おじろよんぱく、何者?

月芝

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577 偉大なる凡

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 イベント終了直後のごたごたのさなか、精力的に動いていたミワちゃんこと山崎美和子。
 困っている幼女の存在と、これを救うべく動いている活動についておおいに喧伝する。
 その過程で集めた情報により、上位に食い込んでいるであろうチームを推測し接近。自陣へと引き込むべく交渉を開始する。
 ちなみに千祭史郎の性癖を芽衣たちを通じて把握していたミワちゃんは、「激レアのBL同人誌があるだけど」と話を持ちかけたそうな。
 現在、超一流の売れっ子作家として活躍している先生、アマチュア時代の幻の一冊。発行部数たったの三十冊のうちのひとつ。
 どうしてミワちゃんがそんな貴重な品を持っていたのかというと、その大先生とやらが彼女の親戚のお姉さんだから。
 ファン垂涎の品にサイン色紙という餌に、ドーベルマンカマはパクリと喰いついたという次第。

 派手なロビー活動は多くの耳目を集める。
 当然ながら主催者側の耳にも届いていたことであろう。
 だがそれすらもがミワちゃんの狙いであった。
 もしも先ほど、千祭からの申し出を「ダメだ、ダメだ」と杓子定規に突っぱねて、萩野露草が断わっていたらどうなっていたか。
 一方で、受け入れたときに得られるメリット。
 これは大きい。七宝院グランモールのこけら落としに彩りを添える感動的なエピソードとして、後世にまで末長く語り継がれることであろう。企業イメージもぐぐんとアップする。
 加えて盛りあがっている会場の状況ともあいまって、とても断われる雰囲気じゃない。

 逃げ道をふさいでからの渾身の突撃。
 ミワちゃんの寄り切り勝ちである。
 もみくちゃにされながら、みなと喜びを分かち合っているミワちゃん。

「前々から不思議だったんだよなぁ。どうしてあんなふつうの子が、芽衣やタエちゃんみたいなキワモノと平然とつき合えるのかって。でも、今回のことで納得した。
 芽衣たちは本能でわかってたんだ。『あっ、この子、とっても頼りになる』と。無意識のうちに、当人も気がついていない群れのリーダーとしての資質を嗅ぎとっていたんだ」

 仲睦まじい乙女たちの輪に、おれがまぶしそうに目を細めていると、隣に居る千祭史郎が「うちに欲しい人材だわ。いまのうちにツバをつけておくべきかしら」とぶつぶつ。

  ◇

 感動のフィナーレを迎えたピンポン奪取大会。
 それで解散かと思いきや、ここでサプライズ。
 萩野露草は謝恩会なる立食パーティーの場を用意しており、参加者全員を招待するという粋なはからい。
 走り回ってすっかり腹ペコになっていた参加者たちが、よろこんだのは言うまでもなかろう。

 おおいに飲み食いしては、互いの健闘を称え合う人々。
 そんな賑やかな場から、誰に気づかれることもなく、いつの間にか姿を消していたのが山田羽菜。

 関係者専用の通路を歩く幼女。そのうしろには萩野露草の姿がある。
 向かう先には屋上へと通じている直通エレベーター。いつでも乗り込めるように扉が開いた状態で固定されており、その前には錫城と猩々木花駒の姿もあった。
 山田羽菜が歩きながら身に着けていた衣類を脱ぎ捨て、裸体をさらす。
 伏目がちな錫城が静々と山田羽菜の背後へとまわり、艶やかな白銀色をした打ち掛けをそっと羽織らせる。
 とたんに幼女の身に変化がおきる。

 肌の色が落ちていき、白く透き通るような肌へと。
 ガキリゴキリと骨が折れるような音がしては、手足が長くなり、背ものびた。
 肩のあたりで切りそろえられていた髪もずんずんのび、黒に近い茶であった色がたちまち白くなってゆく。
 幼女であった姿が、大人と少女の狭間ぐらいの年恰好となり、先ほどまで開いていたまぶたはすでに固く閉じられていた。
 わずかな間に本来の姿へと戻った七宝院白瑠璃。

「あとのことは良しなに」

 それだけ告げると錫城をともなってエレベーターへ乗り込む。
 ゆっくりと閉じたエレベーターの扉。
 恭しく頭をさげたまま、これを見送る萩野露草と猩々木花駒。
 表示灯の数字が上階を示し、遠ざかったのを確認してから、ようやく顔をあげた二人。

「どうなることかとヒヤヒヤしていたけど、あの様子ならば選定の儀はうまくいったみたいね。あー、疲れた」

 自分の肩を揉みほぐしながら首をゴキゴキ鳴らし萩野露草が「やれやれ」

「前回は江戸時代の元禄だか宝永の頃に行われたって話だけど」と猩々木花駒。

「ええ、聞いたところでは失敗して、富士の山がドカンと噴火しちゃったんだとか。いやあ、もしもそんなことになっていたら、被害甚大、経済ぐちゃぐちゃ、株価大暴落で大損をこいていたところよ。山崎美和子って言ったかしら、あの子に感謝しなくちゃね。偉大なる凡、バンザイ!」
「………………」

 あっけらかんと告げられた内容に、開いた口がふさがらない猩々木花駒。
 もしも参加者たちが我欲に走り、七宝院白瑠璃の意にそわぬ結果となっていれば、どのような災禍が地上に顕現していたことか。

 選定の儀。
 それは鬼を統べる者が気まぐれに行う儀式のこと。
 人を試し、動物を試し、社会をも試す。
 なにやら仰々しいが、本来であればけっしてムズカシイ試練ではない。
 ほんの少しだけでいい。たったひとりでかまわない。人が持つ光を、心の輝きを、その可能性をわずかにでも示せばいいだけのこと。
 それがあれば七宝院白瑠璃は世界に絶望しなくてすむ。「もう少しこのままでいいかしらん」という気になるのだから。


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