おじろよんぱく、何者?

月芝

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511 開店休業中

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 ただいま尾白探偵事務所は開店休業中である。
 なぜなら探偵が不在だから。
 知り合いに協力を頼まれて神戸くんだりにまでホイホイ出かけたっきり、ちっとも帰ってこない。連絡のひとつも寄越さないものの、「弧斗羅美がついに寄り切ったか」と早合点した助手の芽衣は「だったら邪魔をするのは野暮というもの。ここはおとなしく朗報が届くのを待つとしよう」と気を利かせる。
 しかしこれが裏目にでる。
 そのせいでことが露見するまで、数日間を要した。

 二日経ち、三日待ち、さすがにシビレを切らした芽衣がトラ美にメールで問い合わせてみたら、「尾白さんなら仕事が終わってすぐに帰ったぞ」との素っ気ない返信。
 その淡泊かつ短い文面から、二人の間にロマンチックでラブな展開はなかったことは一目瞭然。
 ならば探偵はどこをほっつき歩いているのか?
 当人に直接問い質すべく芽衣が連絡をとろうとするも、尾白の携帯電話の電源が入っていない。何度かけなおしてもちっともつながらない。
 しかも間の悪いことに、こんな時にかぎって美味しそうな依頼が舞い込んでくるではないか!
 タヌキ娘がやきもきしているうちに、探偵不在のままついに四日目が過ぎた。

「……さすがにヤバいかもしれない」

 なにかとズボラなおっさんではあるが、尾白が周囲に何も告げずにここまで留守にしたことはかつてなかった。
 不安になった芽衣はとりあえず事務所が入っている雑居ビルのオーナーである花伝美咲に相談するも、「あん? どうせそのへんで野垂れ死んでいるんだろう。放っておきな」とけんもほろろ。商会長さんやら、周囲にいる大人たちに相談してみるも、みな似たり寄ったりの反応。誰一人まともに取り合ってくれなかった。
 これも日頃の行いが悪いせい。身に覚えがありすぎてグゥの音も出ないタヌキ娘。
 そこで第二助手の白滝さんと相談の上で警察に、というか馴染みの女刑事に頼もうとしたのだが……。

「あー、安倍野はただいま職務で出払っておりまして」

 と高月警察の受付は塩対応。
 なにやら重要な案件が持ち上がっており大阪中央に出向しているそうで、よほど忙しいのかちっとも連絡がつかない安倍野京香。
 すっかり当てが外れて気ばかりが焦るタヌキ娘。
 ついには迷走の果て、断腸の想いにて駅を越えて足を運ぶのは同業他社のところ。
 人探しといえば探偵の十八番。
 尾白探偵事務所のライバル桜花探偵事務所・高月支店。
 珍しい客に「あら?」と首をかしげたのはドーベルマンカマこと千祭史郎。あれこれ仕事が出来るのに中身がほどほどに腐っており、ちょっと残念な大人。
 それでもワラにもすがるおもいで芽衣は相談してみたのだけれども、話を聞き終えた千祭史郎が「ふむ」とうなづき開口一番。

「なんならうちでアレの行方を追ってもいいけど、条件がひとつあるわ。芽衣ちゃん、あなた、雑種のところを辞めてうちに来なさい」

 乙女の弱味につけ込むかのようなゲスな取引を提示されて激昂したタヌキ娘。
 返答は拳で済ませて、さっさと桜花探偵事務所高月支店を辞去する。あんまりにもムカついたもので去り間際に玄関脇に飾ってあった大きな観葉植物の葉っぱをぶちぶちむしっておいた。
 ちなみドーベルマンカマと尾白は「雑種」「駄犬」と呼び合う仲である。

 あぁ、ケンカするほど仲がいいというのはウソっぱちであったのか。
 女の友情もたいがい幻想だが、男の友情もじつはたいしたものではない。
 いろいろと大人たちにガッカリしつつ、芽衣がトボトボと高月城北商店街を歩いていたところ、たまさか行き会ったのは学校帰りの出灰桔梗。
 高月南高校が誇る才媛、白薔薇の君と呼ばれるキツネの美少女の顔を見るなり、いきなり抱きついたタヌキ娘が「うわーん、桔梗ちゃーん。大人たちがてんでダメダメで、ちっとも頼りにならないよぅ」と泣きつく。

  ◇

 かくかくしかじか。
 芽衣の口より事情を聞いた出灰桔梗は「でしたら情報屋さんを頼るのはどうでしょうか」と提案する。
 この高月の地で情報屋といえば、北の天神さんの鎮守の森を根城にしているアナグマのショーン。尾白探偵とは公私渡って交流があり、きっとチカラになってくれるのにちがいあるまい。なにより彼ならば報酬がフライドチキンですむから、とっても安上がり!

「その手があったか! さすがは桔梗ちゃん、頭がいいね」

 タヌキ娘から褒め千切られて、くねくね身をよじり「いやん」と照れるキツネ娘。
 彼女は周囲から称賛され慣れてはいるものの、高嶺の花が過ぎるあまり同年代の親しい友人は非常に少ない。
 孤高といえば聞こえがいいが、けっこうボッチ気質。
 ゆえに芽衣の反応が内心でうれしくってしようがない。危うく人化けの術が解けて尻尾がひょっこりしちゃいそうなほどに。
 そんな出灰桔梗が困っている友人を放っておけるわけもなく、「わかりました。私もいっしょに行きますから、ちょっと待っていて下さい。家にカバンを置いてきますので」と申し出た。

 テッテレー♪
 タヌキ娘は頼りになるキツネ娘のお供をゲットした。


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