おじろよんぱく、何者?

月芝

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548 大鳳屋敷

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 バスに飛行機に電車にローカル電車と乗りついでひたすら北へ北へと。

 車屋千鶴に無理矢理引っ張られておれと芽衣が連れてこられたのは、東北の某県のとある地方の山深いところにある大きな屋敷。
 敷地面積千坪を誇る、超大な日本家屋。
 戦前に建てられた屋敷にて、建てたのは大鳳文左衛門おおとりぶんざえもんなる人物。
 この人物は戦争成金にて、大砲や弾頭などの武器製造にて一代で巨万の富を築く。現代でいうところの死の商人。
 そのありあまる財を投入して建てられたのが、この大鳳屋敷。
 地元の人間は妬みや皮肉まじりに、ここを「たいほうやしき」と呼ぶ。

 国はともかく県の有形文化財に指定されてもおかしくない規模の建造物。
 けれどもずっと雨風に晒されるままに放置されていたせいで、かろうじて原型はとどめているものの、いまでは立派なあばら家と成り果てている。
 ひさしく忘れ去られており、静かに朽ちていくばかりであった場所。
 それがひょんなことから注目を浴びるようになったのは、心霊系のネット動画配信。
 各地のパワースポットやらいわくのある場所や廃墟なんぞを探訪しては実況するという企画のモノ。その中で「ここは本当にヤバい!」と最恐のお墨付きを与えられたのが大鳳屋敷であった。

 心霊系のネット配信をわざわざ視聴するような人間は酔狂にて、はなからその手のことが大好物。
 しまいには「どれ、それほどまでに言うんだったら、ちょいと行って自分の目で確かめてみようか」なんぞと妙な行動力を発揮する者もちらほらあらわれる。
 その結果、どうなったのかというと……。

 みんな消えてしまった。

 怖いもの見たさで屋敷へと踏み込んだ全員が全員、誰も出てこない。
 それきりとなる。

 ことが発覚するまでにはたいして時間はかからなかった。
 行方不明者の中には家族と暮らしている者もいれば、会社に勤めている社会人もいたからである。ちっとも帰ってこなかったり出勤してこなかったら、周囲が不審におもうのが当たり前。携帯電話もつながらない。
 で、心配になり身内がひとしきり心当たりを探すもどこにもいない。
 そこで警察に行方不明届けを提出。
 この手の届け出は受理だけされておざなりにされているようなイメージがあるが、それはちがう。警察とてやるべきことはちゃんとやっている。たしかに少しばかり予算と人員が足りないことは否めないが。
 調べてみれば消えた面々がみな「ちょっと大鳳屋敷に肝試しに行ってくる」と周囲に話していたもので、足どりはすぐに追えた。
 しかしいざ現地へと赴てみれば、屋敷はしぃんと静まり返っており幽霊屋敷然としている。

「ひょっとしたら中で怪我でもして動けなくなっているのかも」

 そう考え意を決して踏み込んだ警察の人間たちであったが、彼らもまたそれきり連絡を断ってしまった。

  ◇

「そんなことが度重なって、ついにうちの出番となったんですよ。ったく、もっと早くに連絡を寄越せばいいものを、これだから面子や縄張りにこだわる連中はキライなんです。面倒くさいったらありゃしない。結果、五十人以上も行方不明者を出してるんですから、呆れますよね」

 ゆえについたあだ名が人喰い屋敷。
 そんな屋敷の正面入り口前に立ち、車屋千鶴がやれやれとぶつくさ嘆いている。
 ちなみに発端となった配信動画はすでに削除されており、関連情報も片っ端から閲覧不可の処置をとられ、情報封鎖が行われているとのこと。

「さすがにすべてのデータを消去することは無理ですが、案外、情報そのものは簡単に制御できるんですよ。昔みたいにサーバーやらサイトが雨後のタケノコ状態で乱立していませんから。たいていの場合、大手を抑えればそれでこと足ります。枝先をちょこちょこ剪定せずに、根元をバッサリと」

 手をチョキにして、さらりと怖いことを口走る国税局八番課の役人。
 国家権力の抱える矛盾と闇のいったんを垣間見た探偵と助手は慄くばかり。
 そんなおれたちに車屋千鶴がこともなげに言った。

「では、そろそろ行きましょうか。レッツ、ゴー」

 さっさと歩き出そうとする車屋千鶴。
 おれはあわてて背後からその肩に手をかけ「ちょっと待て」と制止。

「なんの考えもナシに突入したら、先の連中の二の舞じゃないか」
「そうですよ、いくらなんでも無謀です」

 芽衣もおれに加勢する。
 だが、くるりとふり返った車屋千鶴は不思議そうに首をかしげ、「だったら訊くけど、なにかいいアイデアがあるの?」と逆に問うてきたもので、探偵と助手は「うっ」と返答に窮した。もっともらしいことを口にはしたものの、コレという考えがあったわけではない。

「虎穴に入らずんばなんとやら。それにあんまりのんびりともしていられないのよ。なにせ最初の行方不明者が出てから、すでに二週間近く経っているから」と車屋千鶴。

 それすなわち命のタイムリミットが残りわずかということ。
 人間、水さえあれば三十日から四十日は生きられるとされているが、まったく何も摂取しなければ二週間が山とされている。
 のんびり対策を練っている猶予はない。
 車屋千鶴はあえてみずから相手の手の内に飛び込み、中から喰い破るつもりなのだ。
 彼女の死んだ魚のような目はいつも通り。だが、その奥に固い決意があるのを前にしておれと芽衣は、もう何も言えなくなってしまった。


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