373 / 1,029
373 カミナリ火事オヤジ
しおりを挟むいい歳をしたおっさんが、年端もいかぬ女子タヌキをあられもない姿にする。
「さすがにアウトでしょう。どん引きだよ」
「絵面が完全に犯罪シーンにしか見えない」
芽衣と玲花から物言いが入った。
おれも床にモロ出しでのびている栄吉を前にし、「さすがに女の子にこれはないな」とおおいに反省する。
そこで妙子の真紀のときには別教室にてみんなから隔離状態。なおかつカーテンでこしらえた即席のテント内にて直接触れずに布越し。さらに衣装についても気を配り、いざというときのために芽衣がスタンバイしての実施となる。
その結果……。
妙子はぐいぐいクラスを引っ張る委員長っぽい容姿となり、真紀は三つ編みの文学少女みたいな姿となった。
「ふ~ん、あたいが人間に化けるとこうなるのか。悪くないわね」
とは妙子。ツンとすまし顔ながら満更でもない様子。
「これがわたし……。どこもへんなところないかな?」
とは真紀。きょろきょろするたびに揺れるおさげ。やたらと背中を気にしているのは、うっかり尻尾が出ちゃっていないか心配しているっぽい。
「なんで坊主なんだよ! あとオレっちはもっとムッキムキのはずなのに」
やや不服そうなのは栄吉。想定よりもビッグじゃないあちらこちら。自分の姿にちょっとショックを受けているが、それでも人間になれた興奮がやや勝っているか。
紆余曲折あったが栄吉、妙子、真紀、それぞれが補助付きながらも人間の姿となることに成功。
鏡の前で自分たちの化けた姿に照れる彼ら。
これに俄然やる気を燃やすのが他の十六匹の子タヌキたち。
友人知人がやっていたらマネしたくなるのが子どもというもの。
いい感じで競争心があおられて、先生役のおれはしめしめとほくそ笑む。
そのときである。
コツンと鳴ったのは教室の窓ガラス。
おれは外で待たせていた特別ゲストその二の存在を思い出す。
「あー、そういやアイツらも呼んでたんだっけか。すっかり忘れてた」
雑草ボウボウのグラウンドより、こちらを見上げていたのはチーマーの集団。
地元でファイトクラブなどを運営している半グレ集団「ウインドサイズ」のメンバーたち。全員がイタチの若者。
どうしてそんな連中を呼んだのかというと、子どもたちに因縁をつけさせるためだ。
とはいっても、もちろんお芝居である。
芝居の筋としてはこうだ。
「おうおう、豆タヌキどもが集まって何をしているかとおもいきや、人化けの術の練習だあ? かぁーつ、あきれたね。化け術のひとつも使えねえなんざぁ、タヌキじゃねえ。あー、おかしいったらありゃしない」
イタチ野郎たちが一斉に「うひゃひゃひゃ」と小馬鹿にすることで、子タヌキたちに「ちくしょう、いまにみていろ。おまえたちをきっと見返してやるからな」と思わせるのが狙い。
だが子タヌキたちはすでにやる気モリモリ。
この調子ならウインドサイズの連中、いらなかったな。引きあげさせるか……。
なんぞと窓辺にて下を見ていたら、連中の背後から白い筋がゆらゆらと天へと昇っているのが目についた。
「うん? なんだあれ……って、げっ!」
白い筋がみるみる立派に育っていき、パチリパチリと根元ではぜる音がする。
よくよく見れば火がおこっていた。おそらくはタバコの火の不始末が枯草にでも引火したのであろう。
おれはすぐに窓を開けて外に向けて怒鳴る。
「おいっ、うしろ! うしろ!」
こんな僻地にまで呼び出されたというのに、ずっと待ちぼうけ。かとおもったら一転してわめき散らされキョトンとなるイタチのチーマーたち。だが、自分たちの背後にてメラメラ本格的に燃え広がり始めた火に気がついて「アーッ!」
地震カミナリ火事オヤジ。
実際にこれらと遭遇した体験がある者ならばおわかりであろうが、冷静かつ適切に対処できるのはよほど肝の座った者か、あるいはきちんと訓練を積んだ者ぐらい。
いや、よしんば訓練を積んでいたとて、本番になったら頭の中が真っ白になって満足に動けなくなることもしばしば。
ましてやおれたちは動物である。
でもって火のそばにいる元凶はイタチ野郎どもである。
期待するだけムダであろう。
「消せ、踏んで消すんだ」
言いつつ火を蹴飛ばすイタチその一。当然ながら火の粉がパッと飛び散る。
「おっ、そうだ! こんなときには」
ちゃかちゃかズボンのチャックを下ろし始めたイタチその二。お小水で消火を試みるも、肝心な時には緊張してちょろりとも出やしない。
「バカ野郎、水だ、水、あっちに水道の蛇口があっただろうが」
比較的まともだったイタチその三が校庭の隅にある水場へと駆け寄る。だがいくら蛇口をまわせども一滴も出やしない。それもそのはずだ。ここは廃校になってからかなり経っているもので、水道なんぞはとっくに止められているんだもの。
「こんな時は土だ。土をかけろ」
そう言ったのはイタチその四。着眼点は悪くない。でもグラウンドには雑草がぼうぼう。地面の下にはしつこい根がみっちみち。道具もなしにガシガシ掘り返すのは、けっこう骨が折れる状態。
ウインドサイズの連中があわてふためく様を上の教室から見ていたおれは「うーん、こりゃあまずい」といそいで外に。建物とかに類焼したらたいへん。
でもってドロンと「変化」
化けたのは大きな鉄板。
じりじり燃え広がっていた火を丸ごとボディプレス、強引に鎮火をはかる。
でもって周囲の細かい火の粉はイタチの若者たちにまかせることで、どうには本格的な火事へと進展することは回避するも、遠くから近づいてくる「ウ~ウ~」というサイレンの音。
どうやら煙を目撃した誰かが消防に通報した模様。
「うわっ、どうすんだよ、これ。廃校でボヤ騒ぎとか、絶対に消防の人に怒られる」
おれが変化を解いてふり返ったら、ウインドサイズのメンバーどもが本来のイタチの姿に戻ってすたこら逃げるところであった。
芽衣と玲花と十九匹の子タヌキたち?
言わずもがなであろう。タヌキはずんぐりした見た目に反して逃げ足は相当速いのだ。
すべてを押しつけられたおれは、ぽつんとひとり。
じきに到着した消防のオヤジどもから、どえらいカミナリをピカゴロどかん!
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治
月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。
なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。
そんな長屋の差配の孫娘お七。
なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。
徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、
「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。
ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。
ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。
我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな
ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】
少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。
次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。
姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。
笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。
なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜
菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。
まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。
なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに!
この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。

竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~
月芝
ファンタジー
庭師であった祖父の薫陶を受けて、立派な竹林好きに育ったヒロイン。
大学院へと進学し、待望の竹の研究に携われることになり、ひゃっほう!
忙しくも充実した毎日を過ごしていたが、そんな日々は唐突に終わってしまう。
で、気がついたら見知らぬ竹林の中にいた。
酔っ払って寝てしまったのかとおもいきや、さにあらず。
異世界にて、タケノコになっちゃった!
「くっ、どうせならカグヤ姫とかになって、ウハウハ逆ハーレムルートがよかった」
いかに竹林好きとて、さすがにこれはちょっと……がっくし。
でも、いつまでもうつむいていたってしょうがない。
というわけで、持ち前のポジティブさでサクっと頭を切り替えたヒロインは、カーボンファイバーのメンタルと豊富な竹知識を武器に、厳しい自然界を成り上がる。
竹の、竹による、竹のための異世界生存戦略。
めざせ! 快適生活と世界征服?
竹林王に、私はなる!
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる