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358 釣り大会
しおりを挟む晴れ渡る空、流れる雲、心地良いそよ風。
本日、絶好の釣り日和。
高月の地を縦断している芥川と南端を悠然とゆく淀川との合流地点。
そこに集いしは本日開催される市主催の釣り大会に参加する釣りキチども。
本大会は数を競うもの、長寸を競うもの、重さを競うもの、三つの部門で構成されており、各部門にて優勝すればなんとなんと! 立派なトロフィーと副賞として高月市内のみで使える十万円分もの地域振興券が授与される。二位は盾と三万円分、三位はメダルと一万円分。なお参加賞として記念ピンバッチがもれなく全員に配られる。
一攫千金を夢見て、あるいは週末の家族のレクリエーションの一環として、つき合いたてのカップルが距離を縮める目的、もしくは純粋に釣りを楽しむために集いし者などなど。
その中に女子高生三人組ぷらすお子さま二人という集団があった。
尾白探偵事務所が誇る暴れん坊タヌキ娘の洲本芽衣。その高校の友人である真っ当な人間のミワちゃんこと山崎美和子。同じく友人である金髪リーゼントがトレードマークであるヤンキーヘビ娘のタエちゃんこと白妙幸。その弟である白妙望くん小学二年生。望くんが密かに想いを寄せている同級生の瀬尾愛ちゃん。彼女もミワちゃんと同じく生粋の人間である。
ちなみに尾白探偵は参加していない。
ここのところの無理が祟ってついに腰をやらかした。ただいま摂津の湯にて尻をぬくぬく温め療養中。
「みんなはどの部門に参加するの? わたしはやっぱり一発大物狙いかなぁ。十万ゲットしたら何に使おう」
捕らぬ狸の皮算用をするタヌキ娘。
「私は数で勝負するよ。ブルーギルとか小っちゃいのならば記録をのばせそうだし」
手堅い判断をするミワちゃん。芽衣の周囲にいる貴重な人間枠にて良識を司る最後の砦。守り人は今日も手堅く堅実に生きている。
「オレも芽衣と同じで大物狙いかなぁ。重さで勝負してもいいんだが、あいにくと装備がよぉ」
持ってきた竿を見てため息をつくタエちゃん。最新のカーボンロッドとかであれば大きくしなり、とっても丈夫。しかし彼女の手にあるのは親戚のオジさんから譲ってもらったお古にて、三世代ぐらい前の品。いちおうはカーボン製だがその性能はだんちがい。野鯉のデカいのを釣りあげるのには、ちと不安。
「ボクは数の部門に参加するよ。せっかく大物がヒットしても子どものチカラじゃ無理だからね」
鳥の巣っぽいクセ毛の黒髪頭の寝ぐせを気にしつつの望くん。
すると愛ちゃんが「えー、そんなのつまんなーい」と不満を口にする。
意中の子から「つまんない男」と言われて、利発な望くんが「いや、だから、ボクは」ととたんにしどろもどろ。
日頃は歳に合わないマセた言動が目立つ望くんのそんな態度に、お姉さん方はそろってにやにや。
と、そこへ「みなさまごきげんよう」と声をかけてくる者あり。
白いキャップに偏光サングラス、赤のマウンテンパーカー、デニムのズボン、スニーカー……。
釣りガールのコーディネートでばっちり決めていたのは出灰桔梗。
高月城北商店街にある呉服店「阿紫屋」のお嬢さんで、高月南高校はじまって以来の才媛との誉高き白薔薇の君。その正体はキツネにて狐崑九尾羅刃拳の遣い手でもある。
頭脳明晰、容姿端麗、お金持ちの家の子。天から愛されまくっているような彼女だが、目下の悩みは校内に親しい友人がいないこと。突出した存在は孤立する。だから本日もぼっち参加である。
「なっ、どうしててめえがここにいやがるんだ? 桔梗」
「どうしてとはまたご挨拶ですわね、白妙さん。もちろん本日の外来魚駆除大作戦に参加するためですわ」
外来魚駆除大作戦。
乱れる自然環境。増え続ける外来種。せっせと回収してもちっとも減りやしない。かといって毎度毎度、流れをせき止めたり、水を抜いて底をさらっていては予算がいくらあっても足りやしない。
でもって散々に苦労してもワンシーズンで元の木阿弥。連中の繁殖力は半端ないのだ。
これではザルで海の水をすくっているようなもの。
そこで市政を司る者たちは知恵を絞りに絞った。
こうして開催される運びとなったのが釣り大会。
最低限の予算にて、以前に何かのイベントで作った不良在庫のピンバッチ一個で働いてくれる労力を大勢確保し、せっせと外来魚を釣り上げて退治してもらい、なおかつイベント成功で行政の好感度アップ。
得られるモノの大きさに比べたら、賞金なんて安いもの。
地域振興券だって地域限定、期限つきなので、市内に還元されては巡りめぐって最終的には税金として市の懐に戻ってくるという寸法。
みんなでハッピー、Win・Win。
「負けませんからね。ではお互いがんばりましょう」
内幕を暴露してから出灰桔梗は狙うポイントの下見へと意気揚々と向かった。
残された一同は微妙な表情となる。
「賢いやり方だけどなんか腹立つなぁ」と芽衣。
「こうして民草は施政者たちにいいように踊らされるんだね」とミワちゃん。
「だったら最初っから『外来魚駆除大作戦』でいいだろうに」とタエちゃん。
「大人って……」と望くん。
「でも、ぜい金をムダ使いされるよりかはずっといいと思うよ」と愛ちゃん。
かくして各々が複雑な気持ちを抱えたまま、いざ、釣り大会ならぬ外来魚駆除大作戦スタート。
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