548 / 1,029
548 大鳳屋敷
しおりを挟むバスに飛行機に電車にローカル電車と乗りついでひたすら北へ北へと。
車屋千鶴に無理矢理引っ張られておれと芽衣が連れてこられたのは、東北の某県のとある地方の山深いところにある大きな屋敷。
敷地面積千坪を誇る、超大な日本家屋。
戦前に建てられた屋敷にて、建てたのは大鳳文左衛門なる人物。
この人物は戦争成金にて、大砲や弾頭などの武器製造にて一代で巨万の富を築く。現代でいうところの死の商人。
そのありあまる財を投入して建てられたのが、この大鳳屋敷。
地元の人間は妬みや皮肉まじりに、ここを「たいほうやしき」と呼ぶ。
国はともかく県の有形文化財に指定されてもおかしくない規模の建造物。
けれどもずっと雨風に晒されるままに放置されていたせいで、かろうじて原型はとどめているものの、いまでは立派なあばら家と成り果てている。
ひさしく忘れ去られており、静かに朽ちていくばかりであった場所。
それがひょんなことから注目を浴びるようになったのは、心霊系のネット動画配信。
各地のパワースポットやらいわくのある場所や廃墟なんぞを探訪しては実況するという企画のモノ。その中で「ここは本当にヤバい!」と最恐のお墨付きを与えられたのが大鳳屋敷であった。
心霊系のネット配信をわざわざ視聴するような人間は酔狂にて、はなからその手のことが大好物。
しまいには「どれ、それほどまでに言うんだったら、ちょいと行って自分の目で確かめてみようか」なんぞと妙な行動力を発揮する者もちらほらあらわれる。
その結果、どうなったのかというと……。
みんな消えてしまった。
怖いもの見たさで屋敷へと踏み込んだ全員が全員、誰も出てこない。
それきりとなる。
ことが発覚するまでにはたいして時間はかからなかった。
行方不明者の中には家族と暮らしている者もいれば、会社に勤めている社会人もいたからである。ちっとも帰ってこなかったり出勤してこなかったら、周囲が不審におもうのが当たり前。携帯電話もつながらない。
で、心配になり身内がひとしきり心当たりを探すもどこにもいない。
そこで警察に行方不明届けを提出。
この手の届け出は受理だけされておざなりにされているようなイメージがあるが、それはちがう。警察とてやるべきことはちゃんとやっている。たしかに少しばかり予算と人員が足りないことは否めないが。
調べてみれば消えた面々がみな「ちょっと大鳳屋敷に肝試しに行ってくる」と周囲に話していたもので、足どりはすぐに追えた。
しかしいざ現地へと赴てみれば、屋敷はしぃんと静まり返っており幽霊屋敷然としている。
「ひょっとしたら中で怪我でもして動けなくなっているのかも」
そう考え意を決して踏み込んだ警察の人間たちであったが、彼らもまたそれきり連絡を断ってしまった。
◇
「そんなことが度重なって、ついにうちの出番となったんですよ。ったく、もっと早くに連絡を寄越せばいいものを、これだから面子や縄張りにこだわる連中はキライなんです。面倒くさいったらありゃしない。結果、五十人以上も行方不明者を出してるんですから、呆れますよね」
ゆえについたあだ名が人喰い屋敷。
そんな屋敷の正面入り口前に立ち、車屋千鶴がやれやれとぶつくさ嘆いている。
ちなみに発端となった配信動画はすでに削除されており、関連情報も片っ端から閲覧不可の処置をとられ、情報封鎖が行われているとのこと。
「さすがにすべてのデータを消去することは無理ですが、案外、情報そのものは簡単に制御できるんですよ。昔みたいにサーバーやらサイトが雨後のタケノコ状態で乱立していませんから。たいていの場合、大手を抑えればそれでこと足ります。枝先をちょこちょこ剪定せずに、根元をバッサリと」
手をチョキにして、さらりと怖いことを口走る国税局八番課の役人。
国家権力の抱える矛盾と闇のいったんを垣間見た探偵と助手は慄くばかり。
そんなおれたちに車屋千鶴がこともなげに言った。
「では、そろそろ行きましょうか。レッツ、ゴー」
さっさと歩き出そうとする車屋千鶴。
おれはあわてて背後からその肩に手をかけ「ちょっと待て」と制止。
「なんの考えもナシに突入したら、先の連中の二の舞じゃないか」
「そうですよ、いくらなんでも無謀です」
芽衣もおれに加勢する。
だが、くるりとふり返った車屋千鶴は不思議そうに首をかしげ、「だったら訊くけど、なにかいいアイデアがあるの?」と逆に問うてきたもので、探偵と助手は「うっ」と返答に窮した。もっともらしいことを口にはしたものの、コレという考えがあったわけではない。
「虎穴に入らずんばなんとやら。それにあんまりのんびりともしていられないのよ。なにせ最初の行方不明者が出てから、すでに二週間近く経っているから」と車屋千鶴。
それすなわち命のタイムリミットが残りわずかということ。
人間、水さえあれば三十日から四十日は生きられるとされているが、まったく何も摂取しなければ二週間が山とされている。
のんびり対策を練っている猶予はない。
車屋千鶴はあえてみずから相手の手の内に飛び込み、中から喰い破るつもりなのだ。
彼女の死んだ魚のような目はいつも通り。だが、その奥に固い決意があるのを前にしておれと芽衣は、もう何も言えなくなってしまった。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
稲荷狐の育て方
ススキ荻経
キャラ文芸
狐坂恭は、極度の人見知りで動物好き。
それゆえ、恭は大学院の博士課程に進学し、動物の研究を続けるつもりでいたが、家庭の事情で大学に残ることができなくなってしまう。
おまけに、絶望的なコミュニケーション能力の低さが仇となり、ことごとく就活に失敗し、就職浪人に突入してしまった。
そんなおり、ふらりと立ち寄った京都の船岡山にて、恭は稲荷狐の祖である「船岡山の霊狐」に出会う。
そこで、霊狐から「みなしごになった稲荷狐の里親になってほしい」と頼まれた恭は、半ば強制的に、四匹の稲荷狐の子を押しつけられることに。
無力な子狐たちを見捨てることもできず、親代わりを務めようと奮闘する恭だったが、未知の霊獣を育てるのはそう簡単ではなく……。
京を舞台に繰り広げられる本格狐物語、ここに開幕!
エブリスタでも公開しています。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる