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547 東の車屋またまた
しおりを挟む化け術にて人間社会に潜り込んでは、のうのうと暮らしている動物たち。
そんな彼らが苦手とするモノ。
ひとつは鬼。
人間とも動物ともちがう第三の種族にて、なんかもう、いろいろとおっかない連中ゆえに、あんまりかかわりたくはない。
ひとつはダンプカー。
積載量を無視して荷物を山積み、猛スピードを出しているアレは、もはや砲塔のない戦車と変わらない。
当たればたちまちぐしゃりと挽肉にされてしまう走る凶器。
毎年、どれほどの動物たちがアレの犠牲になって無惨な最期を遂げていることか。オヨヨヨヨヨ……。
ひとつは猟師の鉄砲。
ズドンとやられたらかなわないゆえに、やはりあまりかかわりたくはない。もっとも街中で遭遇することはまずないので、かつてほどの危機意識はないが、やはり苦手である。火薬のニオイと鉄臭いのがどうにも鼻につく。あとジビエ料理の流行なんぞ、クソ喰らえ!
そして忘れてはいけないのが、国税局八番課。
かつては都の花形であった陰陽寮の成れの果てにて、現在は動物や妖相手の徴税をメインに活動している部署。
とかくがめついのが国という巨大なケモノ。
いつもぐぅぐぅ腹をすかせており、「とっとと銭を寄越せ」と納税の催促。支払うことにはとことん渋るくせに、集金することにはめちゃくちゃ熱心。その情熱とやる気を向けるべき場所は他にいくらでもあるだろうに。
国税局としては、税金さえ納めてくれるのならば、人間だろうが、動物だろうが、妖怪だろうが、幽霊だろうが、宇宙人だろうが、なんら問題はないというスタンス。
というか、いまや高額納税者の半分は人外であることは知る人ぞ知るところ。
しかし根がお気楽な性質の毛玉ども。
「税金? 納税は国民の義務? そんなの知ったこっちゃねえよ。誰が払うか、バーカバーカ」
という考えの者がちらほらいたりする。
そんな滞納者のところへと押しかけては、厳格に徴収するのが彼ら八番課に所属する役人たち。
一度目をつけられたが最後、地の果てまでも追いかけ回されて、尻尾どころか尻の毛までむしりとられる。実際に毛皮を税金代わりにむしられた動物たちは数多。生きながらに毛皮をはがされる恥辱や恐怖たるや筆舌に尽くしがたく、毛玉どもにとっては悪夢以外のなにものでもない。
国税局八番課の役人たちには各々、担当区域があり、高月の地を含む畿内全般を担当しているのが車屋千鶴(くるまやちずる)という人物。
中性的な顔立ち、華奢な容姿、少女マンガに登場する美少年のような女性だが、年齢不詳にて瞳が死んだ魚の目にそっくり。主に物理攻撃で怪異をねじ伏せる滅殺系の陰陽師。愛用の手提げカバンの中には危ない道具類がわんさか詰まっている。
ふだんは東京にいる彼女だが納税の時期には畿内をまわる。その頃になるたびに、こっちの動物界はざわざわざわ。
我ら高月中央商店街でも「東より車屋がくる。一同くれぐれも注意されたし」との緊急連絡が回るほど。
だが彼女は税金関連以外でもふらりと各地を訪れることがある。
それは国益を損なう怪異案件が持ち上がったとき。
出動して、すみやかに対処するのもまた国税局八番課のお役目。
要請があれば東へ西へと。
◇
出先からおれが探偵事務所に戻ったら、車屋千鶴がソファーに座って熱々の緑茶をすすってた。
第一助手の芽衣の姿はない。おそらくは逃げたのであろう。
迷惑な客の応対は第二助手のしらたきさんが務めてくれている。
「ふぅ、しらたきさんの淹れてくれるお茶は格別ですね。茶葉のクオリティが二段階はあがりますよ。やはりここを辞めてうちにきませんか? 厚遇をお約束しますよ」
ぬけぬけと人の目の前で事務所のスタッフを引き抜こうとする車屋千鶴。
おれはどっかと彼女の前の席に腰をおろす。
「いったい何の用だ? まだ納税の時期じゃなかったはずだが」
胡乱げに問いながら懐からとりだしたタバコに火をつけたところで、にへらと車屋千鶴がイヤな笑みを浮かべる。
それだけでおれは彼女の来訪目的を悟った。
かつて高月は北西部の郊外にある洋風の屋敷が、次々と怪異に見舞われて困っているという事件があった。
依頼を受けてさっそく調査へと赴いたおれと芽衣。そのときに門前で鉢合わせしたのが縁で、以降、ちょいちょい車屋千鶴の仕事を手伝わされている。
報酬こそはきちんと支払われるが、微妙に割りに合っていないから、断わりたいところなのだが、こちとら叩けばホコリがばふんばふんする身にて、いかんともしがたく。
ではどうしてやたらとおれを巻き込みたがるのかというと、彼女によればおれは怪異に好かれる性質らしく「とても引きがいい」とのこと。
逆に彼女はちがう意味で調査対象に「引かれる」らしく、せっかく現地まで調査に赴いても、肝心の怪異が鳴りを潜めてしまい出てこないこともしばしば。
なのに尾白四伯というエサを連れて行けば、あら不思議。
たちまち喰いつきがよくなるどころか、入れ食い状態にてフィーバー。サービスタイムに突入しちゃう。
そのせいでいまや国税局八番課内ではおれのことを「疑似餌」とか「怪異ホイホイ」なんぞとあだ名しているそうな。
湯飲みをそっとテーブルに置いた車屋千鶴が、死んだ魚の目でじっとこちらを見つめながら言った。
「尾白さん、人喰い屋敷に行きましょう」
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