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457 幻のお宝、ふたたび!
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夜更けに鳴った探偵事務所の電話。
受話器を取るなりいきなり聞こえてきたのは「まさか、あんたの方からお呼びがかかるとはな、尾白探偵」との声。変声器特有の歪んだマシンボイス。
「それで報酬の話は本当なんだろうな? 贋物で誤魔化すなんてマネをしやがったら……」
「心配はいらない。ブツだけだと信用できないというのならば、ちゃんと証拠画像なり映像なりを添付しよう」
「……わかった。で、何をすればいいんだ」
「あぁ、おまえさんにやってもらいたいのは……」
おれは仕事の内容について伝える。
説明を終えたところで、相手が「造作もない。準備が整い次第、こちらから連絡を入れるから一日時間をくれ」と言って電話を切った。
◇
「なんですか、この紙袋?」
事務所に顔を出した助手の芽衣が無造作にソファーに投げ出されてある品を見つけたもので、おれは「中敷きだよ」と答える。
「なかじきってクツのですか、四伯おじさん。ここのところ方々を歩き回っていましたから、ついに足にきちゃいましたか」
「ちがう。おれのじゃない。そいつは光瀬菜穂の使用済み中敷きだ」
「???」
意味がわからず小首をかしげるタヌキ娘におれは説明してやる。
現在、追跡中の不法投棄業者らは複数存在していることが確認されており、まともに相手をしていたらイタチごっこのモグラ叩きとなるのは必定。あまりにも不毛かつ非効率ゆえに、おれは考えた。
「向こうがSNSを悪用するんだったら、こっちも悪用してやれ」と。
偽の依頼をでっち上げ、情報操作をし、連中を一か所に集めたところで一網打尽を狙う。
そうなるとどうしたって必要になるのが、その道に明るい人材。
うちの第二助手のしらたきさんもパソコンの扱いには長けているけれども、あくまで常識の範囲内ゆえに、ハッカーのような高スキルは持っていない。
第一助手の芽衣にいたってはスマートフォンはさくさく操るくせに、キーボードだとからっきし。パソコンにもあんまり明るくない。
おれからすればスマホもパソコンも似たもののような気がするのだが、まるでちがうらしくって、現代っ子ほどスマホに慣れ過ぎてパソコンの類がさっぱりだったりするそうな。
かくいうおれこと尾白四伯は言わずもがな。愛機はパカパカガラケーだし。
とにもかくにも、我が尾白探偵事務所はIT系が不得手。
そこでおれは強力な助っ人を手配することにした。
その相手こそが誰あろう「怪人インソールダブルエックス」である。
光学迷彩をはじめとして、独自に開発したハイテク機器を駆使しては女性のインソールを狙う真性の変態にして、高月が誇る二大奇人のうちのひとり。ちなみにもう一人は怪盗ワンヒールである。
世界的トップモデル、ルクレツィア・ギアハートを巡る騒動のおり、怪盗ワンヒールと手を組んでバックアップに回っていた怪人インソールダブルエックス。その卓越したハッキング技術に警備陣はおおいにきりきりまいさせられたものである。
目には目を、歯には歯を。
不法投棄を繰り返し私腹を肥やす輩にはド変態を。
そして助っ人への報酬としておれが提示したのが、高月中央商店街の路地裏で診療所を営んでいる美人女医のクツの中敷きである。
以前に、怪盗ワンヒールと怪人インソールダブルエックスに我が尾白探偵事務所を交えた三つ巴の戦い「変態三番勝負」のおり、第一のターゲットとなったのが光瀬菜穂であったのだが、結果は勝者なしに終わる。
変態どものしょうもない争いに巻き込まれた女医が「めんどうくさい、阿呆らしい、あと気持ち悪い」と、手持ちのハイヒールやら中敷きやらをまとめて火にくべて焼却処分するという荒業に出たため。
手に入れ損ねた幻のお宝、ふたたび!
怪人インソールダブルエックスはこの餌にすぐにパクリと喰いついた。
◇
おれの説明を聞き終えた芽衣は「うげっ」としかめっ面。現役女子高生は露骨に嫌悪感もあらわ。
「しかし、よく光瀬先生が承知しましたね。前回のときはむちゃくちゃ嫌がっていたのに」
「まぁ、そこは物々交換で手を打ってもらった。彼女の仕事用パンプスの中敷き左右セット、本人の持ち物を示す証明写真と引き換えに、おれはクツの中敷きとパンツとシャツを分捕られたがな。あと血と爪もやられて、ついでに肺のレントゲンやらMRIとかにもかけられたけど」
「いや、それってもうほとんど健康診断……」
言いながらタヌキ娘は紙袋からじりじり距離をとりつつ、鼻先をひくひく。
そんな助手に探偵は言った。
「心配せんでもチャック付きビニール袋でちゃんと密封してあるぞ。いやあ、最近の百円ショップはすげえな。しっかりした保存袋なんかまで置いてあるんだから」
探偵が感心していると助手がすかさず「使い方をまちがっている!」とぴしゃり。
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