おじろよんぱく、何者?

月芝

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561 ささやかな野望

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 昼過ぎに出立。
 高月の地を横断している国道をひたすら西へ、西へと進むのはおれこと尾白四伯がハンドルを握るレンタカー。
 車内、後部座席にてよもやま話に華を咲かせている四人の女子高生たちをバックミラー越しにチラ見。

 今回、青鬼の長から召喚状もとい招待状を受けしぶしぶ出かけることになったわけだが、五人一組にてイベントに参加せよとのことであったので、助っ人に頼んだのは白妙幸、山崎美和子、出灰桔梗の三名。
 もっともこちらから誘ったのは先の二名のみにて、桔梗に関してはなかば押しかけ参加である。

  ◇

 黒髪の正統派美少女である出灰桔梗。
 容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群、人心卑しからず、家柄もよろしく、「高月南高校の白薔薇の君」と称えられるほどの才媛。ちょいと都心を歩けば芸能やらモデルの事務所のスカウト連中から声をかけられまくり。まるでアニメかマンガに登場する完璧ヒロインのような娘。
 だがしかし、人より突出し秀でている存在というものは、とかく孤立しがちである。
 御多分に漏れず、彼女もその口であった。
 誰もが彼女にかしずき、隣に並び立つのなんて恐れ多いとばかりに、一歩下がって距離を置く。
 そのせいで不本意ながらも、長らくボッチ生活を余儀なくされた桔梗。ひとりでも楽しめる釣りを慰めとしていたものの、芽衣やタエちゃんらと拳で語り合ったことをキッカケにして、そんな灰色の青春から脱却することに成功する。
 とはいえ、それはあくまで芽衣たちの前でだけのこと。
 通っている学校の生徒たちとの間には、あいかわらずクレバスのごとき深い溝がばっくり開いたまま。
 ゆえに彼女にとっては芽衣、タエちゃん、ミワちゃんの仲良し三人組は羨望の的。

 芽衣とタエちゃんとはガチで殴り合った仲にて、近頃ではずいぶんと距離が縮まったものの、一般人のミワちゃんとだけは、接点が薄く、いまだ距離を感じている。
 できれば親しくなって、あわよくば四人組になれたらうれしいな。
 との野望を密かに抱いていた出灰桔梗。どこぞより今回の話を聞きつけて、これさいわいと参加を表明した次第。

  ◇

 隣の隣のそのまた隣の市をも越えて、なおも走り続けるレンタカー。
 途中、自然渋滞やら、バスの尻につけたせいで多少もたつくものの、道行きはぼちぼち順調。
 そうして西陽が傾きはじめた頃である。
 進路上の右側に見えてきたのは、国道沿いに山脈のごとくそびえ立つ巨大なシルエット。

「あれが今回のイベント会場か……。しかしデカいな」

 まだ遠目にもかかわらず圧倒的な威容を前にして、おれはくわえていたタバコをあやうく膝の上に落としそうになる。
 芽衣たちも車窓に張りついては、「へー」「ほー」「デカっ!」「すごいですわね」と感心している。

 七宝院グランモール。
 萩野グループが資本提供して建造されたマンモス級の複合型商業施設。畿内最大級にして全国でも屈指の巨大さを誇り、端から端まで歩くと一キロ近くにもおよぶ。
 これの建造は地元全面協力の肝入りにて、この施設のためだけに道路には専用進入レーンと時差信号機が複数、新たに設置された。
 なお施設の名前は、おそらく鬼たちを統べる絶対女王・七宝院白瑠璃から拝借しているのだろう。

 ウインカーをカチカチ光らせ、レンタカーを専用レーンへと操車するも、おれはすぐにブレーキを踏むことになる。
 前方には十台ばかりクルマが鈴なりとなっている。おそらくは今宵のイベントに参加する者たちの車列なのだろう。
 ぼんやり前のクルマのブレーキランプを眺めながら信号待ちをしている間に、気がづけば後方にもけっこうな列が出来ていた。
 後続車が続々。
 ぱっと見には、どのクルマも不穏な気配は漂わせていない。なかにはカップルとおぼしき男女二人組、家族連れやらペットのワンちゃん同伴なところもある。和気あいあいといった雰囲気にて、どうやらみんな堅気っぽい。

 おれは密かにほっと胸を撫で下ろす。
 だってタヌキとヘビとキツネら三娘はともかくとして、ミワちゃんは武術の心得がまるでない一般人。誘ってみたはいいものの、ことと次第によっては即時撤退も考えていたからである。
 しかしこの様子ならば問題はなさそうである。招待状に書かれてあった「楽しいイベント」というのは本当であったようだ。

 と、考えごとをしていたら前のクルマのブレーキランプが消えて動きだしたもので、おれもそれに倣う。
 ゆっくりと動きだした車列。
 でもこの台数だから、もう一回ぐらい信号待ちをさせられるかと思いきやさにあらず。スルスルと進めて右折を完了。すみやかにモール敷地内へと進入できた。
 これって何げにすごいこと。
 なにせ時差信号にて、それだけ長い時間、国が定めた道の流れをぶった切っているということなのだから。


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