おじろよんぱく、何者?

月芝

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427 秘伝書

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 秘伝書を手におれはひとり進み出る。
 だからてっきり素直に渡すのかと思ったのであろう。
 連中の空気がほんの一瞬、弛緩した。
 その隙をついておれは動く。封印の紐を解き、端を持って勢いよく巻物を放り投げた。
 カンラカラカラカラカラカラ……。
 激しく回るトイレットペーパーのように、のび広がりながら段差を転がり落ちていく巻物。丸まるしているから、じつによく転がること転がること。
 でもって懐から取り出したライターにて、シュボっと火をつけるオマケ付き。
 これにあわてたのが黒装束たち。急いで火の始末と回収作業をしようとするも、その横っ面に襲いかかったのがタヌキ娘とロボ娘。

「ケンカは先手必勝!」
「不意打ち上等っ、勝てば官軍!」

 どちらが悪役かわからないような攻撃をしかけて、まんまと連中を出し抜いたことにより、現場はますます混乱する。
 それにさらなる拍車をかけたのが、転がる鉄の丸棒の出現。電信柱っぽい形状の鉄の塊。
 こいつはおれが化けたモノ。ピラミッドの斜面を利用しての体当たり攻撃。一番敵勢が密集しているところを目がけてガランゴロン。
 狙いはどんぴしゃ。
 しかし敵もさるもの。さすがは身軽なムササビの忍びだけあって、無様に跳ね飛ばされたり巻き込まれたりするどんくさいのは、ほんの数名ばかり。
 それどころか転がる鉄の丸棒の進路上に立った宮本めざしが、その身に宿す舎乱螺二刀流しゃらんらにとうりゅうの剣技により「しゃらくさいっ!」と払いのけてしまう。
 鉄棒が宙を舞う。
 豪快に吹き飛ばされたそれは鳥居の列に突っ込み、いくつも薙ぎ倒し、衝撃にてたまらずおれの化け術も解けた。

「あ痛たたたた、あんにゃろう。木の棒だったら真っ二つにされているところだったぜ。しばらく見ないうちに、さらに強くなっていやがる」

 ふぅふぅ足掻きながら倒れた鳥居の山から這い出してきたおれに、宮本めざしが凄艶な笑みを浮かべる。

「あぁ、おかげさまにて聚楽第では剣の相手にはこと欠かぬのでな。あれ以来、充実した鍛錬の日々を送らしてもらっている。しかしだからこそ至高の剣が欲しかったのだが……」

 やはり宮本めざしの狙いは炎龍の剣であったようだ。
 けれども肝心の剣はいまや地中深くに潜ってしまっている。
 ゆえに是が非でも欲しいのが製法が載っているかもしれない秘伝の書。
 それを巡っては、炎と忍者たちとタヌキ娘とロボ娘たちがくんずほぐれつ、戦いを繰り広げている真っ最中。

「ええぃ、何をぐずぐずしている。馬鹿者どもめが」

 悪態をつきつつ、宮本めざしが放ったのは自身の大小の刀のうちの小の方。
 投げられた小太刀が突き立ったのは、でろんと舌をだすような格好になっている巻物の半ば。
 まだまだ迫る火よりもずいぶんと余裕がある箇所。
 なのにそこを狙った理由は次に発したヤツの言葉により判明する。

「前半の方なんぞは打ち捨ててかまわん。大事なのは秘中の秘が記されているであろう後半の部分だ」

 超長々と続く巻物。記載されてある情報。その重要度はきっと奥に行くほどに高まるはず。
 だから小娘たちと争いながら無理に消火などせずに、残りの部分を速やかに回収せよ。
 この命令を受けて動き出す忍びの者ども。
 させじとタヌキ娘とロボ娘も動く。
 そこに刀片手に突っ込む宮本めざし。
 遅ればせながらおれも勇んで馳せ参じる。

  ◇

 宮本めざしと対峙することになったのはタヌキ娘の洲本芽衣。
 ムササビ忍軍の羽茶組は数の優位性と連携を活かして三手に別れて行動。
 一手がネコ耳メイドロボの零号の押さえに、一手がおれこと尾白四伯に、残る一手が巻物の回収に。

 で、各々ががんばることになるのだが、すぐに拮抗が崩れたのは誰あろう、おれのところ。
 いや、だって相手は実力のある忍者が複数だもの。
 対するのはちょっと化け術が得意な街の探偵屋さん。混戦のどさくさに紛れてとかであれば、一撃ぐらい入れられるかもしれないけれども、面と向かって対峙したらそんな隙なんぞありゃしない。
 こちとらひたすら避けて、かわして、逃げるばかり。
 そのうち相手方にも「あれ? こいつ、なんだか弱いぞ」と気づかれてからは、もう一方的な展開。
 飛んでくる棒手裏剣を部分化けにて硬化してしのぎつつ、ひたすらキャアキャア逃げ惑うハメになる。
 ピラミッドをのぼって、いま一度変化アタックをぶちかましたいところだが、させじと相手も動く。巧みな連携により進路をふさがれ、じりじり追い詰められるばかり。
 でもやられっぱなしもしゃくに触るので、逃げるついでにだらりとのびて広がっている秘伝書のあちこちに火を放ってやる。花伝オーナーのスナック「昇天」でもらったブックマッチが大活躍。
 これにぶち切れたのが回収役を担っていた者たち。
 ついにはいっしょになっておれを追いかけ出したもので、「ひぃやぁ、お助けーっ」


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