おじろよんぱく、何者?

月芝

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454 ゴミの問題

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 たまにテレビのニュースなんかで取り上げられているゴミ屋敷ってのがあるだろう?
 家主にとってはお宝でも、周辺住民にとっては悩みの種。
 やいのやいのと住民よりせっつかれてようやく重い腰をあげる行政だが、そこからがまた長い長い。
 家主との話し合いは平行線にてちっとも進まず。無駄に時間ばかりが過ぎてゆき、ついには行政代執行!
 というのがお決まりのパターン。
 でもって、しばらくしたらまたぞろ家主の収集癖が暴走して元の木阿弥というのも、わりとお約束。

 不思議なのがそんなお宅にかぎって、オラオラ系のこわい兄さんたちに因縁を吹っかけられることもなければ、放火犯が悪さをすることもない。ケンカっ早い者が手をあげることもなければ、家の前で街宣車が猛抗議することもない。芸能人のスキャンダルは血眼になって追いかけ、ときに非人道的な行動すらも辞さない取材陣もちょいと水を引っかけられただけですごすごおとなしく引き下がる。お化けが出たという話もまるで耳にしない。幽霊も忌避するってよっぽどであろう。
 爆弾低気圧が猛威をふるってもミチミチに詰まったゴミが重しと支えになるのか、近隣があわてふためくのを尻目に屋敷はへっちゃらだったりもする。地震でもびくともしない。そして撤去されてもすぐに蘇る様はフェニックスのよう。
 とにかくやたらとタフ。

「う~ん、なんでだろう?」

 物事には原因と結果が必ず存在する。
 だとすれば数多の猛者どもを退けるだけの何かがゴミ屋敷にはあるのかもしれない。ピラミッドパワー的な。
 ゴミの山をがさごそ漁りながらおれが首をひねると、近くにて同じくゴミの谷をがさごそ漁っていた芽衣がゴーグルとマスク越しに「そんなの知りませんよ。それよりも探し物って本当にこの部屋にあるんですか? というか、ここって本当に仏間なの?」とイラ立った調子で言った。

  ◇

 ただいま尾白探偵事務所は依頼を受けてゴミ屋敷内を探索中。
 目当ての品は土地の権利書と印鑑。
 依頼人の話によれば「たぶん仏壇の引き出しの奥にあったはず」とのこと。
 ちなみに家主はすでに亡くなっており、依頼してきたのは親族の方。
 相続するにあたってゴミ屋敷の清掃の手配はすでにしてあるものの、その前に各種手続きをしたいから大切な書類を先に手に入れたいとの考え。

 依頼人の意向を受けてさっそく現場へと赴いたおれと芽衣。想像以上にご立派なゴミ屋敷を前にして、探偵と助手が心底後悔をしたのはいちいち語るまでもなかろう。
 しかしいつまでも尻込みをしてはいられない。いったん引き受けた以上はやらねばならぬ。それがお仕事というもの。
 ゆえに腹をくくって「いざ、突撃!」と意気込んだまではよかったものの、まず門扉から玄関前まで辿りつくだけでもひと苦労。
 ドアを開けるために周辺を片付け、ようやく家の中へ。
 だが扉一枚を隔てた先は異次元空間。

 視界を埋め尽くすゴミゴミゴミゴミゴミゴミゴミゴミゴミゴミ……。

 色とりどりのゴミ袋。
 地域指定のヤツにて、ここら辺の分はもとより隣の隣の市のまでありやがる。

「すげえな。全部よそからせっせと運び込んだのか。それだけの労力があれば普通に働いたらめちゃくちゃ稼げるんじゃねえのか」
「ちょっ、ビニール傘、多っ! っていうか傘は傘で、缶は缶でちゃんとまとめてあるんですね。そんな几帳面さがあるのに、どうしてこんなことになってるのよ!」

 探偵と助手、その光景に圧倒される。
 で、そこから先はしばし洞窟探険のごとき行動を強いられる。ぎりぎり人がひとり抜けられるかどうかという隙間にカラダをねじこみ、うんしょうんしょ。

 四方より漂ってくる悪臭は一種類ではない。
 すぐに「アレだ!」と気づけるモノから、「なんだ?」と首をかしげる複雑な発酵臭まで多種多様。それだけ集積されたゴミの種類も多いということ。
 だからなかには先が尖っておりうっかり触れたら危ないシロモノなんかも混ざっていそうなのに、そういったモノは家の中には一切見当たらなかったりもする。
 どうやら家主は家主なりにこの状況下でも自分なりの快適を模索していたっぽい。
 そういった面ではある種、とても人間臭くもあったりして。
 とはいえそれはおれたちが動物だからそう感じるだけなのかもしれないが……。
 なにせ動物どもは基本的に人間たちのゴミ捨て場で遊ぶのが大好きなもので

  ◇

 どうにか発掘作業に成功。
 するとおれたちと入れ違いにやってきたのは清掃業者。土砂などを運ぶ大きなトラックを引き連れて参上。
 バケツリレーの要領でちゃっちゃとゴミを回収しては、トラックの荷台へと放り込んでいく。
 みるみる片づいていくゴミ屋敷。
 様子を遠巻きにしている近隣住民らからは歓声と拍手が起こっている。ようやくこの問題から解放されることを喜び目に涙を浮かべているご婦人の姿もあった。
 おれと芽衣もしばらく清掃作業を見物していたが、すぐに飽きて現場を立ち去る。

「さてと、帰りに銭湯へでも寄っていくか」
「いいですね四伯おじさん。そうしましょう、すぐに行きましょう」

 助手に腕を引かれてせかされる探偵。
 なんだかんだでタヌキ娘もお年頃。やはり移り香が気になっていたようだ。

  ◇

 そんな依頼があった数日後のことである。
 いつものごとく事務所の扉を乱雑に蹴破って登場したカラス女が開口一番。

「ゴミの不法投棄に加担した嫌疑にて、これより探偵事務所を家宅捜索する」


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