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375 たんぽぽ団地(仮称)
しおりを挟む詳しい場所を記すと関係各所に迷惑がおよぶのでサクっとはぶく。
府内北部の某所。
高度経済成長期を控え、みんなが浮かれて世の中全体がイケイケゴーゴーだった頃。
丘を削った高台を中心に建てられたのが「たんぽぽ団地(仮称)」である。
ひと棟で六十戸が住める五階建て。そいつが合計十三棟で構成されており、敷地内の中央にはシンボル的な給水塔がそびえ立つ。
海外のどこぞの有名な建築家のデザインらしく、団地内には随所にそれっぽいおしゃれ空間やら先鋭的な箇所が見え隠れ。
事実、建てられた当初は時代の最先端にて、庶民憧れの住居空間であった。
いまでいうところのタワーマンション的な位置づけ。
しかしそれも今は昔のこと。
築年数が六十を越えすっかりくたびれた。そこにかつての華やかさ、にぎわいはない。
というかすでに取り壊しが決まっており、住民たちはとっくに退去ずみにて、完全なゴーストタウンと化している。
加えて丘の地下深くにはほにゃらら断層とかいうのが走っていることが、近年の地質調査によって判明しており、一刻も早く解体をといった状況なのだが……。
「いざ解体工事を始めようとすると、いろいろ問題が起こるらしいんですよねえ」
丘のふもと、たんぽぽ団地へと通じる長がーい階段を見上げつつ、そう言ったのは車屋千鶴。
国税局八番課の人間が出張っている時点で、まともな案件じゃない。
だというのにカラス女ともども強引に連れてこられた。
「なんでおれまで!」
との真っ当な抗議については、「いやぁ、これまで二度ほど出張ついでに立ち寄ってみたんですけど、とくに何もなくって。そのくせ上からも下からも関係各所からも『早く何とかしてくれ』ってせっつかれて。どうしたものかと困っていたときに、尾白さんのことを思い出したんですよ」と車屋千鶴。
以前にとある屋敷の調査に赴いたときのこと。
たまさか彼女といっしょになって怪異に巻き込まれた苦い思い出がおれの中に蘇る。
オカルト現象により屋敷に閉じ込められるわ、へんな怪物どもに襲われるわ、地下でヤバそうな金庫を発見するわと、とにかく散々な目に遭った。
うーん。あらためて思い起こせば、アレ以来だ。なにかと怪異案件に煩わされるようになったのって。
おかげさまで、いまでは怪奇探偵尾白なんぞという不名誉なあだ名を拝命し、日々どこぞより送りつけられてくる心霊写真やら、髪ののびる人形やらに悩まされている。まったく、市指定のゴミ袋だってタダじゃないんだぞ。
「尾白さんってば怪異と妙に波長が合うみたいで。前回のことといい、白い腕の怪異を飼っていることといい、その引きの良さ、才能をぜひとも発揮してください」
車屋千鶴のべんちゃらにおれは唇を尖らせずにはいられない。
「そんなこと褒められてもちっともうれしくないやい。あと失礼なことを言うな。しらたきさんはうちのれっきとした第二助手だぞ」
「おやおや、これはとんだ失礼を。たしかにあの腕の淹れてくれたお茶は絶品でした。事務所内の掃除も行き届いていたみたいですし、聞けば事務仕事もお手の物だとか。うちにも助手として一対欲しいぐらいです」
おれと車屋千鶴がそんな会話をしている間中、カラス女こと安倍野京香はずっと憮然とタバコを吸っているばかり。
今回、カラス女は上司の命令によっての強制参加。案内役兼補佐といったところらしいのだが、態度はすこぶる悪い。不良刑事は自分のペースでバリバリ仕事をこなすのは好きだが、他人から指図されるのがいっとう嫌い。
なのに助っ人としてたんぽぽ団地の調査に借り出されたのは、ずばりツバサがあるから。
下から見ているだけではわからないことも、上から見れば……という発想。
その程度のこと、いまどきドローンでも使えばいいのに。わざわざカラス女を連れ出しているのは「機械の目だと捉えきれないから」だそう。
すでに業務用のドローンが数台投入されている。
しかしみな行方不明となっているらしく、「なかにはヘタなクルマよりも値が張る品もありますから、もしも持ち帰れば相応の謝礼が期待できるかも」との車屋千鶴の言葉に、おれは密かに特別ボーナスを期待していたりもする。
かくして急遽結成されたたんぽぽ団地調査隊。
隊員は怪異にはめっぽう強い。物理的に殴る系の陰陽師である車屋千鶴。
実弾戦ならおまかせあれ。高月警察きっての不良刑事にして引き金の軽さには定評がある安倍野京香。
いろんな物に化けられ、囮のエサとしても重宝しそうなおれこと探偵の尾白四伯。
その探偵にとり憑いて、第二助手しらたきさんにもご足労願ってある。どうせこんなことだろうと思ったから!
なおうちの第一助手であるタヌキ娘は学校ゆえに難を逃れた。
ちっ、運がいいやつめ。
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