おじろよんぱく、何者?

月芝

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600 カタパルト

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 市内在住の猛者どもを一斉にはっとさせ、兎梅デパートに集めるほどのドス黒い殺気。
 そんなシロモノを近々にぶつけられたことにより、一時的にマヒしていたおれの化け術がここにきて復活する!
 機能不全に陥っていた間も化けヂカラは練られていたらしく、さながら堰を切った濁流のごとくあふれ出す。ふつうであればこれほど大量に発生したチカラを処理しきれずに、無駄に垂れ流すばかり。
 しかしおれは百化けの異名を持つ探偵。
 暴れるばかりのチカラの奔流を御し、これを使って華麗に「変化っ!」

 ドロンと化けたのはカタパルト。
 軍艦などから戦闘機を飛び立たせる装置。射手機とも呼ばれているアレだ。
 どうしてこんなモノに化けたのかというと、とりあえず目の前にいる不快な相手を遠くへポイッと捨ててしまおうとの魂胆である。

 いきなり足下に出現した長大なカタパルト。
 さすがのウルも「なんだ、これは?」と動揺を隠せない。
 その隙にシャトルの突起部分にて、ウルの足下をギュッと挟んで固定。これにて発射準備は完了した。

「というわけで、そろそろ退場願おうか。なおカウントダウンは省略させてもらう。では、ポチっとな」

 バシュと鋭い音がして、噴きあがる白煙。
 それと同時にシャトルに固定されたウルの身がグンと超加速。
 すべての景色を置いてけぼりにして、レール上を猛スピードにて運ばれていく。
 そのレールも通常のカタパルトのように水平ではなくて、やや上向きに角度をつけてあるから、さぞや飛距離が出ることであろう。

「ぐっ、やってくれる。だが、まあ、いい。いずれまた近いうちに会うことになるだろう。それまでに考えを改めるのならばよし。さもなくば、次は……」

 あいにくとウルの捨て台詞は最後まで聞き取れなかった。
 なぜなら奴はキラッと真昼のお星さまになってしまったから。
 うーん、あの勢いだと、たぶん二つぐらい市をまたいじゃうかも。

  ◇

 とりあえず聚楽第の総帥ウルを退けたものの、あまりグズグズとはしていられない。あれだけ派手に立ち回ったのだから、じきに騒ぎを嗅ぎつけてデパートの警備員とかが屋上にやってくるはず。
 見咎められたらややこしいことになる。
 ゆえに動ける者は負傷している者に肩を貸し、すぐに撤収することにする。

 復活したおれはカタパルトに続いてマイクロバスにドロンと「変化」
 みなを収容しトンズラすることにするも、ここでちょっと手間取る。

「ぐぬぬぬ、玄さん、重い~」とタヌキ娘。
「ヒグマですからね」とキツネ娘。
「あー、もう、面倒だな。尾白さん、悪いけど後部のハッチバックを開けてくれ。荷物置きの方に放り込んでおくから」とトラ女。

 ウルの顔面に一発入れた敢闘賞のヒグマの玄さん。
 なのに女どもからの扱いがぞんざいで、ちょっと気の毒。けどまだみんな戦いの余韻にて殺気立っているから、下手な言葉をかけたら、どんなとばっちりを受けるかわかったものじゃないので、おれは心の内にて「こんど試合のあとに一杯奢るから、すまん」と詫びておく。

  ◇

 積み込み作業やら、証拠の隠滅を完了したところで、いよいよ撤収。
 なおマイクロバスの運転はトラ美にお願いした。ふだんはハーレーな大型バイクにまたがりブンブン乗りまわしている彼女、じつは大型自動車免許も保有している。いつまでも無免許運転を繰り返すうちの助手にも、少しは見習ってもらいたいものである。

 立体駐車場の最上階からスロープをくだり、ゆっくりと降りていくマイクロバス。
 デパートを出たら、その足で高架下を抜けて、高月中央商店街の路地裏にある診療所に直行。ケガ人どもを光瀬菜穂に診てもらうつもりだ。

「しかし驚いたよ。ひさしぶりに顔を出そうとおもって高月に来たら、いきなりあんな事態が起こっていたものだから」

 ハンドルを回しながらトラ美が言った。
 芽衣と桔梗は学校で、その他の連中も各々ヤバい気配に驚いて、すぐさま現場に駆けつけたという。
 そうしたら探偵と輪郭がぼやけた不穏な気配を漂わせる男がいたという次第。

「なにアレ? ものすごく気持ち悪いやつだった」
「姿もそうですが、なんとも捉えどころがない相手でしたわ」

 芽衣が顔をしかめては唇を尖らせ、桔梗が柳眉を寄せている。
 間近で接した限りでは、けっして妖の類ではなく、動物なのはまちがいない。
 けれどもその正体がはっきりしない。とても大きいであろうことだけはなんとなくわかるが……。
 にしても彼女たちの目にもやはりウルの姿は、輪郭がぼやけて映っていたか。
 存在も気配もチカラも、なにもかもがデタラメ。
 邂逅のさなか、その件について疑問を抱いたおれにウルはこう耳打ちした。

「我は蘇った亡霊。本来であればこの時代にいるはずではない者。ゆえに、現代を生きる者たちの目には、正しく認識されないのだ」と。

 怪異とはちがう、世の理からはずれた者。
 そんなウルは他にも気になることを口にしていた。
 ヤツはたしかにこうも言っていた。「おまえは我と似たニオイがする」とも。
 ということはウルもまた珍獣なのだろうか?
 そうそう、気になるといえば、聚楽第の総帥がみずから高月の地に足を運んだことも気になるところ。

 超古代展の目玉である氷漬けのマンモスを見物にきたらしいのだが、あれほどの大物がそれだけのためにわざわざやってくるとは思えない。
 おれのことは、たまさかのついでっぽかったし。
 となればあとは何がある?
 おれは記憶を探り、ウルの言動のひとつひとつを丁寧に思い出しながら、奴の真意を探る。

「そういえば、あいつ、フェンス越しにある方角をやたらと熱心に見つめていたような……」

 おれははっとする。
 ウルが熱心に見つめていた先にあるのは、高月東高校。
 そこにはあの女がいるっ!


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