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555 強襲作戦・上
しおりを挟む「オートロックに、おしゃれな外観、一面ガラス張りの玄関口、エントランスの屋根が高っ。……いいとこに住んでるなぁ、悪党のくせして」
詐欺集団が拠点をかまえている高層マンションを前にして、芽衣がぶつくさ。
「詐欺は儲かるからな。この手の犯罪にちょっかいを出す輩は、犯行こそ緻密で巧妙なくせして、生き方が刹那的だから金遣いがとにかく荒い。いずれ破綻して捕まるにしても、それまでは我が世の春を謳歌する気マンマンだから性質が悪いんだ」
おれがくわえタバコにて見解を述べると「他人さまから騙し盗った金で贅沢三昧とは許せねえなぁ」と応じたのは助っ人要員である、タエちゃんことヘビ娘の白妙幸(しろたえみゆき)。
あまりにも特徴的過ぎるがゆえに、今回は彼女のトレードマークである金髪リーゼントはおろしてもらっての参戦。
部屋に籠って奸計をめぐらしているであろう悪党一味。
ぶちのめして依頼人のお金を回収するだけならば、おれと芽衣だけでもこと足りるのだろうが、混乱のさなかに逃げられたらめんどう。下手に騒がれても困る。そこで襲撃を確実かつ、より速やかにこなすためにとタエちゃんにも声をかけた次第。
事情を聞いたタエちゃん、「バイト代がもらえて、実戦スパーリングがこなせて、しかも人助けになるんだから、喜んで手を貸すぜ」と二つ返事でオーケー。
本日の強襲作戦は至極簡単なもの。
正面より芽衣とタエちゃんが乗り込んで、連中をボコボコにして鎮圧。
その間、マンション裏口にておれは念のために見張りに立ち、もし逃げ出してくる者がいれば取り押さえ、制圧後に依頼分を回収し、あとはカラス女に丸投げする。
突入前に三人で再度手はずを確認していると、タエちゃんが言った。
「なぁ、尾白さん。突入するのはいいんだが、芽衣とオレが正面から乗り込んでも、あのセキュリティじゃあ、中には入れてもらえないんじゃないかな」
「あー、それなら心配いらない。協力者が招き入れてくれることになっているから」
オートロックを突破するのに一番てっとり早いのは、そこの住人に中に入れてもらうこと。
でもって今回はわりとすぐに協力者が得られた。
詐欺一味がアジトにしているマンションが判明したところで、おれが足繁く通ったのは最寄りの公園。
目的は同マンションに住む子連れの奥さま方への接触。
若いのがゾロゾロ複数出入りしている部屋があれば、彼女たちの耳に届かないわけがない。当然ながら不審がっている。迷惑な隣人なんぞは誰だってノーサンキュー。
管理会社に「なんとかしてくれ」と不安を訴えても、いまいち反応は鈍く積極的に動いてくれない。かといってみずから乗り込むほどの勇気はない。
できることといったら、住人同士の井戸端会議で鬱憤を吐き出すことぐらい。
そこにおれこと尾白探偵が「ちょっとよろしいですか」と声をかけ、かくかくしかじか。
当たり障りのないレベルにて事情を説明しつつ、言葉巧みに取り入ったという次第。
「奥さま方、存外、乗り気でね。やっかい払いができるんだったら、よろこんで協力するからドシドシやってくれってさ。ちょっとぐらい派手に暴れても知らぬ存ぜぬを決め込むよう、内々に通達も回してくれるって話だから」
連中、ゴミ出しのマナーや柄が悪いせいで、めちゃくちゃ他の住人たちから疎まれていやがんの。
おかげでびっくりするぐらいトントン拍子に話がまとまった。
ぶっちゃけマンションに居座っている悪党一味以外の、ほとんどの住人がこちらの味方についてくれている状況。
「というわけだから芽衣とタエちゃんは安心して暴れてくれ。でも建物への被害は最小限に留めること。あんまりハメをはずしたら、今度はおれたちが奥さま方ににらまれちまう。なにせここは彼女たちにとっては大切な城だからな。うっかり資産価値を下げようものならば、たちまち牙をむかれるぞ」
くれぐれも注意するようにとおれが言い含めると、二人は「わかった」「了解」と殊勝な表情にてうなづいた。
◇
正面から乗り込んだ芽衣とタエちゃんが、協力者の招きにより無事にオートロックを突破したのを見届けてから、おれはひとり建物の裏側にある非常階段へと向かう。
詐欺一味が根城にしているのは十二階の五号室と六号室。片や仕事部屋、もう一方を宿舎として利用しているっぽい。並びで二室丸ごととは剛毅なことである。
事前の張り込みにて判明している一味の人数は十八名。
詐欺グループを率いる主犯格は慈景信彦(じけいのぶひこ)。
まだ若い男にて、某有名大学の四回生。ちゃらいサークル活動を装っては若者を集めて、食い物にしている。高学歴と高身長かつ整った容姿を悪用し、高収入を得ている呆れた人物。
「ったく、せっかく学んで溜め込んだ知識をくだらないことに使いやがって。義務教育プラスアルファ分が台無しじゃねえか」
非常階段をおっちら登りながら、おれは嘆息。
「……にしても遠いな、十二階」
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