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478 天狗風礫地獄
しおりを挟む保津峡谷に暴風が吹き荒れる。
阿豪の両腕からのびた竜巻。
二つの渦が風の大蛇となりて左右からロープ上にある芽衣へと襲いかかる。
どこにも逃げ場なし!
小柄なタヌキ娘の身は挟まれ、たちまち風の大蛇に呑み込まれてしまった。
岩肌をたやすく抉る風の刃。そんなしろものが無数に飛び交っている渦の奥に取り込まれてしまった者が無事で済むはずがない。
待つのはあまりにも悲惨な末路。
タヌキ娘の無残な姿を想像し、さっきまでやんやと騒いでいた見物客のカラス天狗どももいつしか黙り込む。
にもかかわらず阿豪は攻撃の手を緩めない。険しい表情にてむしろ逆に両腕にチカラを込めて「天狗烈風拳、風渦」をより強化するではないか。
さすがにやりすぎだと、審判役が試合終了を告げようとした矢先、それは起こった。
阿豪の放った二つの竜巻からバチバチあふれだしたのは蒼光。
どんどんと膨れあがり、やがて内側より風蛇の腹を喰い破る。
飛び出してきた幾筋ものイナヅマ。放電にも似た現象により発生したまばゆいばかりの光が乱反射して夜空を照らし、谷のそこいらにたむろしていた闇を斬り裂く。
ついには風渦を強引にねじ伏せ、奥よりのそりと立つは蒼い光を全身に帯びたタヌキ娘。
「狸是螺舞流武闘術、終の型、唯我独尊」
狸是螺舞流武闘術は、芝右衛門の一族直系の女子にのみ代々継承される武術。
ではどうして女子のみに継承されるのかというと、男子ではロクすっぽ扱えないからである。
理由は股間のアレだ。タヌキのアレといえば八畳敷きにまで広がるといわれるほどに立派なもの。それすなわち子孫繁栄、精力ギンギンをあらわす。
内包されてあるエネルギーたるや、とにかくすさまじい。もしも転換し有効活用する術を開発すれば地球のエネルギー問題は即解決するとかしないとか。
だがあいにくと女子にはそんな袋はない。
けれども男子同様にギンギンなエネルギーが体内には満ち充ちている。
ありあまるそいつを外部へと放出し、超絶破壊力をともなう武術へと昇華させたのが狸是螺舞流武闘術。
平時には体内にて循環され練られている悶々タヌキパワー。
こいつを一挙に吐き出すことにより、短時間ながらもとてつもない爆発力を産み出すのが「終の型、唯我独尊」である。
しかしこの状態ではバケツをひっくり返すかのように、いっきにチカラを垂れ流すばかり。
たしかに勢いは凄まじいが、あっという間にタヌキパワーが枯渇して人化けの術すらも維持できなくなってしまうという欠点があった。
その問題を解決しさらなる高みへと至らせるのが、続けて芽衣が行使する技。
「唯我独尊派生・震撃」
天衣無縫、奔放に暴れるばかりのタヌキパワー。
その首根っこをむんずと押さえてはねじ伏せ言うことを聞かせ、これを自在に操り、量を調整し、チカラに指向性を持たせることで、さらなる破壊力を産み出すことを可能とする奥義。
繊細なチカラの操作が必要とされるので精神をゴリゴリ削るから、あまり長時間は使用できない。だがエネルギーの運用効率は格段にアップ!
威力、出力ともに従来の唯我独尊とはまるで比べものにならない。
◇
伝説の再来。
二代目蒼雷の真の姿があらわとなった瞬間、渡月橋の黒の惨劇事件の悪夢が蘇ったのか、会場のそこかしこから悲鳴があがる。
おかげでこれまで以上に騒がしくなる周囲。
でも戦う両名は対照的に互いをにらんだままで、じっと佇むばかり。
かといってただぼんやり立っているわけではない。双方ともに内にて闘気を高め、存分に気を練り、チカラを溜めては、必殺を放つべく準備を着々と整えつつあった。
「見事なり、二代目蒼雷。よくぞ我が風渦を退けた。かくなる上はこちらも最高位の技でもってこたびの試合を決しよう。いくぞ、天狗烈風拳、天狗風礫地獄」
言うなり己が右腕を天へとかかげた阿豪。
するとどこからともなくひゅんひゅん飛んできたのは、いくつもの石礫。
空から突然に石が降ってくる現象を天狗礫という。どこから飛んできたのかわからないもので、古来より怪異とされ、当たれば病気になったりツキに見放されたりするといわれている。
風を操り、自在に空を飛び、ときに天候をも操っては、地上を這いずりまわっている人や畜生どもを嘲笑してはこきおろす。
理外を越えた者。
それが天狗という存在。これに累するカラス天狗なればこその妖しい術。
方々より飛び集まってきた礫たち。
それを取り込んだのは阿豪の天にかかげた右腕を中心にして発生している風の渦。
鋭い風の刃のみならず、もの凄い速さでびゅんびゅん飛び回っているたくさんの石塊をも内包した状態の竜巻。
秘めた破壊力はいかばかりであろうか、想像もつかない。
ただひとつわかっているのは、この天狗風礫地獄を喰らったら確実に終わるということ。
それがわかっているからこそ、芽衣もまた次の一撃にすべてを賭けるべく、まだ健在の右の拳に想いを込める。
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