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531 鳥獣劇画
しおりを挟む「待てや、こらーっ!」
「ちょこまか逃げてんじゃねーぞ!」
「死なすぞ、ボケ!」
「往生せえやっ!」
「いてまうぞ、コラっ!」
飛び交うのは怒号に罵声に聞くに堪えない罵詈雑言。
こんな言葉を投げかけられながら止まるヤツがいたら、そいつの頭の中はきっとお花畑になっているのにちがいあるまい。
よってトラ美が駆るオフロードバイクが止まることはなく、これを追う連中も止まらない。なおも続くバイクとクルマの鬼ごっこ。
一方でコンテナターミナル周辺の火勢は海風を受けて、ますます勢いを増すばかり。
さすがに身の危険を覚えたのか、腰がひけて逃げ出そうとする与太者どもも出始めたところで「ウ~ウ~」「カンカン」と聞こえてきたのは、けたたましいサイレンの音。
ずんずん現場に近づいているのは多数のパトカーや消防車など。
府警の軍団が遅ればせながら登場!
だがこれにより事態は収束に向かうどころか、かえって混迷の度合いを深めることになる。
たちまちそこかしこにて勃発する衝突、乱闘騒ぎ。
災いを運ぶ銀禍と呼ばれる英円の思惑通りの騒乱が、ついに幕を開けてしまった。
こうなってはもう行きつくところまで行かなければ事態は収まらないだろう。
そんな渦中にいつまでも居残っていては、じきに火ダルマにされてしまう。
というか、現状、すでにけっこうな火の粉の実害を受けている!
「急いで抜け出さないと」
「とはいえ、これじゃあ……」
焦るおれとトラ美。方々を逃げ惑ううちに現在位置をすっかり見失っており、いまどの方角に向かって走っているのかもわからないありさま。
出来ればいったん停車して高所にのぼって確認したいところだが、それを許してくれないのが執拗な追跡。
どうにか振り切ろうとあがくも、なかなか引き離せない。
ばかりか、むしろ距離が少しずつ縮んでいる。
原因はバイクに化けているおれだ。
ここにきて蓄積されたダメージにより肉体が悲鳴をあげ始めた。体内にて練りあげている化けチカラの生産力がみるみる落ちている。このままでは術を維持するのが困難になるのも時間の問題。
どうする? いっそのこと術を解除して、連中のクルマを奪うべきか。
判断に迷っているうちにも、バイクの速度は落ちてゆく。
「尾白さんっ! このままだと追いつかれる」
「ぐっ、わかってるよ。だがもう……」
ここぞとばかりにいっきに距離を詰めてきた与太者どもの追跡車両。
それこそぶつける勢いにて猛然と迫る。実際に跳ね飛ばしてこちらの動きを封じた上で、ゆっくりと料理するつもりなのだろう。
もしも体当たりをかまされたら派手に転倒して万事休す。
絶対絶命のピーンチ!
その時のことであった。
前方の火影から悠然とこちらに向かって歩いてくるひとりの女。
全身黒づくめの不良刑事、安倍野京香である。くわえタバコにてライフル銃を肩に担いでいる。
カラス女は無造作に武器をかまえたとおもったら、問答無用でズドンズドンと二連射。銃口が火を吹き、右前輪が破壊され、ボンネットをかち上げられた先頭車両がたまらず蛇行したかとおもったら、映画のワンシーンさながらに派手に横転した。これに巻き込まれて後続の数台がおしゃかになる。
すれちがいざま、カラス女がとある方角を指し示す。どうやら逃走経路を示唆してくれているようだ。
返礼として、おれたちは英円をポイっと投げ捨ててゆく。
サイドミラー越しに荷物が無事に受領されたことを確認しつつ、おれたちは先を急ぐ。
◇
どうにか燃え盛るコンテナターミナルを脱出したおれたちは、そのまま夢洲を横断し南端部分へと到達。
ぱっと見たかぎりでは海上封鎖まではされていないっぽいことを確認してから、おれは最後のチカラを振り絞って、ふたたび「変化っ」
ドロンと化けたのは水上バイク。
これにてちゃっちゃと咲洲方面に渡ってしまおうとの魂胆である。
「ちょ、尾白さん、あんた大丈夫なのかい? さっきもう限界が近いって言ってたのに」
「まぁ、ぶっちゃけギリギリだがな。そこは意地でどうにかするさ」
「でも……」
「でももへちまもない。いいから、とっとと運転しやがれ」
「う、うん、わかったよ。でもダメだとわかったらちゃんと言ってくれよ。あたいはこれでも泳ぎはかなり達者なんだ」
「おう、頼りにしているぜ」
夜の海の上を滑るようにしてひた走る水上バイク。
かくしておれたちはどうにか夢洲から逃げ出すことに成功。府警の大捕り物に巻き込まれずに済んだのだが、あいにくと最後の方はよく覚えていない。
極度の疲労に加えて、無茶を続けたせいでついに腹の傷がぱっくり開いたもので……。
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