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421 どんでん返し
しおりを挟む木人大将軍との戦いをどうにか制し、おれは化け術をドロンと解除。
で、全身を襲う痛みに悶絶する。
「痛い、痛い、痛い、あとなんだかそこかしこがヒリヒリする!」
シャツをめくってみれば、肌にはたくさんのミミズ腫れ。パッと見、ぴしりぱしりと特殊なプレイを楽しんだあとのよう。細く腫れあがっているソレらはヤケド。炎龍の剣と打ち合った名誉の負傷。
骨こそやってはいないけど、アザもいっぱい。ちょっとしたリンチを喰らった跡のようでなんとも痛々しいかぎり。まともな病院で診察を受けたらまちがいなく通報される状態にて、ヒドイあり様である。
あと腰もじんじん痛む。どうやらガンガンやり合った際に、その辺りに攻撃を喰らった模様。ちくしょう、せっかく治してもらったというのに……。
だというのに助手のタヌキ娘は探偵を労わるどころか、転がっている兜をつま先でツンツンしながら「この頭の飾り、かっこいい。せっかくだし戦利品としてここだけはずして持っていこうかしらん。でも本体はいらない。だってクサいんだもの」なんぞと言い、零号までもが木人大将軍の手により両断された黒鞘の破片を拾っては、しげしげと眺めていやがる。
「ったく、どいつもこいつも愛が足りん。こんなことならばしらたきさんを連れてくるんだった。優しい彼女ならばきっと腰に湿布を貼るのを手伝ってくれるから」
そのしらたきさんには探偵事務所の留守を任せてある。
まぁ、だからこそこうやって絶海の孤島くんだりにまで安心して出張していられるわけだが。
ぶつぶつボヤきながらおれはタバコを取り出し火をつけようとして、ふと思い立つ。
「おっ、そうだ。せっかくだから宝物の炎龍の剣で一服ってのもオツであろう」と。
だからさっそくライター代わりにしてやろうとするも、その肝心の剣が見当たらずにおれはキョロキョロ。
「あれ? 腕はあるのに剣がない。出入り口は……まだ鉄格子が閉じたままだから、連中に奪われたってわけでもなさそうなのに、いったいどこに消えやがった」
連中とはおれたちを泳がせて上前をはねようとしている、聚楽第のムササビ忍軍・羽茶組のこと。またぞろどざくさにまぎれて盗んだのかと疑うも、そうではないらしい。
首をかしげつつ落ちている右腕へと近づいたところで、おれはギョッ!
石床に穴があいていた。
底の方からグツグツグツグツ……。
何かが煮えたぎるような音がして、のぞき込んだら熱気がムフンと顔に当たり、たまらずおれは「うわっ」とのけぞった。
戦いのさなかに石床に突き立った炎龍の剣。
なおも熱を失うどころか、ますます血気盛んに轟々。
発生する高熱により石を溶かしては穴を開け、そのままずんずんずん沈んでゆく。
◇
穴をのぞき込んだタヌキ娘もすぐに顔をそらす。
「これはとても回収できそうにありませんよ。あきらめましょう、四伯おじさん」
「だよなぁ。まぁ、不可抗力ってやつだ。まさか持ち主の手を離れてもせっせと熱々になり続けるとは」
探偵と助手は言葉では残念がっているものの、二人はにへらと口の端を歪めている。
たしかにお宝は手に入れ損ねた。惜しくないかとえば、そりゃあ惜しいさ。けれどもそれは連中も同じこと。
ゆえにこれは「ざまぁみろ」の笑みである。ケケケケケケケ。
しかし人を呪わば穴二つとはよく言ったもの。
他人の不幸をあざ笑うものは、遠からず自分も同じような目に会う。
ズルリ、ズルリ、ズルリ。
何か大きく重たい物が動く音。
最初に気がついたのは零号である。
で、正体はじきにおれたちにも知れた。
教えてくれたのは天井からぱらぱら降ってくる砂埃たち。
ここにきて吊り天井のトラップが発動っ!
いきなりズドンと落ちてこないだけ良心的だが、最終的にはぺちゃんこにされるのは同じこと。
だからとっとと逃げねばならぬ。
しかし出入り口の鉄格子は閉じたままにて、そっちからはムリっぽい。となれば残るは大部屋の奥、木人大将軍がいたところ。
おれたちは急いで部屋を突っ切り、壇上へとあがり、御簾を払いのけて、奥へと踏み込む。
が、三方は壁となっておりどこにも出口なし。
「くそっ、このままここに潜んでいれば吊り天井はやり過ごせそうだが、そのあとがわからん。天井が落ちたままだと完全に閉じ込められちまうぞ」
「生き埋めミイラからの即身仏コースはいやーっ」
どこかに抜け道でもないものかと、あちこちバンバンしながら懸命に探す探偵と助手。
すると焦るおれたちに零号が言った。
「大丈夫です。省エネモードに移行すれば、一年や二年はへっちゃら」
「「こちとら全然大丈夫じゃねえよっ!」」
二人同時にツッコんだところで、壁の一部がガコンとへこむ。
で、くるんとそこの壁が丸ごと奥へと反転。
忍者屋敷ではベタな「どんでん返し」なる仕掛け。
待望の抜け道発見。
おれたちはすぐさま「ひゃほっ」と中に飛び込んだ。
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