おじろよんぱく、何者?

月芝

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485 真夜中の訪問者と爆弾発言

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 五番手、比五椎演人。ゲームセンター「デジボーグ」の店主が満を持しての登場。
 であったのだが、彼はみなにある提案を持ちかけた。

「思った以上に手強い。ここからはひとつ協力プレイを試してみんか?」

 ひとりプレイでは限界がある。
 早々にそのことを悟ったおれたちに異存はない。
 もしかしたら協力プレイであれば、レベル乱高下の呪縛から解放されるかも。という淡い期待もあった。
 そこで六番手の木崎浩とふたりしてプレイすることなったのだが……。

「うぅ、二の腕が逞しい。肉圧がすごい。すごく窮屈」

 たまらず不平を漏らしたのは比五椎演人。
 日々、パン職人として生地をこねまくっている木崎浩はただの人間、だけど屈強なクマ体形。
 そして比五椎演人もまたただの人間にして、こちらは完全インドア派のひょろっちい枯れ枝初老である。
 両名がゲーム台に並んで座るとその体格差は歴然。
 うっかりレバーをぐいとすれば、ひょうしに肘で押し出しかねないありさまは、もはや協力プレイというよりも妨害プレイに近い。
 当然ながら画面の中のキャラクターたちの動きもジタバタしておりいまいち。連携への道は険しそうだ。
 夜更けのへんなテンションと相まって、それが無性におかしくておっさんたちはゲラゲラ笑う。
 だがそんな楽しい雰囲気に水を差す出来事が唐突に起きる。

 ガン、ガン、ガガン。

 不意に表のシャッターを叩く音がして、一同はびくりと固まった。
 はじめは夜の商店街を吹き抜ける風のイタズラかとおもったのだが、ふたたびガンガンガン。
 明らかに何者かの仕業。明確なる意思を持ってシャッターを叩いている。あるいは蹴飛ばしている?
 でもこんな真夜中にもかかわらずにいったい誰であろうか。
 ひょっとしたら気づかぬうちにはしゃぎすぎて、ご近所からクレームが寄せられたのかもしれない。

 ただいまプレイ中の店主より「いまは手が離せん。すまんが、たのむ尾白」と名指しで頼まれ、おれはしぶしぶ様子を見に行くハメに。
 こんな寂れたゲームセンターに強盗でもあるまいにとは考えつつも、いまのご時世何があるかわからない。
 念のため腕を金属バットに部分化けさせ、用心しつつシャッター越しに「誰だ?」と問う。
 すると「ごちゃごちゃうるさい。とっとと開けな」との乱暴な物言いが返ってきた。
 その声はおれのよく知る相手のもの。

  ◇

 深夜のゲームセンターのシャッターを蹴飛ばしていたのは、高月警察署きっての不良刑事である安倍野京香。
 昼夜を問わず全身黒づくめでサングラスを着用しているカラス女。
 店主の許可を待たず、我が物顔で店内へとずかずか進入しては、集っているおっさんらをちら見する女刑事。さして興味がないとでも言わんばかりにすぐさま顔をそむけ、そのまま適当な席にどっかと腰をおろしタバコを取り出す。

「なんだい、京香ちゃんか。あんまり年寄りを脅かさんでくれ」
「わりぃ、ちょっとムシの居所が悪かったものでな」

 なんぞと気安げなやりとりをしているカラス女と店主の比五椎演人。
 聞けばカラス女、深夜勤務のときに見回りがてらちょくちょく深夜に違法営業をしているゲームセンターに立ち寄っては休憩と称してサボっているとのこと。

「いやいや、京香ちゃんがにらみを効かせてくれているおかげで、性質の悪いのが寄ってこんで助かってるよ」と店主。

 だが当のカラス女は「コンビニの前はくそガキどもがやかましいし、公園だとご近所の目が厳しい。近頃じゃあ署内もうるさくてねえ。だからこっちが遠慮してトイレで一服していたらビービー火災警報器が鳴りやがるし。その点、ここだと気兼ねなくタバコがやれる。署からほど近いから位置的にサボるのにもちょうどいいんだよ。あとやれ節電だのエコだのと、冷房の温度をケチらずガンガンに冷やしているところも気に入っている」なんぞといけしゃあしゃあ。

 喫煙所替わりに違法営業中の深夜のゲームセンターを利用する女刑事。
 ちなみに彼女はゲームにはまったく興味なし。唯一遊ぶとしたらガンシューティングぐらいだが、あいにくと「デジボーグ」にはその手の大型台は置いてない。

  ◇

 おもわぬゲストの乱入により中断していた、ゲーム攻略を再開する。
 連携ガタガタにて早々にゲームオーバーとなった比五椎演人と木崎浩にかわって、今度は七番手のおれと八番手のショーンがタッグを組んでのチャレンジ。
 使用キャラとしておれは盗賊を、むっつり助平なショーンは女弓士を選択。
 画面内をちょこまか動く盗賊。オカッパ頭がどことなくうちの助手を彷彿とさせる。これを援護する形で矢を撃ちまくる女弓士。

 出だしはなかなかいい感じ。
 だがこのゲームは基本的にショルダータックルがメイン攻撃になるので、中だるみタイムが必ずやってくる。
 ひたすらワンパターンなくせしてシビアなレバーさばきを要求される。
 これってとっても疲れるので、ともすれば眠気すらも誘うほど。
 それを回避するために、おれは隣に座る相棒に声をかける。

「いまさらだがいいのか、夜遊びで朝帰りなんて? カミさんにどやされるんじゃねえの」

 アナグマのショーン。
 情報屋としてはそこそこ優秀だが、それ以外は駄目駄目な男。しかしこんな野郎でも所帯持ちだというのだから世の中わからん。
 ちなみに彼の奥さんはアンダーグラウンド専門の芝居狂い。つねに畿内に生息する弱小劇団の動向に目を光らせており、そっち方面の知識は玄人裸足というか、もう完全にプロを名乗っていいレベル。

 気軽な独身貧乏貴族のおれとはちがい妻帯家庭持ちのショーン。いろいろ気苦労が絶えることはないはず。だからこうして案じてやったのだが、その返事はこうであった。

「あぁ、心配いらねえ。うちのやつなら、いまガキどもを連れて実家に帰っている」

 いきなりの爆弾発言に一同ギョッ!
 おかげで眠気なんぞは一発でどこぞに吹き飛んだ。


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