561 / 1,029
561 ささやかな野望
しおりを挟む昼過ぎに出立。
高月の地を横断している国道をひたすら西へ、西へと進むのはおれこと尾白四伯がハンドルを握るレンタカー。
車内、後部座席にてよもやま話に華を咲かせている四人の女子高生たちをバックミラー越しにチラ見。
今回、青鬼の長から召喚状もとい招待状を受けしぶしぶ出かけることになったわけだが、五人一組にてイベントに参加せよとのことであったので、助っ人に頼んだのは白妙幸、山崎美和子、出灰桔梗の三名。
もっともこちらから誘ったのは先の二名のみにて、桔梗に関してはなかば押しかけ参加である。
◇
黒髪の正統派美少女である出灰桔梗。
容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群、人心卑しからず、家柄もよろしく、「高月南高校の白薔薇の君」と称えられるほどの才媛。ちょいと都心を歩けば芸能やらモデルの事務所のスカウト連中から声をかけられまくり。まるでアニメかマンガに登場する完璧ヒロインのような娘。
だがしかし、人より突出し秀でている存在というものは、とかく孤立しがちである。
御多分に漏れず、彼女もその口であった。
誰もが彼女にかしずき、隣に並び立つのなんて恐れ多いとばかりに、一歩下がって距離を置く。
そのせいで不本意ながらも、長らくボッチ生活を余儀なくされた桔梗。ひとりでも楽しめる釣りを慰めとしていたものの、芽衣やタエちゃんらと拳で語り合ったことをキッカケにして、そんな灰色の青春から脱却することに成功する。
とはいえ、それはあくまで芽衣たちの前でだけのこと。
通っている学校の生徒たちとの間には、あいかわらずクレバスのごとき深い溝がばっくり開いたまま。
ゆえに彼女にとっては芽衣、タエちゃん、ミワちゃんの仲良し三人組は羨望の的。
芽衣とタエちゃんとはガチで殴り合った仲にて、近頃ではずいぶんと距離が縮まったものの、一般人のミワちゃんとだけは、接点が薄く、いまだ距離を感じている。
できれば親しくなって、あわよくば四人組になれたらうれしいな。
との野望を密かに抱いていた出灰桔梗。どこぞより今回の話を聞きつけて、これさいわいと参加を表明した次第。
◇
隣の隣のそのまた隣の市をも越えて、なおも走り続けるレンタカー。
途中、自然渋滞やら、バスの尻につけたせいで多少もたつくものの、道行きはぼちぼち順調。
そうして西陽が傾きはじめた頃である。
進路上の右側に見えてきたのは、国道沿いに山脈のごとくそびえ立つ巨大なシルエット。
「あれが今回のイベント会場か……。しかしデカいな」
まだ遠目にもかかわらず圧倒的な威容を前にして、おれはくわえていたタバコをあやうく膝の上に落としそうになる。
芽衣たちも車窓に張りついては、「へー」「ほー」「デカっ!」「すごいですわね」と感心している。
七宝院グランモール。
萩野グループが資本提供して建造されたマンモス級の複合型商業施設。畿内最大級にして全国でも屈指の巨大さを誇り、端から端まで歩くと一キロ近くにもおよぶ。
これの建造は地元全面協力の肝入りにて、この施設のためだけに道路には専用進入レーンと時差信号機が複数、新たに設置された。
なお施設の名前は、おそらく鬼たちを統べる絶対女王・七宝院白瑠璃から拝借しているのだろう。
ウインカーをカチカチ光らせ、レンタカーを専用レーンへと操車するも、おれはすぐにブレーキを踏むことになる。
前方には十台ばかりクルマが鈴なりとなっている。おそらくは今宵のイベントに参加する者たちの車列なのだろう。
ぼんやり前のクルマのブレーキランプを眺めながら信号待ちをしている間に、気がづけば後方にもけっこうな列が出来ていた。
後続車が続々。
ぱっと見には、どのクルマも不穏な気配は漂わせていない。なかにはカップルとおぼしき男女二人組、家族連れやらペットのワンちゃん同伴なところもある。和気あいあいといった雰囲気にて、どうやらみんな堅気っぽい。
おれは密かにほっと胸を撫で下ろす。
だってタヌキとヘビとキツネら三娘はともかくとして、ミワちゃんは武術の心得がまるでない一般人。誘ってみたはいいものの、ことと次第によっては即時撤退も考えていたからである。
しかしこの様子ならば問題はなさそうである。招待状に書かれてあった「楽しいイベント」というのは本当であったようだ。
と、考えごとをしていたら前のクルマのブレーキランプが消えて動きだしたもので、おれもそれに倣う。
ゆっくりと動きだした車列。
でもこの台数だから、もう一回ぐらい信号待ちをさせられるかと思いきやさにあらず。スルスルと進めて右折を完了。すみやかにモール敷地内へと進入できた。
これって何げにすごいこと。
なにせ時差信号にて、それだけ長い時間、国が定めた道の流れをぶった切っているということなのだから。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートの威力はすさまじくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
公主の嫁入り
マチバリ
キャラ文芸
宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。
17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。
中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる