おじろよんぱく、何者?

月芝

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500 乙女戦争、勃発!

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 グランドにてにらみ合う八羅会と雷火組の両陣営。
 その狭間にてイスに腰かけている探偵。
 剣呑にて一触即発のピリピリした空気に、おれはドキドキ。これから起こりそうな出来事を想像すると、タバコを持つ手が自然と震えてしようがない。
 あれ? ヘンだな。なにやら自分が運動会の棒倒し競技の棒になったかのような錯覚を覚えるんだけど……。

「うちの客人にちょっかいを出すとはいい度胸だな、怜美」
「そちらこそこんな果たし状を寄越すだなんていい度胸をしているじゃない。あと気安く下の名前で呼ばないでくださる、大文字桃子さん」

 雷火組の大文字桃子。
 八羅会の蛇波羅怜美。
 トップ同士が挨拶がわりにとばかりに、いきなり舌戦をはじめた。
 それにともなって周囲もやんやと囃し立てる。
 これによりいっきに高まる熱量。戦いの気運がぐんぐん急上昇。
 渦中にて鎖に繋がれているおっさんはハラハラ。でも、巻き込まれただけの部外者であるがゆえにこの場にいる誰よりも冷静でいられる。
 おれは先ほどの彼女たちの会話が微妙にかみ合っていないことに早々に気がつく。

 大文字桃子は客人を横からかっさらわれてご立腹。
 一方で蛇波羅怜美は無礼な手紙で呼び出されてご立腹。
 双方ともにぷりぷり怒っている。けどこれってアレじゃないのかな?
 新聞部の峰藍理子が危惧していた第三者の介入。ということは職員室前の廊下からおれを拉致した二人組の狙いは、八羅会と雷火組との正面切ってのつぶし合いということになる。

「おいおい漁夫の利をかっさらうつもりかよ」

 いかん、このままではマズイ。
 おれはあわてて腰をあげて、双方にいったん落ちつ着くように説得を試みる。
 しかし無駄であった。猛り興奮している群衆の耳にはいかなる言葉も届かない。
 おそらくは蛇波羅怜美と大文字桃子の両名も、すでに自分たちが誘い出されたことを理解している。しかしいったん理性という堤を壊してあふれ出した激流は、いかに強力なリーダーであろうとも個人では止めようがない。
 この時点で出来ることは、ただひとつ。
 それは流れに抗うのではなく乗ることで、己が陣営を勢いづかせて勝利をもたらすこと。

 蛇波羅怜美と大文字桃子。
 二人がそろって第一歩を踏み出す。
 これを合図として両陣営の者どもが一斉に駆け出し、たちまち衝突が起り、すぐに大乱闘へと発展する。
 羅刹の花園にて乙女戦争、勃発!

  ◇

 ヤンキー映画さながらに、集団同士が激しくぶつかる。
 怒号渦巻く混戦のさなか、バイクのチェーン片手に大文字桃子に襲いかかったのは、八羅会の幹部のひとり。白い羽織の裾をひるがえしながら「死にさらせ」と手にした凶器をぶんまわす。
 これを大文字桃子は平然と片手で受け、逆にチェーンを持った相手ごとあっさり明後日の方向へと投げてしまった。以降、大将首を狙う雑兵どもを千切っては投げ、千切っては投げ。
 まさに豪傑に相応しい獅子奮迅の活躍をみせては、敵勢を薙ぎ倒してゆく。

 蛇波羅怜美も負けてはいない。
 黒革の手袋をつけた拳が狂喜乱舞。無礼にも女王の前で膝をつかぬ不埒者どもを、情け容赦なく殴り飛ばしては、強制的にひれ伏させてゆく。
 背後から鉄パイプ片手に踊りかかってきた相手には、懐から取り出した携帯警棒をジャキンとのばして対処。流れるように攻撃をさばいては、すれちがいざまに一撃くれて黙らせる。その動きはさながら時代劇の剣客のごとき。

 大文字桃子が陣頭に立ち味方を鼓舞すれば、蛇波羅怜美はつねに広く視野を保ち的確に味方に指示を与える。
 タイプは異なるがどちらもリーダーとしては素晴らしい資質にて、頼もしいことこの上なし。
 一方その頃、戦場のど真ん中に鎖でつながれたままのおっさんはというと……。

  ◇

「げっ、この枷、ご丁寧にカギだけじゃなくて、ダイヤル錠までつけてやがる!」

 とっとと逃げ出そうとしたのに拘束がとれない。
 だから杭を引っこ抜こうとするも、よほど深く打ち込んでいるらしく、こちらもビクともせず。周囲に大勢の目があるからうかつに化け術を使うわけにもいかない。
 しかもありがた迷惑なことに大文字桃子が仲間たちに「客人のおっさんを確保しろ」と命じていたらしく、助けにきてくれたのはいいけれども、これを見た八羅会の者どもが「あんなシケたおっさんなんぞには微塵も興味はないが、さりとてみすみすくれてやることはねえ」と邪魔を目論む。
 結果、おれを巡って争いが! 
 周囲でど突き合いが始まってしまい、おれは「ひょえーっ。こんなハーレム展開、ちっともうれしくねーっ!」


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