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484 ショルダーアタック
しおりを挟むいまだクリアを成し遂げた者がいないと言われている伝説のクソゲー、フォースエレメント・ファンタジア・紅の伝説。
いかにもファンタジーファンタジーしたタイトルだが、ゲーム内でやっているのは野蛮な肉弾戦がメインである。
あと紅の伝説とあるが、とくに意味はない。ゲーム内で赤いのなんて、敵が流す血か、女弓士のビキニアーマーぐらい。
まぁ、なんというか、このゲームが作られた年代、なんちゃらの伝説とかいうタイトルのゲームがやたらと多かった。
あとはたぶん「紅って漢字、なんかかっこよくね?」みたない開発陣のノリ。
青をわざわざ蒼と書いたり、赤を紅や朱と表現したり。小宇宙と書いてコスモと読んでみたり。
◇
一番手の千祭史郎は魔王城門前にて散った。
二番手の結城平成はプレイキャラに紅一点の女の弓士を選択。
どうやら彼は格闘ゲームとかでも、まずは女性キャラからいじるタイプのようだ。
おれこと尾白四伯みたいな大人の男になると、ついひと目を気にして選べないというのに、これが若さか……。
女弓士、結城平成のボタン連打に応じて、びしびし矢を放つ。
おそろしいまでの連射。もしも現実でこんな風に弓を扱える者がいたら、狙われた相手はたちまちハリネズミにされてしまうことであろう。
だというのに、惜しむらくは一撃の威力がめちゃくちゃ低い!
しかも敵は当たりながらもじりじり迫ってくる。
あっという間に前後を囲まれる女弓士。
だがそこで必殺技が炸裂する。
空へと弓をかかげて発射しては、自身を中心とした一定のエリア内にいる敵へと襲いかかるのは矢の雨。天弓滅なる大技。
地味にぐるぐる回るだけの男戦士とはちがって華がある。
「おぉ、さすがは紅一点、優遇されているなぁ」
とかゲーム画面を見物していた一同およびレバーを握る結城平成も、よろこんだのも束の間。すぐにみな黙り込む。
なぜなら矢の雨の中、敵がわりと元気にうろうろしていたから。
範囲攻撃になっただけで、基本的な弓矢の性能がちっともかわってねえ!
女弓士の弓攻撃がちっとも使えない。
結局、ダッシュからタックル攻撃を繰り返すことになる。
そしてボタン連打が祟ってはやチカラ尽きた結城平成は中盤でゲームオーバー。
◇
三番手の玄さんは男戦士を選択。
先のふたりの戦いぶりから学び、剣で戦うことははなから放棄し、ひたすら駆け回ってはショルダーアタックをくり返す。
あんまりにもワンパターンが延々と続くものだから、おれはすっかりちびたタバコを灰皿に突っ込みつつ「楽しいか?」と問うと、ヒグマの玄さんは「精神的にキツイ」と弱音を漏らす。
単調なのにうっかりするとダッシュが敵の面前でピタリと止まり、タックル攻撃が不発になることがある。
とたんに反撃を喰らうので、気が抜けない。
そうそう、気が抜けないといえばこのゲーム。
場面にもよるのだが、一度、キャラクターが転がされるとほぼ再起不能ということが判明した。
倒れた瞬間、キャラクターが点滅して無敵状態となり、むくりと起き上がり戦線に復帰するわけだが、その時点で運が悪いとわらわら敵に群がれて囲まれている。
こうなるともういけない。袋叩きにされてハメ殺されてしまうのだ。
だというのに、めげることなくゲームを淡々と進めた玄さん。
ついに魔王城の城門を突破。
だがしかし、進んだ先でいきなり床が抜けた。
落とし穴のトラップである。初見殺しにて、あっさり落ちて残機を消耗することになる。
だが悪夢はそれだけではなかった。
落ちた手前から再スタートするのかと思いきや、はじまったのは穴の底から。
そこはモンスターハウスにて、次々と湧き出るスケルトンたち。
あっという間に画面を埋め尽くす白骨ども。お正月の福袋セール売り場なみの激戦区と化す。
多勢に無勢にて男戦士は亡者どもに組み敷かれて蹂躙され果てた。
◇
四番手、真田誠一郎。シベリアオオカミのイケメン獣医師は「だったらまだ誰も使っていないこれを」と選んだプレイキャラは腰がやや曲がっている魔法使いの老爺。
なんとこのキャラクター、必殺技が三つもあった!
定番のファイアーボールに、びりびり放電しながら飛んでいくサンダーボール、敵に当たるなりそこで竜巻を起こすストームボール。
しかも魔力なんぞという設定はないから、魔法は撃ち放題だったりもする。
「やるじゃないか」
「じじぃ、つえーっ」
「伊達に荷物になる杖なんて持ってねえな」
なんぞと一同がよろこび盛り上がったのだが、それも初めのうちだけ……。
たしかにファイアーボールに当たった敵は火だるまになる。サンダーボールでびりびり黒焦げになりしびれたりもする。ストームボールで高らかに舞い上げられたりもする。
でも死なない。
一撃は、どこまでいっても一撃。
威力は杖で殴りかかるのと変わらなかった。
結局、ローブ姿のじじいも戦場をタタタと駆けては、肩から相手にぶつかり倒すことになる。
なまじ魔法の演出が派手であった分だけ、がっかり感が半端ない。
精神的にガクリときたのか、はたまた飽きてしまったのか。真田誠一郎は適当なところで、みずからステージに設置してある溝へと身を投げ果てた。
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