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352 猿力駆動式ダンボール巨人兵
しおりを挟む尾白たちレジスタンス突撃強襲部隊は、帝国の卑劣な罠にかかって絶体絶命のピンチ!
それと時を同じくして、第三次大遠征の戦場でも新たな動きが……。
ハイゼルコバ帝国陣営から出現した移動要塞。その要塞からの投ダンボール機による攻撃にさらされ、ズタズタに陣を斬り裂かれたケヤキ自由連合。
進軍を開始した帝国軍が国道を渡り南下。
迫る脅威に対抗すべく混乱する味方をとりまとめ奮戦をうながすのは、ケヤキ自由連合軍を率いる結城現代。
どうにか陣容を整え迎撃へと移行しようとした矢先のことであった。
さらなる脅威が戦場に降臨する。
ゆらり、がしゃん。
ゆらり、がしゃん。
ゆらり、がしゃん。
角ばった肩を左右に揺らしながら歩くのは、雲をつくようなダンボールの巨人。
というのはいささか大袈裟だが、それでも小学校の体育館級の大きさを誇る移動要塞と並んでも遜色ない程度には立派なのっぽさん。
長い手足をひょこひょこと動かしながら、前線へと向かってくる。
その数は三。
ありえない異形の登場におそれおののくケヤキ自由連合。
それを前にして帝国兵の誰かが誇らしげに告げる。
「どうだ、おそれいったか? あれこそが此度の戦いの決戦兵器・猿力駆動式ダンボール巨人兵だ!」
説明しよう。
猿力駆動式とは人力のエテ公バージョンである。
巨人の内部では複数のサルどもが古代ローマの奴隷のごとく「えんやこら」とダンボール製の歯車を押して回しては、せっせと動力を産み出しているのだ。
ちなみに巨人兵に使用されているすべてのパーツはダンボール製である。ワイヤー類はダンボールの繊維を砕いてほぐして、ふたたび寄り合わせて紐状にするという念の入れよう。装甲の継ぎ目は宮大工の巧みの技を応用させてもらっている。
帝国が誇るクラフトマスター渾身の力作。
◇
味方の頭の上をひょいと超えて最前線へとあらわれたダンボール巨人兵。
その足が無造作に蹴りあげられる。巻き込まれたケヤキ自由連合のダンボール戦士たちが多数、たちまち吹き飛ばされて強制退場させられる。
その腕がぶぅんと横薙ぎ。まるでテーブルに積もったホコリでも払うかのような仕草。これによりやはりダンボール戦士たちがなすすべもなく散ってゆく。
圧倒的であった。
死神の巨体が戦場を席捲し、敵勢を蹂躙する。
巨人と小人、あるいは子ザル同士のケンカに親ザルどころか、屈強なマウンテンゴリラの群れのボスがいきなり乱入してくるがごとき、おとなげのなさ。
そんなシロモノが三体も暴れている。
もはやケヤキ自由連合側の戦意は風前の灯火かとおもわれた。
だが……。
「臆するな、自由と平等と怠惰を愛する誇り高きシティ・サバイバーたちよ。オレに続けーっ!」
ダンボール巨人兵の剛腕の下をかいくぐり、暴風のごとき蹴りをかわし、突進するのは誰あろう結城現代。大将軍みずからが先陣へと立ち、戦場を駆ける。
相棒の双剣を引っ提げ進む歴戦の猛者。
その姿のなんと勇ましいことか。
感銘を受け鼓舞された数多のダンボール戦士たちが、これに続く。
一方的に散らされるばかりであったケヤキ自由連合側がついに反撃へと転じる。
四方八方からダンボール巨人兵を囲んでの波状攻撃。
まるで角砂糖に群がるアリのごとく、巨人兵へ次々とダンボール戦士たちが張りつく。
いち早く巨人兵の足へ刃を突き立てた結城現代。
一番槍の誉、雄叫びをあげつつ、そのまま巨人の身を伝ってのぼり始める。
サルは木登りは大得意。町を拠点とするシティ・サバイバーとなったとてそれは変わらない。ブロック塀にビルディング、電柱などなど。日々コンクリートジャングルで鍛え上げた四肢が躍動する。
勢いよくのぼってくる敵兵に気がついた巨人兵がこれを払い落そうとするも、今度はその腕に張りつき、さらに進む。
で、首のうしろの方にて搭乗口らしき扉を発見!
「おらぁ」
と蹴破り、結城現代は勢いのままに内部へと単身突撃を敢行。その戦いぶりはまさに鬼神のごとし。
味方らもこれにわずかに遅れて続く。
その結果、三体いるうちのダンボール巨人兵の一体を制圧することに成功する。
で、せっかく鹵獲した決戦兵器、使わない手はない。すぐさま運用を開始。
◇
ダンボール巨人兵同士の戦い。
結城現代に鹵獲された機体が帝国側の機体へと襲いかかる。
鹵獲機からの不意打ちショルダータックル。
喰らって吹き飛ばされた帝国機、そのまま盛大にズデンと尻もちをつき、近くにいた敵味方を多数巻き込む。
これを見た帝国機のもう一体が即座に状況を把握し、応援に駆けつける。手近な電線に片足をかけびよ~んと大きくジャンプ。巨体が宙を舞いそのままドロップキック。
背中からこれをモロに受けた鹵獲機はたまらず転倒し激しく横転。これまた多数の敵味方を巻き込む。
巨体同士がくんずほぐれつ三つ巴。
その周囲では帝国軍と自由連合軍のダンボール戦士たちが入り乱れての混戦へと突入しており、上空を投ダンボール機より放たれたダンボール弾が飛ぶ。
前線はすでにしっちゃかめっちゃか。
現状を招いたのは帝国側の明らかなる失策であった。
いっきに自由連合側の戦意を喪失させようと、決戦兵器の投入を急いだのが原因。いささかタイミングが早すぎたのである。
いかにまだ移動要塞が健在とはいえ予断は許されない。
戦局はますます混迷の度合いを深めてゆく。
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