おじろよんぱく、何者?

月芝

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491 紫の薔薇幼稚園

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 ミワちゃんが近所の知り合いに連絡をとってくれている間、探偵と助手はとりあえず紫の薔薇幼稚園へと行ってみることにした。
 まぁ、行ったところで門前払いは確定しているので、あくまで外から眺めるだけであるが……。

「へー、ここが紫の薔薇幼稚園ですか、ミッションスクールっぽい作りですねえ。園の敷地を囲んでいる柵の形もオシャレです。園の建物もどことなく教会っぽいといいますか、西洋の宮殿やお城を連想させるというか」
「あー、でもここの経営母体、たしかお寺だぞ」

 だというのに和風ではなくて洋風なのは、そっちの方が親御さんの受けがいいから。
 舶来の品をやたらとありがたがった時代の名残り。もしくは悪しき風潮。
 おれたちがウロウロしながら園を眺めていたら、不意にウィーンというモーター音がした。
 何かと思えば、外灯に設置されている防犯カメラ。
 そいつの首が回ってこっちをじーっと見ている。
 うーん。そろそろ警備員らが駆けつけてきそう。

「そろそろ行くか、芽衣」
「了解です、四伯おじさん」

 トラブルに見舞われる前に探偵と助手はすたこら退散する。

  ◇

 ミワちゃんの知り合いとはファミリーレストランで会った。
 気さくな子で、事情を説明したらなんら疑うことなくいろいろと教えてくれる。

「それで似顔絵の子なんだけど、さすがに昔のことすぎて私は覚えてないの。でもお母さんにきいたら、なんとなく見覚えがあるんだって。引っ越した人のところの娘さんに似ているかもって」

 狭き門である紫の薔薇幼稚園。
 それゆえにせっかく入園できたのに卒園することなく、中途で抜けるケースは極めて稀。
 たとえ夫の転勤が決まったところで、一時的に単身赴任にしてもらってでもこの地に留まり子どもを園に通わせ続けていた人もいたほど。
 それがある日、突然に、何の挨拶もなくいなくなる。
 だからこそ余計に記憶に残っていたんだとか。

 またしても思わぬ情報をゲット。
 でもうれしい誤算はまだまだ続く。

「で、こちらがご所望の卒園アルバムなんだけど……」

 ずっと大切にしまってあったからアルバムは色褪せることなくきれいな状態。
 そしてこのアルバムにはなんと、諸事情にて途中でいなくなった子もちゃんと掲載されてあった。
 ほら、学校のクラスごとの集合写真とかで撮影当日に休んだ子なんかを、隅っこに別枠で載せたりするだろう。
 あんな感じで例の女の子と目される人物の姿もあった。
 ふわふわくりりんとカールされた髪に、ぱっちりお目め。ほんのり赤いほっぺはとても柔らかそう。それでいてどことなく品がある。
 そしてミワちゃんの似顔絵だが、けっこういい線いっていた。雰囲気をじつによく捉えている。ひょっとしたらおれたちは意外な才能を発掘してしまったのかもしれない。
 なんぞと考えつつ、アルバムとにらめっこ。

「えーと、名前は忽那優里亜(くつなゆりあ)か。いいぞ、珍しい苗字だ。これなら追跡しやすい」

 おれは助手にスマートフォンで女の子の画像を撮影させたところで「ちょっとションベン」と断ってから席を立つ。

  ◇

 トイレの個室に入りカギをかけてから、愛用のガラケーを取り出し連絡を入れたのは市役所にいる伝手のところ。
 あいにくと紫の薔薇幼稚園にはなかったが、こっちにはある。
 そこはそれ、蛇の道はヘビ、街の探偵屋さんを続けていたらいろいろあるさ。
 しかし世の中便利になったものである。
 パソコン内のデータにアクセスしたら、ちょちょいのちょいとお目当ての人物の情報が出てくるのだから。
 忽那という珍しい苗字にて記録を遡れば該当するのは、ほんの六件ばかり。
 うち五件はいまも高月に住民票が残っている。
 ここ十年ほどで転居していたのは一件のみ。
 どうやらこれがお目当ての女の子のところであろう。

 欲しい情報を得たおれは電話を切り、いちおう水を流してから個室を出た。

  ◇

 新たに得た情報を頼りに忽那優里亜が転居した先へと電車で向かう探偵と助手。
 彼女が引っ越した先は名古屋方面。
 京都から新幹線に乗れば、あっという間の距離だ。いつもならば経費をケチってレンタカーにするのだが、今回ははなから採算度外視の依頼なので気にせずグリーン車の席でふんぞり返っては、駅弁を喰らう。

「むしゃむしゃむしゃ、うーん、高かったわりに味はイマイチかも。駅弁っていろいろあるけどけっこうはずれが多いですよねえ。モグモグ。しかし今回はなんだか怖いぐらいにサクサク進みますよねえ、四伯おじさん」
「そうでもねえよ、芽衣。もしもミワちゃんという当たりクジを最初に引いてなかったら、おそらくまだ紫の薔薇幼稚園にすらも辿りつけてないだろう。園は警戒厳重だから個人情報をおいそれとは教えてくれないし、そこから卒園生の筋を頼るにしてもそうとうに骨が折れたはずだ。すべてはミワちゃんさまさまだな。にしても……」

 手元の資料を眺めながらおれは軽く嘆息。
 駄菓子屋「足柄商店」の老店主の心残りとなっている女の子とおぼしき相手、忽那優里亜。
 現在は茂木優里亜と名を改めている。
 理由は両親の離婚だ。そして彼女が周囲に何も告げずに紫の薔薇幼稚園を離れたのもそのため。
 時期的にみて、どうやら彼女が駄菓子屋にたい焼きを買いにあらわれたのは、その前夜のことであったらしい。
 このまま発見して、再会させてめでたしめでたし。
 となればもっけのさいわいなのだが、どうにも怪しい雲行きの気配というか予感めいたものを感じて、おれはウツウツしてしようがない。


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