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565 受け継がれる魂
しおりを挟むステージに登場した変態ヒーロー五人組を前にして、客たちの反応はわりと好評、やんやの拍手と声援の雨あられ。
どうやら大半が「あれって、イベントの盛りあげ役だろう」程度に考えているのだろう。
だが、ピンポンレンジャーどもの実力を知るおれと芽衣は「ちっ」とそろって舌打ち。
その反応に怪訝そうな表情を浮かべる、ミワちゃんたちや千祭ら。
だからおれと芽衣は教えてやる。
「よりにもよって連中かよ。あの女社長、豪華賞品なんぞ、はなから渡す気がねえぞ」
「そうですよ。彼らはピンポンダッシュのスペシャリストです。ひと筋縄ではいきません」
かつて屯田団地を舞台にしてくり広げられたピンポンレンジャーと尾白探偵事務所との熾烈な戦い。
そのエピソードをかいつまんで説明してやったら、タエちゃん、ミワちゃん、桔梗ら女子高生組は「自分たちの街ってロクなのがいない」「変態だぁ」「高月っていったい……」と嘆き呆れ、千祭史郎からは「雑種、あんたもいろいろたいへんなのね」と肩をポンとされ、なぜだか同情された。あれ?
「えー、コホン。まぁ、それはともかくとして、ちょっと気になることがあるんだが……」
「四伯おじさんもですか? じつはわたしもなんです」
おれと芽衣が気になっていたのは五人組の紅一点であるピンポンピンク。
以前に対峙したときには、お色気ムンムンにて、胸元にはたわたな果実がぶら下がっていた愛戦士。
だが、いまはそれが消えてしまっている。
かわりにあったのがホームベースみたいな形をしたぶ厚い胸板が、びくんびくん。
筋肉の仕上がりが半端ない。まるでこれからボディビルの大会に出場する選手のようだ。パッツンパッツンのアクタースーツ姿がとっても逞しい。
というか、完全にムキムキのごつい男なんですけど!
性別そのものが変わってしまっている!
えっ、ひょっとしてメンバーチェンジ? 以前に送られてきた葉書に印刷されていた写真では、レッドと親密そうだったというのに……。
ピンポンピンクの身にいったい何が起ったというのか?
その激しい動きから自転車の格闘技とも称されるバイシクルモトクロス、通称BMXを駆るピンポンピンク。もしや遠征中に事故でも起こしたのかもしれない。
◇
「えっ、ピンクがケガ? いえいえ、ちがいますよ。彼女は産休です。いやぁ、じつは恥ずかしながら、こんど、正式に籍を入れることになりまして。いわゆるデキ婚というやつです。あっはっはっはっ」
説明会が終わり、イベント開始までの待ち時間。
心配になったおれと芽衣が関係者控室をたずねたら、「おぉ、よくきてくれました、尾白探偵、助手の洲本芽衣さん」と歓迎してくれたピンポンレッド。
で、挨拶もそこそこにさっそくピンポンピンクが別人になっていることを問い質したら、先の回答である。
ちなみにあのガチムチピンクはピンチヒッターとして、主催者側が用意してくれたんだとか。
フム。あのガタイからしてたぶん青鬼の一族なのだろうけど、いくら長の命令とはいえ、あの格好で壇上にあがることを強いられるとは、あまりにも不憫すぎる。
まぁ、それはそれとして。
おめでたと聞いてホッと胸を撫で下ろす探偵と助手。
しかし赤ちゃんができたらできたで別の心配がかま首をもたげる。
「奥さんと子どもを持つ家庭人になるんだったら、なおさら、こんなことしてたらダメじゃん」
至極真っ当なタヌキ娘の意見に、おれもうんうんうなづく。
すると全身コスプレの覆面姿にて表情こそはわからないが、神妙な面持ちっぽくうな垂れていたピンポンレッドが顔をあげてこう言った。
「じつは自分もそう考え、一時はチームの解散も考えたんです。守るべき者もできたことですし、いい加減、本業の会計士の仕事に集中すべきかと。
でも彼女がそんなのはダメだって。『飛ぶことをやめてしまったお行儀のいい鳥になんて、まるで魅力がないもの。たとえ片翼をもがれようとも、血みどろになって泥水を啜ってもなお、天を見上げて足掻いている鳥の方がよほど素敵よ』と言われましてね」
ピンポンピンク、超男前!
でもって変態の妻もまた変態であった。
この分では産まれてくる子もまた、零歳からの英才教育によってきっと立派な変態に育つのにちがいあるまい。
そして近い将来、屯田団地界隈に子連れピンポンレンジャーが出没することになるのであろう。
かくして次世代へと受け継がれる変態魂。
探偵は「なんてこったい!」と頭を抱え、助手は「そんな未来はイヤすぎる」とやはり頭を抱えた。
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