559 / 1,029
559 帰ってきたピンポンレンジャー
しおりを挟む夕焼けをバックにアスファルトにのびた五つの影。
「速きこと風のごとし、ピンポンブルー」
「静かなるごと林のごとし、ピンポングリーン」
「侵略するごと火のごとし、ピンポンレッド」
「動かざること山のごとし、ピンポンイエロー」
「愛は地球を救う、ピンポンピンク」
「「「「「我ら五人そろってピンポンレンジャー」」」」」
ピンポンダッシュというイタズラに全身全霊をかけて取り組み、いつまでも童心を忘れない困った大人たちで結成された、昔の戦隊ヒーローみたいなコスプレをした五人組。
高月の地は南端部にある、全百棟からなる屯田団地や隣接する白樺マンション周辺を活動拠点にして、各戸の呼び鈴をピンポンしまくっていたピンポンレンジャーたち。
わざわざ予告状を送りつけては、厳重な警備の目を潜り抜け、鮮やかな手並みにて美女のハイヒールの片方のみを盗みだす変態紳士、怪盗ワンヒール。
女性の運動靴の中敷きのみに異様な執着をみせ、目的を達成するためならば無駄に高度な最新技術を駆使することも辞さない魔改造変態、怪人インソールダブルエックス。
ピンポンレンジャーたちは彼らとともに高月三大変態に数えられる存在。
とはいえ怪盗ワンヒールと怪人インソールダブルエックスに比べれば、ずいぶんと健全にて変態度合いもぐんと下がる。
だがしかし、その実力は本物。
ブルーは風を読むことに長け、ハングライダーを自在に操っては街中を滑空する。
グリーンは火薬の扱いに長けており、オリジナル花火を巧みに使いこなしては、場を支配する。
レッドは身体能力に非常に秀でており、限定的とはいえうちのタヌキ娘をも出し抜く超人ぶりを発揮した猛者。天地無用にてパルクールの選手のように軽快に動く。
イエローは忍者ばりに隠れ身の術を駆使しては気配を消し、こそそこ暗躍する。
胸が立派な愛戦士ピンクはBMXにまたがっては颯爽と戦場を駆け、いかなる悪路をもものともせずに突き進む。
かつて我が尾白探偵事務所に「勝負しろ!」と挑戦状を叩きつけてきたピンポンレンジャー。
すっごく、すっごく、ものすっごーくイヤだったけど、あんまりにもしつこいものだから、しぶしぶ五番勝負に応じたところ、結果は三勝二敗。尾白探偵事務所の惜敗に終わる。
その勝利を引っ提げて高月の地を飛び出し、全国行脚の武者修行の旅へと赴いたピンポンレンジャー。
以来、頼んでもいないのにときおり事務所に葉書が届いては、近況を報せてきてはいたのが……。
◇
「すっかり存在を忘れていたのに……。いっそのことそのまま世界に飛び出せよ。そして二度と帰ってくるな」
近衛雅子に変装していた怪盗ワンヒールより、ピンポンレンジャーたちが近々凱旋すると聞かされてから、おれはちょっとウツウツしている。
心なしか、ここのところ降りかかる災難の間隔が狭まりつつあるような気がする。それすなわちおっさんの平穏がずんずん遠ざかっているということ。
だというのにうちのタヌキ娘ときたら。
「よっしゃあー、リベンジマッチです。次は負けませんから」
なにやらやる気が満ち充ちている芽衣に、おれはげんなり。
郵便物が届くたびに、またぞろ挑戦状が入っていやしないか。
びくびくしながら過ごしていた、そんなある日のことであった。
ピンポンレンジャーからの挑戦状は届かなかったが、奇妙な封書が送られてくる。
奇妙とはいっても、心霊写真でパンパンに膨らんだ封筒や、新聞や雑誌の切り抜き文字で作成された怪文書の類ではない。
少なくとも見た目はきちんとした品。
だたし送り主が問題であった。
『萩野グループ代表取締役、萩野露草(はぎのつゆくさ)』
萩野グループといえば、ローン会社やら証券会社なんかを複数傘下に治めている業界最大手。ぶっちゃけ一流どころであり、街のしがない探偵屋風情からすれば、接点なんぞはまるでない雲の上の存在である。
でもってまだ駆け出しの頃のことだ。おれはクレジットカードの審査で落とされたことがある因縁の相手でもある。大学生でも余裕で審査に通るという話だったのにもかかわらず、ピシャリと拒まれたときの衝撃たるや。あの屈辱をおれはいまも忘れてはいない。
だがいまはそんなことはどうでもいい。
その当時は知らなかったのだが、萩野グループを経営しているのは鬼たち。
当然ながらその頂点に立つ代表の萩野露草もまた鬼であり、しかもたしか青鬼の長だったはず。
そんな相手からの封書を前にして、おれはしばし「うーむ」と腕組みにてにらむばかり。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
狐侍こんこんちき
月芝
歴史・時代
母は出戻り幽霊。居候はしゃべる猫。
父は何の因果か輪廻の輪からはずされて、地獄の官吏についている。
そんな九坂家は由緒正しいおんぼろ道場を営んでいるが、
門弟なんぞはひとりもいやしない。
寄りつくのはもっぱら妙ちきりんな連中ばかり。
かような家を継いでしまった藤士郎は、狐面にていつも背を丸めている青瓢箪。
のんびりした性格にて、覇気に乏しく、およそ武士らしくない。
おかげでせっかくの剣の腕も宝の持ち腐れ。
もっぱら魚をさばいたり、薪を割るのに役立っているが、そんな暮らしも案外悪くない。
けれどもある日のこと。
自宅兼道場の前にて倒れている子どもを拾ったことから、奇妙な縁が動きだす。
脇差しの付喪神を助けたことから、世にも奇妙な仇討ち騒動に関わることになった藤士郎。
こんこんちきちき、こんちきちん。
家内安全、無病息災、心願成就にて妖縁奇縁が来来。
巻き起こる騒動の数々。
これを解決するために奔走する狐侍の奇々怪々なお江戸物語。
推理小説家の今日の献立
東 万里央(あずま まりお)
キャラ文芸
