おじろよんぱく、何者?

月芝

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355 水入り

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 おれこと尾白四伯と紫苑姫さまがまったり歓談しつつ、暗黒騎士こと結城平成とレジスタンスの結城明星が兄妹ケンカをし、タヌキ娘がレジスタンスの仲間らと駅前の二十四時間営業の牛丼屋で反省おつかれさま会をしていた頃。
 ケヤキ自由連合とハイゼルコバ帝国。
 両軍がぶつかり合っていた戦場もいよいよ佳境へと差し掛かろうとしていた。

 混戦のさなか、ある者は雄叫びをあげ、ある者は無念のうちに膝を屈し、数多のダンボール戦士たちが散ってゆく。
 数的には一進一退の攻防。
 ただし帝国側にはまだ無傷の移動要塞がある。
 攻城戦の至難さはあらゆる兵法の達人たちも認めるところ。
 鹵獲したダンボール巨人兵を駆り暴れていた結城現代の表情にも焦りの色がにじむ。
 帝国機の二体のダンボール巨人兵を相手にし、単身奮戦していた鹵獲機ではあったがすでに右腕はもげ、あちこち装甲もはげ、全身がボロボロ。活動限界は時間の問題。

「このままではだめか……。かくなるうえは」

 覚悟を決めた結城現代が叫ぶ。

「同胞たちよ、オレの屍を超えてゆけぇぇぇぇっ!」

 鹵獲機が急に走りだし掴みかかったのは、帝国機の一体。
 腰に抱きつきがっちり左腕をまわしたとおもったら、そのままチカラまかせに押し始めた。
 捕まえられた帝国機がさせじと踏ん張ろうとするも、足が地面につかない?
 鹵獲機によってほんのわずかながらも持ち上げ気味にされていたせいだ。
 させじともう一体の帝国機が横合いから邪魔をしようとするも、死兵と化した鹵獲機はボコボコにされながらも止まらない、止められない。
 三体の巨人兵が絡み合いながら戦場を一直線に突き抜け、向かう先には移動城塞。
 玉砕覚悟の体当たり。
 鹵獲機の狙いに気がついた移動城塞側が投ダンボール機にて迎撃を行うも、当たるのは味方機にばかり。それもそのはず、担いでいる敵機を鹵獲機が盾としていたのだから。

 勢いのままに巨人兵たちが移動城塞へと激突!

 直後に衝撃で大地が震えた。
 盛大に土煙が舞い上がり巨人兵は大破。
 じきに視界が戻ってきたとき。
 あらわとなったのは崩壊した城壁と、そこへ通じる一本の道。 
 ケヤキ自由連合軍総大将・結城現代、執念の特攻による結実。
 道は開かれた。
 あとはただ一心に突き進むばかり。

  ◇

 総大将の壮絶な最期をみせられて奮い立ったのは、ケヤキ自由連合のダンボール戦士たち。勝利へと至る道へと雄々しく殺到する。
 させじとハイゼルコバ帝国側のダンボール戦士たちも立ちふさがる。
 ここが第三次大遠征の戦いの行方を左右する分水嶺。
 全ダンボール戦士たちが命の捨て場所はここぞとばかりに奮戦する。
 怒号が渦巻き、敵味方が入り乱れての大乱闘。
 誰もが必死であった。わき目もふらず、ただ目の前の相手を全力で叩きのめすことのみに集中する。

 そんな戦場ゆえに異変に気がつくまでに時間がかかってしまう。
 いつの間にか足下が微細ながらも揺れていた。
 そりゃあこれだけのサルどもが暴れているのだから、地面のひとつも震えるというもの。
 が、なにやら様子がおかしい。

「あれ、ひょっとして地震か?」

 誰かが首をひねったところでアスファルトにびきりと不気味な音が鳴り、亀裂が走って、勢いよく噴き出したのは水柱。
 見上げるほどの長大かつ勢いは間欠泉のようであり、とにかく凄まじいのひと言。
 どうやら経年劣化で老朽化していた水道管が、サルどものはしゃぎっぷりを受けてついに限界を迎えた模様。
 そんなシロモノが一帯に複数、突如として出現したものだから、さぁ、たいへん!
 なにせダンボール戦士たちにとって、水は最大の天敵なんだもの。

「管理不行き届き、市政の怠慢だ」
「これがウワサのインフラ・クライシス!」
「ぎゃあ、おれの制作期間三か月の力作装備が」
「バカ、それどころじゃねえ。あれを見ろ」
「げっ」

 あわてふためく一同が見上げた先では、じょぼじょぼ水をかけられて、すっかり濡れそぼった移動城塞。
 小学校の体育館ほどもある巨体がへにょんとなってぐらり。
 ダンボール箱の山は強度を失って大きく傾いでいた。
 それも自分たちの方へと向かって……。

「そ、総員退避、退避ーっ」「に、逃げろーっ」「うわーっ」「ぎゃあーっ」

 かくしてダンボール戦役・第三次大遠征の前線は崩壊し、敵味方びしょ濡れとなり、戦いは文字通り水入りとなった。ちゃんちゃん。

 ……そうはイカのキンタマ。
 遊んだオモチャはちゃんとお片付けをし、散らかしたらきちんと掃除をするのがマナー。
 水道管の破損事故の復旧工事は専門の業者さんに任せるとして、辺りに散乱しているびちびちに濡れたダンボール片のゴミは回収しないとさすがにまずい。
 というわけで、つい先ほどまでやり合っていたハイゼルコバ帝国、ケヤキ自由連合、双方のみなが仲良く肩を並べての清掃活動に勤しむことに。
 紫苑姫さまとの歓談中に一報を受けたおれもこれに参加する。
 先に引きあげていた芽衣たちにも連絡をしてみたが電話がつながらない。たぶん逃げたな、ちっ。

 ドロンとダンプカーに化けての運搬作業にて大活躍。
 最後によもやこんなオチと見せ場が控えていようとはな。
 百化けの尾白探偵、面目躍如……なのかしらん?


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