おじろよんぱく、何者?

月芝

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487 玉石混合の大半はクズ

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 伝説のクソゲー、フォースエレメント・ファンタジア・紅の伝説。
 その絶壁はあまりにも高く険しかった。
 いや、これでも集いし八人のおっさんたちは超がんばったんだよ! その証拠にいちおうラスボスまではどうにかこぎつけたんだものっ。
 この時点で、一発当たったら即退場の弾幕シューティングゲーム状態と化している画面の中、横スクロールアクションなのにミリ単位のレバー操作をしいられる恐怖たるや。
 緊迫したギリギリの攻防。
 まさかのラスボス手前で、さらわれたはずのお姫さまが魔王の愛人となって中ボスとして登場するなんぞというハプニングもありつつ、どうにか辿り着いた大一番。
 いきなり画面がフラッシュし、魔王の全体攻撃が炸裂するだなんて……。
 よもやの回避不可!
 レベル乱高下の呪縛により、初期レベルどころかちょっとマイナスに落ち込んでいる貧弱ステータスの操作キャラたちが、こんなえげつない攻撃に耐えらえるわけもなく、問答無用でゲームオーバー。

「なにこれ? もう、無理……」

 最初にあきらめの言葉を口にしたのは誰であったかはわからない。
 けれどもそれはまぎれもなく一同が抱いていた本心を代弁したもの。
 瞬間、八人のおっさんたちの心はポキリと折れてしまった。
 なお、カラス女はとっくに職務に戻っており、あとには吸い殻で山盛りとなった灰皿だけが残されていた。

  ◇

 ガラガラガラガラ……。

 シャッターを開けたとたんに差し込んでくる朝陽に、おれたちは目を細める。

「いろんな意味ですごいゲームだったな」
「あれは難易度やゲームバランスどうこう以前の問題でしょう」
「そのくせ適当に遊べるところが性質が悪い」
「ビッチ姫めっ! あんだけ戦えるんだったら自力で魔王城から逃げ出せよ。もしくは魔王の寝首をかけ」
「っていうか、わざわざ姫をさらう魔王の真意が不明だな」
「まぁまぁ、そのへんはお約束ということで」
「しかし開発元、あの出来でよく市場に放出したもんだぜ」
「当時は今みたいにネットがなかったからねえ。まずい情報が拡散する前にさっさと売りさばいて、とんずらすればいいから。事実、メーカーは直後に雲隠れしているし」

 ゲームという娯楽がまだまだ産声を上げたばかりの時代。
 玉石混合にて、その大半がクズ石ばかり。
 よくも悪くも、いまほど厳密ではなく、いい加減なことがまかり通っていたおおらかな時代でもあったのだ。
 それゆえに伝説のクソゲーなんぞも誕生したわけで……。
 こういったクソゲーの数々の屍をうず高く積んだ上に、現在がある。
 わずかなりともその一助となったと思えば、ちょっと感慨深くもあるのだが、たぶんこれは錯覚であろう。徹夜のテンションが見せる夢幻。
 なんとはなしに、いい話風に持って行かないと己の内にふつふつと煮えたぎる感情との折り合いがつけられそうにない。
 だから無理くり、そういうことにしておく。

 目の下にクマをこさえた八名は感想というか愚痴を口にしつつ、「じゃあ」「またな」と挨拶をし、おのおの帰路についた。
 足どりはめちゃくちゃ重く、気分は戦場でけちょんけちょんにされた敗残兵である。
 おれは残り一本となったタバコを取り出し、空箱をくしゃり握りつぶす。
 火をつけたとたんに、うっ。徹夜明けの目にタバコの煙がやたらと染みやがる。あとコーヒーの飲みすぎで胃がもたれてしんどい、気持ち悪い。

  ◇

 疲労困憊の身で探偵事務所兼住居がある雑居ビルにどうにか辿り着くも、運悪くエレベーターが故障中。
 五階建てのボロビルのエレベーターは根性ナシ。しょっちゅう根をあげる。

「だからってこのタイミングで停まることはないだろうに……。新手の嫌がらせか?」

 ぶつくさ文句を垂らしつつ、階段をよちよち登る。四階の我が家が遠い。
 すると二階のところで、ちょうど看板を仕舞っていた花伝オーナーと鉢合わせ。
 化石タヌキのババアはスナック「昇天」を営んでおり、その時々の気まぐれで朝まで店を開けていることもある。どうやら昨夜はオールナイトだったようだ。
 双方ともに徹夜明けで非常にくたびれている。だからおれは軽く会釈をして通り過ぎようとしたのだが……。

「ちょうどよかった。あんたに頼みたいことがあるんだよ、四伯」

 いきなり腕を掴んできた化石タヌキ。すっかり酒焼けした声にて、目が血走っており、山姥らしい風貌がいっそう山姥している。そしてなにより葉巻クサい。
 まぁ、ニオイにかんしてはおれも人のことをどうこう言えた義理ではないが。

「……えーと、これから?」

 おれがおずおずたずね返すと、花伝オーナーはにへらと笑みを浮かべる。

「そう、これから、いますぐ、超特急で」
「いやいやいや、こちとら徹夜でクタクタなんだよ。せめて仮眠ぐらいはとらせてくれ!」

 おれの抗議はムシされ、そのまま身柄をスナック昇天へと引きずり込まれる。
 そしてモーニングコーヒーならぬ、モーニング栄養ドリンクを振る舞われつつ聞かされたのは、とある駄菓子屋の話であった。


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