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530 炎の迷路
しおりを挟むドンッ! ドンッ! ドドンッ!
大きな爆発音がいくつも鳴り響き、地面が揺れて上下する。
おれが化けているアイアンメイデンが煽りを喰らってバタンと転倒するほどの衝撃。
倒れたひょうしに化け術も解けたのだが、顔をあげるなりおれの目に飛び込んで来たのは、真っ赤っかの光景。
あがる火柱、炎が天を焦がし、焔が壁となり、黒煙を引き連れては熱風が辺りを席捲し、なおもあちこちで小爆発が続いている。
コンテナターミナル、絶賛炎上中。
「ゲホゲホゲホ、このニオイはガソリンを仕込んでいたのか。どうやって逃げおおせるつもりなのかとおもっていたら、とんだ力技じゃねえか! なんてマネをしやがる!」
どうやら当初の予定では銀禍ことトラ狂女の英円は、与太者やら警官なんぞが殺到し、ケンカ祭が最高潮に達したところでドカンとやって、混乱のどさくさにまぎれて悠々逃亡をはかるつもりであったよう。
だが探偵からおもわぬ逆襲を喰らったもので、急遽予定を変更。
死なばもろともとばかりに、起爆スイッチを押しやがった。
だがそれだけじゃない。
これは狼煙だ。「自分たちはここにいるぞ」という合図。
当然ながら英円と弧斗羅美にお礼参りをするためにと夢洲に集っていた与太者どもも、騒ぎを嗅ぎつけゾロゾロとこちらに向かってくるだろうし、治安を脅かす不埒者どもの一斉検挙を目論む府警の面々もおっとり刀で駆けつけてくるはず。
「やばいぞトラ美、すぐにずらからないと」
「あー、そうしたいのは山々なんだけど、ちょっとばかし遅かったかも」
獣人化を解いたトラ美と合流し、あわてて逃げ出そうとした矢先のこと。
火事場をものともせずに突っ込んでくる暴走車が多数。
けたたましいブレーキ音。路上にタイヤ痕を刻み急停車するなり、乱暴にドアが開けられ、中からゾロゾロと姿をあらわす与太者ども。みな手には得物を携えている。
前後を抑えられて、たちまち多勢に囲まれてしまう。
ふだんのトラ美であればこれぐらいの囲み、余裕で破れるだろう。
だがいまは心身ともに満身創痍にて、百花斉放を使った反動もあるはず。おれもかなり疲弊している。英円にいたっては完全にのびておりただのお荷物状態。いっそのことうっちゃっていきたいところではあるが、品性下劣な飢えた野獣どもの群れに残していくのはさすがにしのびない。
というわけで、じくじくぶり返してきた腹部の傷の痛みをこらえつつ……。
「トラ美、三十六計逃げるにしかず。変化っ!」
ドロンと化けたのはオフロードバイク。
こちらの意図を察したトラ美が英円を脇に抱えすぐさまバイクに飛び乗り、器用に片手でハンドルを握ってはアクセルをブゥロロロンと盛大に噴かし、ウイリーをするなり急発進。
いきなり突っ込んできたバイクをあわてて避ける与太者ども。
なかには立ちふさがろうとする剛の者もいたが、気の毒なことに容赦なく跳ね飛ばされた。
かくして俺たちは囲いを強引に突破。
だがすぐさま追手がかかり、いまや炎の迷路と化しつつあるコンテナターミナルにて激しい逃走劇を繰り広げることになる。
◇
逃げるオフロードバイクを追う複数の車両。
トラ美が余計な荷物を抱えているということもあり、運転にいつもの精彩がない。速度もいまいちにて、追手との距離がじりじりと縮まってゆく。
じきに丁字路に差し掛かり、バイクは右へと曲がる。
が、先は行き止まり!
トラ美は前輪をロックし後輪を滑らしあわてて急旋回。
すぐさまUターンしようとするも、すでに背後には車両が迫っていた。
それでもトラ美は怯むことなく、向かってくる車の群れへと突っ込む。
だが敵もさるもの。同じ轍は踏まないとばかりに、車を並走させ壁となり、バイクが通り抜けられる隙間を即座に塞ぐ。
けれどもオフロードバイクは減速せず。
ぐったりしている邪魔な荷物をバイクの前部にあるタンクの上へくの字に掛け置き、自身の上半身や胸部にて落ちないように抑え込みつつ、トラ美はハンドルを両手でしっかりと握る。
フルスロットルにてさらに加速するオフロードバイク。
ずんずん近づくバイクと車両の一群。
たちまち両者の距離が縮まる。
もはや急ブレーキをしたとしてもどちらも止まれない。衝突必至の距離にまで接近したところで、おもむろにオフロードバイクの前輪が大きく持ち上がり、バイクそのものがドンっと跳ねた。
クルマのボンネットに着地したオフロードバイク。
そのまま真っ直ぐに突き進み、フロントガラスを砕きながら屋根へとのぼり、ついには勢いのままに飛び越えた。
かくして見事なドライブテクニックにて急場をしのいだトラ美であったが、追手はまだまだ大勢残っている。
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