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445 六番目のタヌキ
しおりを挟む盛大に飛沫を上げながら沖より浜に近づいてくるのは大型クルーザー。
舳先にて立ち、向かい風にたなびくのは金髪縦ロール。
自信満々に胸をそらしつつ、斜め四十五度上空に顔を向けての高笑い。
赤いバラとかが似合いそうな豪奢な雰囲気の美少女。
四国にて一大勢力を持つ三大化けタヌキの一雄、屋島太三郎狸の直系の娘である平多紀理が、「オーッホッホッホッホッ」
いかにもお金持ちらしくど派手に登場。
だがしかし……。
「バカたれ! ここは船舶の進入禁止区域だっ。向こうの港へ回りやがれ」
怒鳴ったのは榎列一樹である。漁師の倅はマナーの悪い来訪者に激昂。
シーズンオフとはいえビーチなので当たり前のことであった。
これにチッと舌打ちした金髪縦ロール。それでも素直に指示には従い、浜を素通りして漁港へとクルーザーを向かわせる。
一同はすごすご遠ざかってゆく船を複雑な表情で見送った。
◇
今回の強化合宿。日程は三日間。
引率役はおれこと尾白四伯。職業は探偵にて得意なのは化け術。
ホスト役は島民である倭文弥生と榎列一樹のタヌキコンビ。二人ともに芽衣の幼馴染みではあるが武術はやっていない。
姫路アニマルキングダムからは、二名。
独岩龍拳闘術の遣い手である、マウンテンゴリラ拳闘士の佐藤晋太郎。
闇陀琉枝蛙蹴撃術の遣い手である、美脚キリンの鈴木夏帆。
高月からは、五名。
狸是螺舞流武闘術の遣い手である、タヌキ娘の洲本芽衣。
狐崑九尾羅刃拳の遣い手である、キツネ娘の出灰桔梗。
我流ながらも恐るべき吸収力と天賦の才を持つ、リーゼント頭のスケバンヘビ娘の白妙幸。
滅爛虎慄紅武爪術の遣い手である、トラ女の孤斗羅美。
同流派にてその妹の弧斗玲花。
四国からは、二名。
屋島蓑山流四十八霊の遣い手、タヌキお嬢の平多紀理。
同流派であるツッパリタヌキ娘の安房野弁天。
以上、計九名が切磋琢磨するわけなのだが、雲行きが早くも怪しい。
金髪リーゼントのヘビ娘とカリアゲツンツン頭のタヌキ娘の「ケンカ上等、かかってこいや!」コンビが早くもメンチ切りまくり、ガン飛ばしまくり。にらみ合いで一触即状態に突入。
タヌキお嬢さまはそれを止めるでもなし、いつの間にセッティングさせたのか浜辺にて優雅にティータイムを楽しんでいる。
タイガー妹は島の青年タヌキを「うりうり」とからかっては遊び、タイガー姉とキリン女はなにやら親しげにぺちゃくちゃ。
他の若い娘たちは娘たちで集まってやはりぺちゃくちゃ。
それらを完全に無視して、ひとり黙々とストレッチをしているマウンテンゴリラ男。
この段階になってようやくおれは仕切り役がいないことに気がついた。
「強化合宿をやるぞ!」「おぉーっ」と勢いだけで集まったものの、肝心のところがすっぽり抜け落ちている。
「えっ、まさか、ひょっとしてこれもおれの役割なのか? おいおい、そんな話聞いてねえぞ……」
あわてておれは事前に送られてきた小冊子を取り出し、ページをぱらぱら。
で、ちゃんと指導役が用意されてあることを確認して、ほっと胸を撫で下ろすも、直後に降ってきたあるモノのせいでそれどころではなくなった。
それまで各々好き勝手に過ごしていた武人ども。急に黙り込んだと思ったら一斉に空を見上げる。
やたらと険しい表情をしているもので、釣られておれも見てみれば落ちてきたのは一本の竹槍。
「うひゃあ」と避けたからいいものの、ぼけっとしていたら串刺しにされるところであった。
だがそれは始まりに過ぎなかった。
次々と飛来してはドスドスドス、砂浜に突き刺さりまくる竹、竹、青竹!
おっさん探偵は槍の雨の中をわきゃわきゃ逃げ惑うも、芽衣たちはさすがとばかりに落ちてくる竹槍を巧みにやり過ごす。
まだ未熟な玲花は姉のトラ美が、武の心得のない倭文弥生と榎列一樹らは佐藤晋太郎と鈴木夏帆が身柄を守りつつ対処する。
◇
執拗に降り続ける竹槍の雨。
ようやく止んだ時、浜辺一帯がすっかり竹でハリネズミとなっていた。
そのうちの一本の上に立つ者がいる。
見知った相手におれは「げっ!」とのけぞった。
誰あろう、伝説の蒼雷。
芽衣の祖母である洲本葵、六番目のタヌキが登場。
濃緑の漁業用カッパをまとっているところをみると、おおかた淡路島名産である海苔の生産作業の補助アルバイトにでも顔を出していたのであろう。
淡路島の海苔は厚みがあってとっても美味。こいつの味を知ってしまっては、そこいらのスーパーで売っているぺらぺらのヤツでは、とても舌が満足できなくなってしまうから困りもの。近年では人気が沸騰しており、なかなか入手するのがムズカシイらしいが洲本家ではつねに食卓にのぼっている。そのからくりがこの補助アルバイト。金を稼ぎつつ、人脈を構築し、ちゃっかり社員割引で極上の海苔をお得にゲットする。
なんという深謀遠慮、恐ろしいババアである。
そんな葵だがなぜだか手には分銅が結ばれたロープを持っていた。
老婆はろくに挨拶もなく、これをひゅんひゅんとぶん回したかとおもったら、いきなり放つ。
分銅が向かった先は、おれのところっ!
避けるまもなく腕にぐるぐる、しっかりと絡まったロープにおれがキョトンとしていたら、そのまま豪快に一本釣りをされ、探偵は宙を舞う。
あ~れ~。
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