おじろよんぱく、何者?

月芝

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483 伝説のクソゲー

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「最初はグー、じゃんけん、ぽん!」

 いい歳をしたおっさんたちが輪となってジャンケン。
 誰が最初にゲームをプレイするかの順番決め。まずは各々が一人プレイでひと当たりしては感触を確かめようとの腹積もり。
 結果、順番は以下の通りとなった。

 一番手、千祭史郎。
 二番手、結城平成。
 三番手、玄さん。
 四番手、真田誠一郎。
 五番手、比五椎演人
 六番手、木崎浩。
 七番手、ショーン。
 八番手、尾白四伯。

  ◇

『フォースエレメント・ファンタジア・紅の伝説』は、横スクロールアクションゲームである。
 昔のアメコミのようにやたらと彫りが深いキャラクター。
 屈強な男の戦士、紅一点の女の弓士、白ひげの魔法使い、いかにも素早そうな小柄な盗賊。
 これらからプレイキャラを選択してゲームスタート。
 物語の進行に合わせて右へ右へとスライドする画面。
 そいつが停止すると、左右からわらわらと敵があらわれ戦闘となる。
 敵を全滅させたら次へと進める仕様。

 一番手として席に座った千祭史郎が選択したキャラは予想通り、ガチムチの男戦士であった。
 両手剣をぶん回しては、敵をバッタバッタと薙ぎ倒す。

  ◇

 序盤、わりとサクサク進む。
 敵が弱い。だいたい三発ほど攻撃を当てれば死ぬからだ。
 加えてこのゲームにはレベル制が導入されており、敵を倒すほどに経験値が入ってはキャラクターが成長する。
 とはいえ見た目はちっとも変わらないし、攻撃方法も増えない。
 地味に筋力がアップして打撃力が増すばかり。あと動きがちょっとだけ軽快になる。でもライフゲージが増えるのは素直にうれしい。

 中盤、はやゲームも折り返し地点。
 敵をざくざく倒すがゆえに、気がつけばキャラクターのレベルが五十近くにまで跳ね上がっている。なおMAXが五十なので、じきにカンスト間近。
 この時点でクソゲーたる所以をおれたちはいくつか垣間見る。

 まず第一に必殺技がしょぼい。
 戦士の必殺技は剣を手にしては、自身を駒のようにして回るトルネードスピンブレード。
 絵面の地味さもさることながら、その威力の貧弱さよ。
 当たれば敵は吹き飛ぶ。でも死なない。レベルがカンスト目前でも三撃が二撃に減ったぐらいの恩恵しかない。結果として遠くに飛ばされる分だけ倒すのに手間が増えた。
 あと技が発動中は無敵になるものの、いきなりプツンと終わるのはいただけない。調子に乗って敵の群れに突っ込んだら、真ん中でいきなりピタっと素に戻る。

「あー、なんか、急に醒めたわぁ」

 とでも言わんかのような変貌には、操作していた千祭のみならず、見物していた一同もおもわず吹き出してゲラゲラ笑ってしまった。

 次にあげるのは、そんな必殺技よりもダッシュからのタックルの方が強いということ。
 通常攻撃で三回、必殺技を二回当てることで倒せる敵が、ダッシュタックルだと一回で死ぬ。
 とどのつまり、途中からゲーム画面内にて持ちキャラがひたすら駆け回ってはショルダーアタックをかますワンパターンが延々と続くことになるのだ。
 これはプレイしている当人も、見ている側も退屈でなんかシラける。

 さらにその退屈に拍車をかけるのがバトルステージ。
 城下町にはじまり、門を抜けて草原へ、森、泉のほとり、川、橋の上、荒野、山岳地帯、城塞らしき内部、城壁の上などなど変化に富んでいる。
 のは背景だけのこと。
 基本、フラット。
 平面である。ただの地面。
 ときおり木材や石の塊なんかが落ちており、それは拾って投げつけることで武器として活用できるものの、敵も投げつけてくるからはっきり言ってありがた迷惑。

 これらの不満点に我慢しつつプレイを続け、ついに終盤戦へと突入するわけだが、ここでこのゲームをして最大かつ最強の問題点が急浮上。
 プレイヤーを絶望のどん底へと叩き落とす。

 ゲームを進めていくうちにサクサクあがったキャラクターのレベル。
 五十を頂点として、なんとなんと、そこからは下り坂に突入っ!
 敵を倒すほどにレベルが下がっては、みるみる弱くなっていく。
 先にも述べたが、このゲームは画面内にわらわら出てくる敵を全滅することで、次へと進行する仕様。
 ゆえに望むと望まざるとにかかわらず戦闘は不可避。
 なのにがんばるほどに弱体化。
 でもってゲームは終盤に差し掛かっているので、当然ながら敵は強く固くなっており、攻めも苛烈で、難易度もぐんぐん上昇中。
 あげくの果てには最終の十一面に到達したときには、キャラクターはすっかり最初期の状態に戻っている。
 これって勇者が冒険に旅立って、玄関開けたら、即魔王戦に突入するようなもの。
 いかに素養があろうとも、なんら鍛えておらず、経験も積んでいない者が世界を震撼させるような相手に勝てるわけがなかろう。

  ◇

 魔王城の門前で、守衛にたこ殴りにされた戦士が倒れてゲームオーバー。
 実際にレバーを握ってプレイしていた千祭や、その様子をじっと見ていた一同はおもわず黙り込む。

 えっ、せっかくそこまで進めたのにもったいない。コンテニューをしないの?

 と考えたそこのあなた!
 甘い、ぐつぐつに三日三晩煮込んだお汁粉よりも、なお甘い。
 無駄なのだ。いくら注ぎ込もうとも、事態はなんら好転しないのだ。
 無闇やたらと死を量産するだけ。

「これが伝説となった理由か」

 店主がつぶやきながら額の汗を拭う。だれかのノドがゴクリと鳴った。
 開発元もサジを投げ、いまだクリア人数ゼロの伝説のクソゲーがおっさんたちに牙をむく。
 やれやれ、どうやら今夜は長い夜になりそうだぜ。


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