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411 洞穴の祠
しおりを挟むゆっくりゆっくり慎重に。
公民館の扉を少し開けて中の様子を窺う。
耳をすませるも音は拾えない。おれが芽衣と零号の方を向くと、二人も無言で首をふる。どうやら潜んでいるものはいないらしい。
そこで今度は大胆に扉を開け放ち、屋内へと足を踏み入れた。
ひくりと鼻先を撫でる空気。
外部よりやや低く、独特の淀んだ感じ。これは長らく人が留守にした家の匂いに似たもの。少なくみつもっても一日二日ではこうはならない。どうやら何者かが公民館に侵入したのは一週間以上も前のことだったようだ。
公民館の中はシンプルな造り。
段差のほとんどない低い玄関間があり、スリッパがたくさん収納された棚があり、奥には二十畳ほどのスペース、そこの突き当りにはちょっとしたステージが設けられており、宴会のおりにはカラオケでも楽しんでいたのであろうか。
おれは足下を確かめつつ広間内をうろちょろ。
ちょいと陰気でカビ臭いものの、雨漏りもしておらず、床もしっかりしたもの。
これならば滞在中の拠点としても問題なさそう。
そうやって屋内の状態をチェックしつつ、ざっと検分した限りでは、とくに荒らされた形跡はなく足跡らしきものも見当たらない。
「……ヘンだな。扉を開ける手口は荒っぽいのに、中に入ってからは妙に慎重だ。ひょっとして中を漁らなかったのか?」
おれが首をかしげていると、広間の脇を抜けるようにして奥へと伸びていた廊下の方を調べていた芽衣たちの「四伯おじさん、ちょっとこっちきて」と呼ぶ声が。
廊下沿いにあったのは給湯室と倉庫に書庫。
どれもネコの額ほどの広さしかないものの、二人が問題視していたのは書庫の方。
四畳半のスペース、三方の壁際がすべて本棚となって内側にせり出しているものだから、さらにスペースを圧迫しており、人がひとり立ち入ったら、それで満杯。
棚に収められてあるのは郷土資料や、郷土史をまとめた冊子、それから業務日報のようなもの。
零号によれば何者かが動かした形跡があり、並びが一部乱れているだけでなく、何カ所か抜けがあるとのこと。
説明を受けて、おれも見てみるとたしかに不自然に薄埃が削られているところがちらほら。
「何か探し物があったってことか……。で、目ぼしい情報が載ってそうなところだけつまんでいったと」
「はい。このことからもどうやら島に出入りしているという者たちの狙いは、この島のどこかに隠されているという例のアレかと推察されます」
零号が口にした例のアレとは、大江一門の歴代頭領が「世に出したら危険」と判断した技術の数々が記された門外不出の秘伝の書、および「炎龍の剣」「雷龍の宝珠」「黒龍の勾玉」なんぞという宝物のこと。
島を去る際に、住民らもいちおう総出で探したというが、結局、見つからなかったんだとか。
頭のいい技術者集団が見つけられなかった品。本当にあるかどうかも怪しい存在ながらも、今回の時計島への上陸ついでにおれたちも「いっちょう宝探しと洒落込むか」と目論んでいたのだが……。
「まぁ、いろいろ気になるところだが、まずはざっと島の探索だな。村を中心にして、めぼしい施設跡を見て回って島の様子を調べないと。お宝関係はそれがすんでからだ」
今後の方針を決定し、うしろ髪ひかれつつも書庫を出たおれたち。
まずは広間に戻って拠点作りに着手する。
◇
持ち込んだ荷を解き、住環境を整えたところでふたたび表へと出たおれたち。
陽があるうちに廃村内の様子を把握しておこうと考える。
百戸ほどの集落。島特有の斜面に沿った段々な造り。ほとんどが山から降りてきた緑の占領下にあって見る影もないが、中にはしっかりと原型をとどめている家もある。
あと技術者集団の寄り合い所帯だけあって、ところどころに工房らしき平屋が点在してあった。おそらくは共同で自由に使える場所であったのだろう。
けれどもそれ以外はわりと普通の漁村といった雰囲気。
そりゃあ、こんな離れ小島だから魚でも捕らねば満足に食料を確保できないのだから、漁村であってもいっこうにおかしくはない。
しかしこの島を根城にしていたのは大江一門。
パカパカ仙人にしてもあの技術力の高さ。そんな連中が集まって暮らしていたにしては、あまりにも変哲がなさすぎる。
「地味だな。もっとこう忍者屋敷みたいなのを想像していたんだが」
「ふつうですね。ふつうに寂れた田舎の漁村です。ここと比べたらうちの実家なんて都会ですよ」
「……島を去る前にすべて処分したとか」
三者三様に意見を述べつつ、おれたちはキョロキョロしながら廃村を歩く。
じきに山側の村外れにて石の鳥居を見つけた。
「あげくには神頼みかよ?」
先進的な技術者たちの島だというのに。
ますます困惑しつつおれは鳥居をくぐり、芽衣たちもあとに続く。
草木が茂ってほぼほぼ獣道化している参道を行けば、待っていたのはうさん臭い洞穴。
浅く、ほんの二十メートルほどしかない。
奥に祀られてあったのは祠。
内部に奉納されているのは三枚の板絵。
真っ赤な炎の龍が剣をくわえて荒れ狂う姿と、蒼い龍が手に宝珠を持って雷雲を率いている姿と、額に勾玉のある黒い龍がとぐろを巻いてい陳座している姿と。
例の宝物をあらわす絵。
絵が宝物の在り処を示すヒントになっているとか、いかにもありそう。
だから三人でとっくり眺めるも、結局何もわからなかった。
依頼人に渡す報告書に添えるために、奉納絵ともども祠まわりを写真に納めてひきあげようかとしていたときのこと。
建物の裏手を気まぐれにのぞいた芽衣が「えっ」と素っ頓狂な声をあげる。
何ごとかとおもって駆けつければ、そこにあったのは石の台座に刺さった一本の剣……。
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