504 / 1,029
504 口八丁
しおりを挟むこうやって面と向かって蛇波羅怜美と対峙して、二言三言、言葉を交わしてわかったこと。
それは彼女が他人からアレコレと指図されるのが大キライということ。
でもって氷の女王との異名からもわかるとおり、ヘタに泣いて縋って情に訴えたところで逆効果と、おれは看破する。
大文字桃子は面倒見のよい姉御肌だという。
そういう気質の人間には適当に誤魔化したりせずに、本音をドーンとぶつけるのがよい。恥も外聞もかなぐり捨ててこそ、相手の胸襟を開き信を得られる。
でも蛇波羅怜美のようなタイプにそれをやってもムダ。
みっともない姿をさらせばさらすほどに、みるみる彼女の温度は下がり、心底見下げられて呆れられ相手にされなくなる。かといって利だけを賢しらに説いてもやはりダメ。露骨な思考誘導は反発を招く。
彼女は冷酷なのではない。あくまでドライで冷徹なのだ。
やるべきことを取捨選択し、やるべきでないことは一顧だにしない。
ゆえに氷の女王を動かすには、彼女の中にある、彼女だけの行動規範、優先順位を刺激して、少しでもランクを上へと押し上げる必要がある。
そこでおれは、まず第一投を放つ。
「ガングロ姫、茂木優里亜が消えた」
事実のみを単刀直入に告げる。
これを耳にした蛇波羅怜美は柳眉をわずかに動かすこともなく「それが?」と無関心な返事。
思っていた以上に淡泊な対応。しかし予想の範疇にはある。そこでおれは淡々と言葉を続ける。
「近頃、彼女の周囲には不審な影がちらついていたらしい」
第二投も事実の羅列。
蛇波羅怜美は近くにいるタヌキ娘を警戒しつつ。
「……まわりくどい。よもやとは思いますが、もしかしてそれが私どもの仕業とお疑いですか?」
自分で口にした言葉に目を細める蛇波羅怜美。声のはしばしには不機嫌さがにじみ出ている。
おれは肩をすくめてみせては、やや大きく首を横に振りこれを即座に否定する。
そしてすかさず第三投。
「詳細はまだわからん。だが八羅会の仕業ではないと断言できる」
外部の人間、それも今日はじめて当校を訪れたばかりの探偵がそう言い切ったことに、若干の興味を覚えたのか、蛇波羅怜美の柳眉の端がわずかにピクリ。
先をうながされたと判断し、おれは続けておしゃべり。
「八羅会と雷火組、きみと大文字桃子、いろいろと相違点が際立っているみたいだが、共通していることもある。それは向かってくる相手には堂々と立ち向かい、これをねじ伏せようとする気概の持ち主だということ。でなければ、これほど表立っての乱闘騒ぎなんて起こすはずがない」
姑息な手段をとろうとすれば、いくらだって可能だろう。
でも両陣営ともにあくまで直接対決にての決着を望んでいることは、グランドの現状が証明している。
世紀末学園が求めているのは、この学園の生徒たちが欲しているのは、自分たちが拝するにふさわしい絶対王者。
ゆえにいかに賢かろうとも卑怯卑劣な小物なんぞは願い下げなのである。
玉座にもっとも近いところにいるのが蛇波羅怜美と大文字桃子の両雄。
ここで相手を叩きのめし決着をつければ、あるいはその玉座が手に入るのかもしれない。だがしかし……。
おれはここで第四投を放つ。
「えー、こほん。いまから仮定の話をする。でも、かなり確率は高いと思うからそのつもりで」
との前置きをしてからおれは自説を展開する。
「もしも、だ。一連の騒動の裏に誰かがいて……、というかこれは十中八九いると断言できる。なにせおれ自身が謎の二人組に拉致されて、合戦を引き起こす火種にされたからな。問題は彼女たちがあくまで実行犯に過ぎないということ。そして狙い通りに騒ぎが起きてご覧の通りだ。あげくのはてにみなの注意がグランドに集まっている隙に、ガングロ姫ちゃんが消えた。ずっと彼女をつけ狙っていた輩がいて、たまさか今回の騒動が起こったから利用した? その可能性もまったくないとは言えないが、あんまりにも都合が良すぎるだろう。ふつうに考えればつけ狙っていた輩が働きかけたと考えるのが妥当だ」
ここでいったん言葉を切ったおれはタバコをとりだし火をつける。おれ自身が落ち着くことと、氷の女王を焦らすのが狙い。
そして頃合いを見計らって次なる第五投を放つ。
「そういえば茂木優里亜は過去に誘拐事件に巻き込まれたことがあったよな? そこにいる大文字桃子の活躍でことなきをえたというけど、その時の主犯格の男っていま……」
おれはそこでピタリと口をつぐんだ。あえてこれ以上は語らない。
断定はできないし、なんら確証もないからだ。
だから続きは聞く者の想像にまかせる。
さて、この話を聞いた者はどう考えるであろうか?
たいていすぐに思い浮かぶのは「復讐」とか「逆恨み」なんぞの物騒な単語であろう。
なにせ相手は保険金詐欺を画策し、うまくいかないとなると保険屋の外交員の娘をさらって、無理矢理に言うことをきかせようと考える阿呆だ。
はっきり言って性根が腐っている。
そんなヤツがほんの数年、刑務所のお世話になったところで会心するとはとてもとても。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。



ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる