであえて素知らぬフリを通していた。
 しかしそれが裏目となる。

 出歩くたびに視界の片隅をよぎる何者かの影。
 どうやら単独ではなくて複数。
 それがどんどん、どんどん、どんどんどん……と増殖。
 さすがにイラっ。あと女の身であるがゆえに、ちょっと気味も悪くなってきた。
 そこで紗月お嬢さまに相談の上、尾白探偵事務所にボディガードと調査を頼もうかということになった矢先のこと、例の地獄の三者面談の話が持ち上がる。
 目当ての探偵はなにやら忙しそう。

「でしたら、そちらの用件が片付いてからご相談しましょう。ついでにちょっとおもしろそうだから、兎梅デパートへGOGO」

 とノリノリな紗月お嬢さま。
 主人から誘われて否というメイドはいない。
 よってふたり仲良く出かけたところで、あの乱痴気騒ぎ。
 さいわいなことに現場の雲行きが怪しくなってきたと感じた瑪瑙の機転により、いち早く屋上より脱したことで騒動に巻き込まれることはなかったが、あんなことが起こったがゆえにその日はおとなしく帰ることにする。
 そしてなんやかやと忙しい日常を送っているうちに、探偵事務所に顔を出すのが一日のび二日のびしていると、いきなり実家から自分のプライベート用のスマートフォンに電話がかかってきた。
 誰かとおもえば、めんどうくさい祖父の兵銅である。
 だからスルーしていたのだが、五十コールを数えてもなお鳴り続けるコール音。なんというしつこさ! さしもの瑪瑙も根負けしてしぶしぶ応答することにしたのだが、開口一番、祖父兵銅はわけのわからないことを口走る。

「あんな女を食い物にする破廉恥探偵なんぞ、わしは断じて認めんからなっ!」

 いきなりの怒声。ひさしぶりに声を聞いた祖父兵銅は、昔とかわらずとんちんかんであった。いや、むしろそのとんちんかんぶりに阿呆要素が加わり、残念な方へと拍車が掛かっているらしい。
 いよいよボケたかと本気でおもった瑪瑙は「何をわけのわからないことを」とつぶやき、プツっと電話を切る。
 以降、着信拒否設定にしておいたのだが、祖父兵銅からナゾの電話があった数日後のことである。
 尾白探偵事務所が爆破される!
 との一報を受けた瑪瑙は、先の祖父兵銅の発言を思い出し「まさか!」
 あわてて電話をかけてみたら「あっはっはっはっ、天誅じゃ」と得意げに犯行を自白したげくに、一方的に「現在、宇陀小路家存亡の危機につき、すみやかに帰宅せよ」との通達。
 いろいろとショックすぎて、さしものデキるメイドさんもいささか冷静さを欠く。
 瑪瑙は淡々とした調子にて祖父に告げた。

「くたばれ」

  ◇

 とどのつまり尾白探偵事務所の爆破は、宇陀小路兵銅のかんちがいによるもの。
 裏日光猿軍団に孫娘の素行調査をさせたところ、唯一、親しげ? にしているらしき男の影を発見する。それを追ううちに相手が地元で探偵業を営んでいることがわかった。
 まあ、実力やら男ぶりやら生活態度などをざっと洗っていたところ、なにやら兎梅デパートの屋上にてイベントが開催されるらしいという情報を掴んだ裏日光猿軍団。
 カメラと盗聴器を仕込み、離れたところからこっそりと様子を探ることにしたのだが、そこで目撃したのは一人の男を巡って、複数の女たちがくんずほぐれつしている破廉恥な現場。

「なんというハーレム野郎っ、うやらまけしからんっ!」

 女教師にまつわる詳しい事情を知らぬエテ公忍者ども、いろいろ誤解したままに上へと報告をあげる。
 それを聞いた兵銅は大激怒!
 怒髪天をつく勢いにて、「おのれ、うちの孫娘をたぶらかすとは不埒千万じゃ。即刻、天誅を加えよっ」とツバを飛ばしながら命じた。
 その結果が、あの爆破騒ぎの真相である。

「本当に、うちの祖父がとんだ粗相を……」

 穴があったら入りたいとばかりに恐縮している瑪瑙さん。
 彼女の主人である紗月お嬢さんもいっしょになって「ごめんなさい。事務所の修繕やらビルのメンテナンスはこちらで責任を持ちますので」と陳謝。
 ついでに傷んでいるところがあったらまとめて修理するとまで言ってくれて、花伝オーナーはホクホク顔で「なんだか悪いねえ」
 しかしあまりにもしようもない理由にて吹き飛ばされたおれは呆れ顔にて「えー」である。


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