おじろよんぱく、何者?

月芝

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592 潜水トロッコでGO!

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 ずっと同志だと信じていた相手がじつはちがった。

「おまえはもういらない。用済みだ」

 とあっさりポイっされてしまった東郷隆盛。これはキツイ。
 かつては狂犬と呼ばれ恐れられた老闘士もガックシうな垂れ打ちひしがれている。
 だというのにカラス女ときたら、なんて言ったとおもう?

「やれやれ、どおりで最初っから小物臭がぷんぷんしているとおもったんだ」

 ときたもんだ。
 傷口に塩を塗りたくるかのようなデリカシーゼロの発言。
 あんまりなのでおれは説教する。

「おい! いくら本当のことだからって、言っていいことと悪いことがあるだろうが! ちったあ空気を読めよ、空気を」

 すると東郷隆盛は三角座りのまま、コテンと横になってあっちを向いてしまった。かすかに肩が震えている。どうやら泣いているらしい。
 まぁ、無理もあるまい。面と向かって「おまえなんか友だちじゃない」と言われたんだから。よほどショックだったのだろう。
 だから悲嘆する爺さまはしばらく放っておいて、おれとカラス女は今後のことを相談する。

「連中、出入り口の扉にカギをかけるだけじゃあきたらず、廃材やら土嚢なんかで塞いでいきやがった」
「せっせとどかしてなんとか逃げ出したとて、地上で捕まるのがオチだろう。かといって他にはどこにも逃げ道なんてなさそうだし」
「ちなみに高月署きっての敏腕女刑事さまは、爆弾の解体処理なんかは……」
「無理だな。あいにくと私はぶっ放すの専門なんだ。銃器類の手入れならともかく、あんなコードやら基盤がチマチマしたのは性に合わん」
「となると、どうしたものやら」
「おっ、そうだ。グッドアイデアを思いついたぞ、四伯」
「グッドアイデア?」
「なぁに簡単な話さ。四伯、あんたが頑丈な箱に変化して、そこに爆弾をぜんぶ放り込んでしまうんだ。そうすればみんな助かる。ハッピーエンド」
「いやいやいや、ちょっと待て! そのみんなでハッピーにおれのことが勘定されてねえじゃねえか」
「大丈夫だって。あの姫路アニマルキングダムでの大爆発をも防いだおまえならば、きっとできる……はず……たぶん」
「っ!」

  ◇

 おれとカラス女がわちゃわちゃ、「いいから、とっとやれ」「絶対にイヤだ」
 取っ組み合いをしていると、いきなり頭を杖でポカポカと叩かれた。
 誰かとおもえば東郷隆盛。いつの間にか復活していた爺さまが、指差したのは時限爆弾のタイマーの表示画面。
 残り時間がいつのまにやら三分を切っているではないか!

「バカたれどもめ。これだから近頃の若いやつは……」とぷつぷつ文句を垂れながらも東郷隆盛は言った。「脱出路に関してじゃが、ワシに心当たりがなくもない。ついてこい」

 東郷隆盛に案内されたのは、奥の壁際にある三メートルほどの大きさの水溜まり。
 爺さまによると、これは地下水が湧いたせいで水没した坑道の入り口とのこと。

「この奥を進めば別の出口に通じているはず。ただし、問題は水没している範囲がけっこう長いということだ。途中で息継ぎができる窪みでも残っておればいいのだが」

 ようは空気を思いっ切り吸い込んで、あとはひたすら真っ暗な水の中を潜行するということ。
 うん、せっかくの提案だが無理じゃね?
 だって、ヘビースモーカーの男と女と老人の三人組だもの。五十メートルダッシュでもヤバいのに、とてもとても……。
 なんぞと内心で落胆していたのだが、その時のことである。
 おれはピコンと妙案を閃く。探偵の灰色の脳細胞が、ものすごーくひさしぶりに仕事をした。ヒントはさっきカラス女が口にしていた。

「そうか、箱か。それならどうにかなるかも」とおれは独りごちる。

  ◇

 ドロンと変化。
 おれが化けたのは運搬用のトロッコの車両。こいつを逆さまにかぶってずぶんと水没すれば、トロッコの内部には酸素が溜まっており、しばらくはもつはず。
 これで水路をゆるゆる進む。
 我ながらナイスアイデア。

「なぁにがナイスアイデアだ、四伯。どっかで見たことあるぞ、コレ。完全にパクリじゃねえか」

 ジト目のカラス女。

「ワシも知ってる。あれは名作だ。下手な教科書をガキどもに拝ませるより、あれを全話視聴させた方が、よっぽど教育によろし。そして巨大飛行機は男のロマンじゃ」

 意外にアニメ好きな東郷隆盛。指名手配されており表立って動けない立場ゆえに、アニメとマンガを日々の慰めとしていたとか。なお化け術に関しては「ふーん」と適当に受け流しやがった。
 なんだかおれは釈然としないものの、いまはそれどころではない。

「おっと、ふたりとも無駄口はそこまでだ。酸素が減る。あと頼むから作品名だけは口にしてくれるな。いろいろややこしいんだから」

 かくして潜水トロッコを駆使して、脱出をはかる一行。
 途中まではわりと順調であったのだが、ひとつ誤算が生じる。
 それは爆発による大崩落の余波である。

 ズズンと来たとおもったら、背後からドンっと押された。

 わかりやすく現状を説明すれば、水鉄砲の原理、あるいはトコロテン。
 一切合切を闇に葬るべく暴れるチカラが破壊のかぎりを尽くした勢いのままに、殺到したのがおれたちのいるところ。
 ただでさえ不安定な水の中。
 とてもではないが踏ん張ってなんぞはいられない。
 荒れ狂う奔流を前に一行に成す術なし。

「わー!」「ぎゃー!」「のぉー!」

 ジタバタしているうちに、ついにトロッコが横転。はずみで化け術も解けてしまう。
 三人そろって流れに翻弄されているうちに、ついに限界がきたようで、おれの視界も暗転した。


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