永夢(えむ 24)は子どもっぽいことがコンプレックスの、出版社青雲館の小説編集者二年目。ある日大学時代から三年付き合った恋人・悠人に自然消滅を狙った形で振られてしまう。
その後悠人に新たな恋人ができたと知り、傷付いてバーで慣れない酒を飲んでいたのだが、途中質の悪い男にナンパされ絡まれた。危ういところを助けてくれたのは、なんと偶然同じバーで飲んでいた、担当の小説家・湊(みなと 34)。湊は嘔吐し、足取りの覚束ない永夢を連れ帰り、世話してくれた上にベッドに寝かせてくれた。
翌朝、永夢はいい香りで目が覚める。昨夜のことを思い出し、とんでもないことをしたと青ざめるのだが、香りに誘われそろそろとキッチンに向かう。そこでは湊が手作りの豚汁を温め、炊きたてのご飯をよそっていて?
「ちょうどよかった。朝食です。一度誰かに味見してもらいたかったんです」
ある理由から「普通に美味しいご飯」を作って食べたいイケメン小説家と、私生活ポンコツ女性編集者のほのぼのおうちご飯日記&時々恋愛。
.。*゚+.*.。 献立表 ゚+..。*゚+
第一話『豚汁』
第二話『小鮎の天ぷらと二種のかき揚げ』
第三話『みんな大好きなお弁当』
第四話『餡かけチャーハンと焼き餃子』
第五話『コンソメ仕立てのロールキャベツ』
柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治
月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。
なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。
そんな長屋の差配の孫娘お七。
なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。
徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、
「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。
ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。
ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
こちら第二編集部!
月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、
いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。
生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。
そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。
第一編集部が発行している「パンダ通信」
第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」
片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、
主に女生徒たちから絶大な支持をえている。
片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには
熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。
編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。
この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。
それは――
廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。
これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、
取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。
便利屋ブルーヘブン、営業中。~そのお困りごと、大天狗と鬼が解決します~
卯崎瑛珠
キャラ文芸
とあるノスタルジックなアーケード商店街にある、小さな便利屋『ブルーヘブン』。
店主の天さんは、実は天狗だ。
もちろん人間のふりをして生きているが、なぜか問題を抱えた人々が、吸い寄せられるようにやってくる。
「どんな依頼も、断らないのがモットーだからな」と言いつつ、今日も誰かを救うのだ。
神通力に、羽団扇。高下駄に……時々伸びる鼻。
仲間にも、実は大妖怪がいたりして。
コワモテ大天狗、妖怪チート!?で、世直しにいざ参らん!
(あ、いえ、ただの便利屋です。)
-----------------------------
ほっこり・じんわり大賞奨励賞作品です。
カクヨムとノベプラにも掲載しています。
皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜
菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。
まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。
なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに!
この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる