おじろよんぱく、何者?

月芝

文字の大きさ
上 下
364 / 1,029

364 震撃のガッチンむつかけ

しおりを挟む
 
 パン! パパン! パン! パン! パン!

 釣り大会あらため外来魚駆除大作戦の現場近くにて、突如として鳴り響いた炸裂音。
 河川敷に捨てられてあったミカンの空き缶内にて、景気よく破裂するのは火をつけられた爆竹の束。

「なんだ?」「どうした?」「タイヤのパンクか?」

 みんなの注意が一斉に爆竹音へと集まったほんの一瞬の隙を突いて、雷光が閃いたのは枚方大橋よりもやや上流域の浅瀬。
 タヌキ娘である芽衣が腰まで水に浸かりつつ放ったのは……。

「狸是螺舞流武闘術、終の型、唯我独尊派生・震撃、お試しバージョン」

 唯我独尊は体内にて練りあげられたタヌキの悶々パワーをいっきに解放することで、爆発的なチカラを得る奥義。
 これをさらに進化させ、バケツをひっくり返すかのごとく無軌道に発散されるばかりのチカラを制御し、より精密かつ意のままに操るのが派生・進撃。
 姫路アニマルキングダムにて開催された獣王武闘会に参加するにあたって、芽衣が祖母葵より伝授された技。
 あいにくと未熟な芽衣ではまだまだ精密とはいかない。せいぜいが大中小ぐらいの大雑把な使い分けが関の山。
 今回のお試しバージョンは小である。
 右腕にのみチカラを集約し、蒼い光を集め、水面へと放つは掌底。

「狸是螺舞流武闘術、破の型、さざ波」

 衝撃波にて肉体の内側にダメージを与える技。固い表皮やぶ厚い筋肉や脂肪の鎧につつまれた巨漢すらもを一撃で悶絶させる奥義。それが派生・進撃によって通常時の数倍の威力を発揮する。
 直後に芽衣を中心にして大きな波紋が発生。
 水上ではやや波が荒れた程度。しかし水中では衝撃波がもの凄い勢いで駆け巡っていた。
 運悪く範囲内に居合わせた魚たちは、いきなり目に見えない攻撃によりガツンとやられることになる。
 結果として、気を失ってのびた魚たちが腹を見せて次々とぷかり浮かびあがることに。

 芽衣が行ったのはガッチン漁。
 石打漁とも呼ばれる漁法。水中の大石に他の大石をぶつけることで起こる反響音やら振動にて魚をピヨらせ、相手が目をまわしている間にちゃっちゃと回収する。ハンマーで川底の石を叩く方法もあるが、水の抵抗があって狙ったところにきちんと振り下ろすのがムズカシイ。うっかりミスって己の足の甲やらスネを殴ったりしたら悶絶必至。
 原始的な漁法のひとつとして世界中で似たようなのがある。
 ところや年代、文明や人種がちがえども、人間の考えることは似たり寄ったりなのかもしれない。真実は悠久の歴史の彼方。
 ただし、ひとつたしかなのは、こいつを最初に考え出したヤツはまちがいなく、めんどうくさがりのナマケモノであるということだ。

 タヌキ娘の一撃にて大量に浮かび上がった魚たち。
 その中から特に大きな個体を狙って飛来するのは、タエちゃんが振るう竿の先についた大きめの釣り針。
 水面ギリギリを疾走する釣り針。
 狙いをつけた獲物の上を通過した瞬間に手首を動かし、クンと竿をあげたタエちゃん。
 竿の先端がしなり、竿本来の柔軟性が発揮されて、戻る釣り針。だが帰りがけの駄賃にしっかり獲物の尾に針を引っかける。
 タエちゃんが行っているのは「むつかけ」と呼ばれる釣り。

 むつかけは、有明海の干潟に生息するムツゴロウを捕るための漁法。
 ムツゴロウ。
 大きさ十五センチほどのスズキ目・ハゼ科に属する魚。見た目は手足のないトカゲかデカいオタマジャクシっぽい。とにかく独創的な姿形。最初にこれを食おうと考えたヤツは、ナマコにチャレンジしたヤツに匹敵する勇者であるのにちがいあるまい。
 そんなムツゴロウだがとにかく敏感にして俊敏。近づく者の気配を感じたら、すぐさまぴょんとカエルのように跳ねて泥に潜ってしまう。
 よってまともに捕獲するのは至難。これを可能としたのが「むつかけ」なる釣りの技法。
 足場の悪い泥の海を潟スキーなる板に乗りくり出し、獲物を発見したら遠くから竿を振り糸の先につけた鉤針にて、相手の死角からシュバッと引っかける。
 達人がムツゴロウに挑む姿は、さながら猛禽類の狩りのごとし。
 たとえ全身泥にまみれよろうとも、伝統漁法を継承するその勇姿は荘厳で美しい。

