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493 世紀末学園
しおりを挟む茂木優里亜が通っているという学校に行ってみたら、そこはとんだ羅刹の園!
大人気アウトローヤンキー漫画を実写映画化したかのような場所。
女子高と聞いていたのだが、甘い幻想を粉砕する荒廃っぷり。
探偵と助手が校門前であんぐり立ち尽くしていると、いつの間にやら個性豊かな面々に囲まれていた。当校の生徒たちである。
「なんだぁ、てめえは? やんのかこらぁ!」
いきなり因縁をつけられておれはすっかり困り顔。
しかしここで波風を立てるのは得策ではない。そこで動揺を隠しつつおれはさりげない仕草で「自分はこういうものなんだが」と名刺を差し出す。「じつはここに通っている茂木優里亜さんって子に用事があってね」
探偵という職業はべつに珍しいものではない。
全国にて事務所をかまえているし、探せばけっこう身近にいる。
けれども一般人が日常でかかわる機会はそうそうない。
そこで探偵の肩書を提示された際に、相手の反応はおおまかに二種類に分類される。
ひとつは、興味津々で喰いついてくる。
これは推理小説とか二時間サスペンスドラマ好きとかの主婦に多い傾向。好奇心旺盛な若い子らも、わりと前のめり。
いまひとつは、一歩引いて胡乱そうな顔をする。
こちらは慎重で用心深い性格か、もしくは身に覚えがある者に多い傾向。不倫なんかをしている男なんかは目に見えて狼狽するからとってもわかりやすい。
……でもって今回はいくら相手がばりばりの不良娘とはいえ、いちおうは女子高生の範疇に入っている子。
だから、てっきりこちらの話に乗ってくるかとおもいきや、さにあらず。
「あぁあん? てめえか、このごろ優里亜のまわりをちょろちょろしているってストーカー野郎は! いい歳こいた大人が高校生の尻を追っかけまわすたぁ、ふてえ野郎だ。二度とそんなマネをしようとなんて考えねえようボコボコにしてやんよ」
いきなり猛烈にぶちギレられた。
どうやらいろいろと誤解があるみたい。
だからおれはどうにかそれを解こうとするも、目を吊り上げては興奮しイキリ立っており、まるで効く耳をもたない。
「おっさん、ヤキ入れて腐った性根を叩き直してやんよ。ちょっとこっちこいやっ!」
むんずと手首を掴まれ、前後左右を複数に囲まれたまま校舎裏へと連行されてゆく。
いくら「誤解だ」「冤罪だ」「おれは無実だ」とおれが声を大にして主張したところで、「うるさい、黙れ変態! 痴漢や下着ドロボウの犯人とかもきまってそう言うんだよ」とけんもほろろ。
抵抗むなしく探偵はズルズルと引っ立てられていく。
当然ながら連れの助手もいっしょに「おら、おまえもだ。このちんちくりん」と連行されようとしていた。
けれども不良娘どもは知らなかった。
そのちんちくりんの正体がじつは狂暴な毛玉だということを。
「あっ」
まの抜けた声を発したのはタヌキ娘の芽衣。
後方から頭へとのびてきた手についカラダが勝手に反応。手をかわしつつ肘打ち。
からの時計回りに拳、拳、肘、膝の流れるような攻撃にて、自分の周囲にいた連中を一掃。
たちまちぐしゃりと倒れ伏した連中を見下ろしての、先の芽衣の声。
そこに込められた意は「いっけない、ついやっちゃった。てへ」である。
突然のことに固まる現場。
だが、仲間をやられたとあっちゃあ黙ってはいられない。
それが不良の世界。世間や大人たちにはやたらと噛みつくくせして、不良は存外仲間想いだったりする。あとなんだかんだ文句を言いつつ通い続けるほどには、学校大好き。
この事態にすぐさま「てめえ、よくもやりやがったな!」という怒声が起こり、たちまち剣呑な雰囲気となる。
騒ぎを聞きつけてぞろぞろと集まってくる者数多。
このままではマズイと判断したおれはすかさず叫ぶ。
「いかん、逃げるぞ芽衣」
◇
校内を逃げ惑う探偵と助手。
それを追う不良娘たち。
外へと逃げたかったのだがままならず。とっさのこともあり校舎側へと走るしかなかったおれたち。
ときに校庭の繁みに隠れ、ときに非常階段の物陰に潜み、ときに体育倉庫の屋根にはりつき、ときにドロンとポリバケツに化けてはタヌキ娘を収納してやり過ごす。
しかし時間を経るほどに追跡の勢いが弱まるどころか、逆に追っ手の数が雪だるま式に増えていく。
正門や後門に職員用の通用門など主要な経路はとっくに封鎖されている。
こうなってはもうしようがない。
鉄条網は少々やっかいだが、高い壁をのり越えて退避するしかあるまい。
だからそうしようと壁に近づいたのだが、その時、付近の繁みがガサゴソガサゴソ……。
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