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459 白夜
しおりを挟む不法投棄業者にキツイお仕置きをしてからの一斉検挙。
いよいよこれからというときになって「待った」をかけたカラス女こと安倍野京香。
おれはともかく、せっかくマスクまでかぶった芽衣はこの横槍にすっかり立場を失いモジモジ。どうやらタヌキ娘は熱が冷めて正気を取り戻してしまったようだ。
押し寄せる羞恥心に耐えかね、ついに芽衣はこそっとマスクを脱いだ。
それを尻目にタバコに火をつけたカラス女だが、くわえる前に空へとかざして二度ほど輪を描くような素振りをする。
「?」
おれが内心で訝しんでると、上空の霧に動きがあった。
ふわりと緩やかに渦を巻き、流れが生じ、奥から羽ばたきの音がいくつも降ってきた。
二十、三十……、とにかくたくさん。
けれども姿が霧にまぎれており、よく見えない。
わかったことといったら、白い霧の中を次々と急降下してくる白い翼の群れがあったことぐらい。
それらが壁の中へと吸い込まれていったとおもったら、たちまち眼下が静かになった。
あれほど騒いでいた業者連中がシーンと静まり返っている。
どうやらナゾの一群より空から強襲を受けて、あっさり鎮圧された模様。
「あの連中はいったい何者なんだよ」
おれの問いに「あれは白夜だ」とカラス女は答える。
白夜。
構成メンバーが凄腕の白鴉で構成されたカラスたちの特殊部隊。
上層部の意向によって動き、ときには汚れ仕事をも辞さない。
そんな連中がわざわざ出張ってきた理由は、不法投棄業者の連中がやり過ぎたから。
連中、知らず知らずのうちに聖域にちょっかいを出してしまったらしい。
京の都、湖国、紀の国などの畿内一円に古くから分布するといわれているカラス天狗たち。
天狗に累する彼らは分類上は妖。
ゆえに人界や動物界のことについては基本的に我関せず。日々を縄張りとする山麓にて気まぐれかつお気楽に過ごしている。かと思えばちょいちょい街中にあらわれて遊んでいたりもする。
そのくせ「自分たちがちょっかいを出す分にはかまわないが、反対にちょっかいを出さられるのはイヤっ!」というわがままっぷり。
そんなカラス天狗たちの聖域がよりにもよって不法投棄場所にされてしまった。それも一度ならず二度どころか、三四五度までも!
これには愛宕山の御大将である太郎坊大天狗さまの堪忍袋の緒がぶちっとね。
伸びまくっている長く立派な鼻の先まで真っ赤にしながらの大激怒。すぐさま「不敬不埒なやつらを断罪せよ」との厳命を下す。
上司の命令を受けてまず動いたのは部下の天狗たち。
でもめんどうくさい。そこで下っ端に丸投げ。
「おい、おまえら、ちょっと下界に行って探してこい。見つけるまで帰ってくるなよ」
いつの世も、どこの組織でも、苦労をさせられるのはダメな上司を持った不幸な部下ばかりと相場は決まっているのだ。
かくして方々に散ったカラス天狗たち。
だが人間の悪党は狡猾だ。のらりくらりと逃げおおせる。
どうにも捜査の首尾がはかばかしくなく、思い悩んだ末にカラス天狗たちは縁のある動物に応援を頼んだ。
それがカラスたち。
大天狗から天狗、天狗からカラス天狗、カラス天狗からカラスへと。
巡りめぐって安倍野京香のところにまで話が伝わったところで、今回の一網打尽作戦である。
これさいわいと「手柄を寄越せ」とずうずうしいカラス天狗どもに、カラスらが応じたという次第。
カラスたちが要請に素直に応じたのは、ひとえに天狗からの覚えを目出度くしておきたかったから。
機嫌を損ねて無闇やたらと天狗風を吹かれてはいい迷惑。翼を持つ者にとって風の具合はとっても大事。ただでさえ日ノ本は台風が多い国土だというのに、これ以上煩わされてはたまらない。
以上のような理由にてカラスたちの上層部は白夜の派遣を決定した。
◇
白夜のメンバーたちによって鎮圧された不法投棄業者たち。猿ぐつわをかまされ、手足をがっちり拘束され、連中が乗ってきたトラックのうちの一台の荷台にまとめて放り込まれると、そのままどこぞに運ばれてゆく。
他のトラックの運転席にも白夜のメンバーが座り、あとに続く。
これらのトラックは裏ルートで外国に売却されて、厳しい詮議のうえで荒稼ぎした私財も根こそぎ没収されるんだとか。
安倍野京香より「少し時間はかかるが、報酬は期待しておいてくれ」と言われたおれは「捕まえた連中はどうなるんだ?」とたずねた。
するとカラス女はにやりと笑い「不用品はまとめてポイッ。それが連中の流儀なんだろう。だったらこっちもそれに倣うまでさ」と言った。
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