 よもや有明海の達人たちも、遠く離れた畿内にて自分たちの技を勝手に継承している者がいようとは夢にも思うまい。

「よっしゃー大物ゲットだぜ、ってなんだこりゃあ?」

 まんまと獲物を引っかけいそいそリールを巻いていたタエちゃんが素っ頓狂な声をあげる。
 ナマズっぽいけどヘビみたいに胴長。今日の大会の釣果には見当たらない容姿。
 釣りあげ作業を手伝おうと岸に向かっていた芽衣は、その足で確認しようとしたのだが……。

「げっ、ばか、嬢ちゃんたち、うかつに近づくんじゃねえ! そいつはデンキウナギだ!」

 危険を報せてくれたのは自前の改造竿にてナイルパーチを釣ったあのおっさん。

「へっ?」「えっ?」

 二人がまぬけな声を発した直後のこと。

 バリバリバリバリバリバリ。

 瞬間電荷六百ボルトに到達し、ウマすらもノックアウトする電気ショック。
 そんなシロモノに襲われて芽衣とタエちゃんがそろって「「あんぎゃあ」」


しおりを挟む
感想 610

あなたにおすすめの小説

柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治

月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。 なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。 そんな長屋の差配の孫娘お七。 なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。 徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、 「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。 ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。 ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。

狐侍こんこんちき

月芝
歴史・時代
母は出戻り幽霊。居候はしゃべる猫。 父は何の因果か輪廻の輪からはずされて、地獄の官吏についている。 そんな九坂家は由緒正しいおんぼろ道場を営んでいるが、 門弟なんぞはひとりもいやしない。 寄りつくのはもっぱら妙ちきりんな連中ばかり。 かような家を継いでしまった藤士郎は、狐面にていつも背を丸めている青瓢箪。 のんびりした性格にて、覇気に乏しく、およそ武士らしくない。 おかげでせっかくの剣の腕も宝の持ち腐れ。 もっぱら魚をさばいたり、薪を割るのに役立っているが、そんな暮らしも案外悪くない。 けれどもある日のこと。 自宅兼道場の前にて倒れている子どもを拾ったことから、奇妙な縁が動きだす。 脇差しの付喪神を助けたことから、世にも奇妙な仇討ち騒動に関わることになった藤士郎。 こんこんちきちき、こんちきちん。 家内安全、無病息災、心願成就にて妖縁奇縁が来来。 巻き起こる騒動の数々。 これを解決するために奔走する狐侍の奇々怪々なお江戸物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

乙女フラッグ!

月芝
キャラ文芸
いにしえから妖らに伝わる調停の儀・旗合戦。 それがじつに三百年ぶりに開催されることになった。 ご先祖さまのやらかしのせいで、これに参加させられるハメになる女子高生のヒロイン。 拒否権はなく、わけがわからないうちに渦中へと放り込まれる。 しかしこの旗合戦の内容というのが、とにかく奇天烈で超過激だった! 日常が裏返り、常識は霧散し、わりと平穏だった高校生活が一変する。 凍りつく刻、消える生徒たち、襲い来る化生の者ども、立ちはだかるライバル、ナゾの青年の介入…… 敵味方が入り乱れては火花を散らし、水面下でも様々な思惑が交差する。 そのうちにヒロインの身にも変化が起こったりして、さぁ大変! 現代版・お伽活劇、ここに開幕です。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 辺境の隅っこ暮らしが一転して、えらいこっちゃの毎日を送るハメに。 第三の天剣を手に北の地より帰還したチヨコ。 のんびりする暇もなく、今度は西へと向かうことになる。 新たな登場人物たちが絡んできて、チヨコの周囲はてんやわんや。 迷走するチヨコの明日はどっちだ! 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第三部、ここに開幕! お次の舞台は、西の隣国。 平原と戦士の集う地にてチヨコを待つ、ひとつの出会い。 それはとても小さい波紋。 けれどもこの出会いが、後に世界をおおきく揺るがすことになる。 人の業が産み出した古代の遺物、蘇る災厄、燃える都……。 天剣という強大なチカラを預かる自身のあり方に悩みながらも、少しずつ前へと進むチヨコ。 旅路の果てに彼女は何を得るのか。 ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部と第二部 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!」 からお付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

御様御用、白雪

月芝
歴史・時代
江戸は天保の末、武士の世が黄昏へとさしかかる頃。 首切り役人の家に生まれた女がたどる数奇な運命。 人の首を刎ねることにとり憑かれた山部一族。 それは剣の道にあらず。 剣術にあらず。 しいていえば、料理人が魚の頭を落とすのと同じ。 まな板の鯉が、刑場の罪人にかわっただけのこと。 脈々と受け継がれた狂気の血と技。 その結実として生を受けた女は、人として生きることを知らずに、 ただひと振りの刃となり、斬ることだけを強いられる。 斬って、斬って、斬って。 ただ斬り続けたその先に、女はいったい何を見るのか。 幕末の動乱の時代を生きた女の一代記。 そこに綺羅星のごとく散っていった維新の英雄英傑たちはいない。 あったのは斬る者と斬られる者。 ただそれだけ。

処理中です...